平成11年12月19日・初版

電波人間タックル・ミレニアムの悪夢/ペースケ・著

「今年もあと少しね」 岬ユリ子は小雪が舞う夜の街を一人歩いていた。 「茂もどっかいっちゃうし。もうホテルに帰ろうかな」 楽しそうにしているアベックを横目で見ながら、繁華街のはずれのホテル に向かった。 「ブラックサタンも今日だけは襲ってこないのかしら。でも油断はできないわ」 ユリ子はベットに腰掛けて、テレビのリモコンをオンにした。画面では年末の 恒例である某国民的音楽番組がまさに終わろうとしていた。 「いままでは家族でこれを見ていたのよね」 ユリ子の記憶になつかしい家族の顔が蘇る。しかしその家族もブラックサタンに すべて殺されたのだ。 「許せないわ、ブラックサタン」 テレビの画面は寺の境内を映していた。遠くで鐘が鳴っている。 「うん?」 ユリ子はその画面の中で、境内にいる群衆に目を止めた。 「あれはタイタン!」 コ−トのえりをたて、人ごみにまぎれて歩いているのはまさしく一つ目タイタンの 人間に変身した姿であった。 「あんなところで、いったいなにを」 ユリ子は場所を確認すると部屋を飛び出した。そして地下駐車場で変身すると テントローに乗り、タイタンのいた寺を目指した。 「タイタン、ここで何をしているの」 墓地の中で立っているタイタンは、その声がタックルであることを認めると、不敵 な笑いを浮かべて応えた。 「これからおまえの葬式をするので、その準備にきたのさ」 「なんですって。部下の一人も連れないで、よくいうわね」 「フフ、今日は部下もいらん。なにもしなくてもおまえを倒せるのさ」 「よくもそこまで私をバカにしてくれるじゃない」 「そうとも。おまえはオオバカだ」 「くやしい、そこまでいわれて私も黙っていられないわ」 「じゃあどうすんだ」 「こうするよ、電波投げ!」 「俺には効かんぞ」 確かにタイタンに電波投げが通じないのはタックルも知っていた。しかし タックルはタイタンに技をきめたのではなかった。 タイタンの背後から、卒塔婆が束になってタイタンを襲った。 「ぐっ」 卒塔婆に1本がタイタンに突き刺さった。タイタンはその場に倒れこんだ。 「どう、女を怒らせるとどれだけ恐いか思い知ったでしょ」 やがてタイタンはその本来の一つ目の姿でゆっくりと起きあがった。 「ぐ.......このアマ、大人しくしてれば、つけあがりおって」 タイタンは背中の異物を抜き、タックルを睨みつけた。 「いいか、あと数分でお前はおしまいだ」 「なに言っているの、そっちこそおしまいよ」 寺の鐘が低く静かに鳴っている。 「あの鐘の音がおまえの死のカウントダウンだ」 「それはこっちのセリフよ」 タックルはタイタンに蹴りをくわえた。タイタンは肩越しにかわした。 「フフ、あと10秒だ」 「うるさい」 タックルはタイタンの顔面にパンチをぶつけた。タイタンはそれを右手で 受け止めた。 「は、放せ」 「スリー.......ツー.......ワン.......ジ・エンド」 またひとつ鐘が鳴った。 「うっ」 タックルの中で何かがはじけた。タイタンがまた静かに笑った。 「終わったな」 「な、なにを」 タックルの体の中で、そこらじゅうの回路が暴走していた。メモリーがどんどん 消去していく。 「ああ、体が」 タックルは立つ力をほとんどなくなっていた。タイタンに手を捕まれながら、 膝を落としていった。 「タイタン、なにを.......」 「なにもしておらんよ、岬ユリ子」 「うう、力が、力が抜けていく」 「フフ、そうだろうな」 「うう.......」 「もう終わりだな」 「いったい、どうして.......」 「そうだな、冥土の土産に教えてやろう」 タイタンはタックルの手を放した。タックルは地面に横たわった。 その腹にタイタンは足を押し付けた。 「ウグぐぐぐ.......」 タックルはうめいたが、体がまるで動かない。 タイタンはタックルを見下して、ポケットからチップを取り出した。 「おまえが動けない理由は簡単さ。2000年になって、お前の中の制御マイコン チップが暴走しただけのことだ」 「あっ.......そ、そんな」 「ブラックサタンで改造されたお前は、このチップに交換しない限り 生きてはいけないのだ」 「えっ、じゃあ、私は.......」 「そうだ、もはや俺のものとなったわけだ」 タイタンはタックルの股を大きく開き、赤のホットパンツを切り裂いた。 「きゃあああ、やめてーーー」 「ここもついでに改造してやろう」 タイタンは白い手袋のまま、タックルの股間を攻撃した。 「ああ、そこは.......」 「ハハハ、ここはまだ生身だったか」 タックルの目から涙がこぼれた。人間である部分を攻められ、あらためて 自分が女であることを意識した。 「これからおまえはブラックサタンの真の改造人間に生まれかわるのだ」 「そんなことになるなら、死んだほうがましよ」 「どうせ、お前の持っているチップを交換すれば、おまえの生意気な意識 もなくなるのだ」 「ああ、じゃあ私は.......」 「そうだ、これで本当に終わりさ」 タイタンはタックルの胸をはだけさせ、チップを取り出した。タックルの 体はビクッとして、白目をむいた。そしてタイタンが新しいチップを挿入 すると、再びタックルの心臓が動きだした。 「立て」 「ハイ、タイタンサマ」 そこに正義の戦士はすでにいなかった。 *****完******