平成12年7月30日・初版















超力戦隊オーレンジャー外伝・束縛!!耐える樹里/サワキ・著

 バン!
「さあ、言え!」
 マシン獣の冷たい手が机に叩きつけられた。樹里の目の前、それでも彼女は動じなかった。口から赤いものが流れて落ちていた。頬がピンク色に腫れ上がっていた。額に赤紫色の痕が出来ていた。目は死んでいた。髪は荒れていた。鼻が曲がり加減になって、その整った顔が無惨になっていた。
「言うんだ!」
 バン! 再び机を叩く。非人間的、まさにマシン獣という声が部屋にこだまして消える。
「・・・・・・」
 黄色い戦闘服も白いブーツも、微動だにしない。黄色いマスクは破壊されていた。――不意打ちをつかれた。戦い、負けた。吾郎達が駆けつける時間も無く、迅速なやり方だった。変身を解いて軍服に着たかった。しかし月面バラノイア帝国に搬送されてきた自分には、今現在なんの自由もない。
 後ろ手、椅子の背中に手錠。片足ずつ椅子に固定。
「機密情報コンピューターに接続する、アクセスコードはなんだ!」
 言ってしまえば殺される。戦争での常識。機密情報をばらしてしまった捕虜など、邪魔になるだけだった。特にオーレンジャーなどは常にその存在を狙われている。こんなことをしないで、殺害してしまった方が、調子がいいに決まっている。
「アクセスコードは、毎日変わって・・・・・・」俯き加減の赤い唇と唇の間から、音が漏れてくる。「だから、あなた達が知っても無駄よ」
「毎日変わるなら、言ってしまえばいいだろうが!」
 マシン獣は拷問専用に設計されていた。だから、怒ることもないだろうし、何としても口を割らせるはずだった、そして今まで、星々を攻略してきたとき習得した、様々なテクニックを、生き物に対して行うテクニックを、心がけていた。
「・・・・・・」
 樹里は黙る。と、黄色い戦闘服の黄色いスカート状の所を、微かによじっていた。マシン獣が持っている高性能探知機の、センサーはそれを見逃すはずもない。そして瞬時に生態機能の探査モード。次の時には様々な生き物の生態ファイルを照合して、それが何であるかを推測して、予測する。
「う、う・・・・・・」声を漏らす。とても小さい声だが当たり前に音声センサーが、それを見逃さない。
<と、トイレ>
 そんな脳の思考さえも、コンピューターは見逃さない。情報が照合され、全ての結論に達しさせる。黄色い体のピクピクという動きは、拷問マシーンのマシン獣に全て見逃されず、記憶される。
 樹里はしかしトイレに行けるはずもない。と、耐えるための結論に達していた。まだそれは遙か遠かったが、遙か近かった。誰かに見られているような――見られていないような、感覚がする。体の奥底まで射抜かれているような感覚がする。しかし誰にも見られていない。
「さあどうした?」うって変わって、甘い口で聞く。声質が全く違う。「いえないのか? えぇ?」
 ピー。
 コンピューターが人間の可聴領域を越えた電子音を発する。近くで「他」がその電子音に反応して行動を開始しようと、スタンバイモードに入った。
<トイレに行きたい・・・・・・>
 人間の生理はどうしようも抑えようがない。樹里の思考は瞬く間に、人間の最も原始的な思考に支配されようとしていた。
 ピーピーピピ。ピピピー。ピピーピ。
 マシン獣の指令は至る所へ飛ぶ。樹里の耳の外で広がる。この「部屋」という要素の外で、様々な「もの」がスタンバイモードに入り、また始動していた。
「えぇ? なんかいったらどうなんだ」
 口調の変化など、樹里は気づく余裕がなかった。黄色い足の、軍隊で鍛えられた筋肉をよじり、何とか感覚を誤魔化そうとしていた。しかしそれは、樹里の感覚が気づく以前に、少しずつ大きくなり始めていた。黄色い体に、マシン獣は動じることなかった。だから、樹里自身も気づくことがなかった。
「ん・・・・・・ん・・・・・・」
 少し大きくなったが、それでもまだまだ微かな声が起きて消えた。
「どうした? オーイエロー? あぁ?」チンピラのような話し方だった。
 オーイエローの戦闘服の下、超力に包まれた肉体が、べっとりとしだした。体中の汗腺が大開きになって、大量の水分を排出した。しかしそんなもの、股間の感覚解消にはまだまだ足りなかった。
 マシン獣に指令された機械の一つが、上、天井裏で蜘蛛のように稼働していた。オーイエロー用に設置された小さな空気製造装置が、天井裏に設置されていた。
 俯き加減が深くなる。樹里はそんなことに構っていられない。潮流はあっという間に迫ってくる。今、拷問中という事実も、白い手袋と白いブーツを押さえつける冷ややかな感覚以外は、忘れさせた。マシン獣の音声が宙空で漂っているように思えた。
 蜘蛛型機械が空気接続装置が固定されると短い電子音がして、1秒後に終了の合図が来て、動作が終わり、機械が止まる。
「オーイエロー。二条樹里どうした?」
 バン! バン! バン!
 三度机が叩かれた。それにびくっとしながらも、それによって潮流が一気に引いていく、感覚がした。意外なことだった。
「あ・・・・・・」
「あぁ? なんだ?」
「ほっ・・・・・・」
 樹里は息をついた。樹里の額に脂汗が浮かぶ。額の傷口に汗が混ざり、弱い電流が流れた。
「ふん」
 マシン獣は全てを見知っている。空気に分子が混ざり排出されてくる通知が、体内センサーに現れた。
「どうしても言う気ないのか?」
 今、マシン獣にとって尋問は第三番目くらいのことになっている。だから、どうでも良くなっている。
「・・・・・・言う気なんてある分けないでしょ」
 微かな笑みが樹里の口元に浮かぶ。しかしその笑みが浮かぶ理由は? と、問われれば、自分にとって、女性にとって、恥ずかしいことだと思い知らされる。恥ずかしくなる。
 少しでも動けば、束縛している感覚を受ける。しかし今頃、吾郎達は救出のための計画を立てているはずであり、樹里はそれを希望にしていた。

 
「うわっ・・・・・・うう・・・・・・ああ・・・・・・」
 思わず、声を漏らしてしまった。引いたかと思われた潮流が、怒濤の勢いで自分の黄色い足と足の隙間に、押し寄せてきた。
「漏らせよ」
 くくっ。と笑って、マシン獣が言った。樹里はその言葉に、はっと言葉をあげた。
「分かっている。オーイエロー。お前が生物が必ず誰しも起こす『生理現象』に見回れている、とな」
 すべて計算された馬鹿にした笑いが、樹里に向かって投げかけられた。しかし構ってくる暇がなかった、言葉に対して反抗する間がない。潮流は勢いついていた。それをなんとか留めるのに、樹里は頭がいっぱいだった。
「ほら、どうした? オーイエロー!」
 彼女の長髪を冷たい手が掴み、引っ張り上げる。俯いていた顔が引き上げられて、マシン獣の視覚装置と、樹里の瞳が交差する。瞳は懇願していた。しかしそんなものがマシン獣に通じるはずもない。
「構わないぞ。漏らしても」
 マシン獣が言う。情報の中にも、知的生命体は「トイレ」というものを使って、生理現象を済ませると、在る。その「トイレ」というもの以外で済ませると言うことは、知的生命体によって、屈辱だ、ということも、在る。
<こんなマシン獣に・・・・・・>
 樹里の目が怒りに燃える。そんなもの、マシン獣には判明していても、理解されない。
「ほら、どうした? 実はな、空気の中に『。。<。。””』という薬品を混入させた。地球で言う利尿剤だな。分かるか?」
 樹里は大学時代の授業の一辺を思い出した。利尿剤。尿が出るのを促進させる薬だった。
「な、なんでそんなもの・・・・・・ああぁ」
 潮流が行ったり来たりしている。いくらマシン獣の前でもそんなこと許されない。
「しようがない」
 マシン獣は手という要素の指という要素をオーイエローの黄色い股間に伸ばした。
 樹里は頭を回して抵抗した。椅子を揺らして抵抗した。しかし無駄だった。
 マシン獣の指という要素がオーイエローの股間に触れた。柔ら堅い感触。それをマシン獣は無視して、グニョグニョと力任せにスカート状になっている黄色いところへあてがった。
「ああん!・・・・・・うあああぁ、はぁん」
 樹里は体を動かせる限り動かした。髪に伸びた手は離された。椅子が倒れた。マシン獣はそれを見ていた。マシン獣の足下で、椅子に縛られた黄色い超力に包まれた体を振り回されていた。と、不意にそれが止む。開放。体中が開放されていく・・・・・・。肉と戦闘服の間を水分が駆け抜けていく。たまらなく嫌な感覚。
「ああああああ」かなり経ち、すべて流れた。
 開放され、安心はした。しかし羞恥心が体中を循環していった。こんな――。
「うはははははははは」樹里がマシン獣を見上げた。マシン獣の足下で樹里はいい表せぬ顔をしていた。「オーレンジャーも生理現象には勝てないか――えぇ? オーイエロー。お前はなにをしているのだ」
 幼稚園の時の、忘れ去られていた記憶が、樹里の頭に蘇ってきた。――漏らして、いじめられた。今とは状況は似てもいて、似ていなかった。それからかも知れない。二条樹里が強くなろうとしたのは。
「ほら、オーイエロー」
 マシン獣は再び、樹里の股間を今度は二本の指でまさぐり始めた。
 樹里の力はほとんど無くなっていた。戦いと、拷問でほとんど尽きかけていた。抵抗すら出来ない。そのところにこれが来た。体中に尿が回る。体中が暖かくなる。まったく外に漏れることなく、すべてが肉と戦闘服の間を回っていく。
「あああ・・・・・・ああ・・・・・・」
 樹里は黄色い体の内側の体内に残っている尿をピクピクと、噴出させた。マシン獣の指がそれを絞り出していた。
「俺様の辞書から行けばこっちの方がいいようだな」
 黄色いスカート状の所から手を離し、スカート下へ手が潜っていった。
「うぁぁぁ」
 手や足が動きたいと、唸っている。
「そして」マシン獣はもう片方の指を伸ばした。「こんなこともいいみたいだな」
 手が樹里の白い首に来て、模様の施された胸上部へ行き、そこから胸下部まで行くと、そこに手を沈め、上へ持ち上げた。戦闘服に抑えられていた、樹里の胸の形が露わになる。
そしてマシン獣はそこを動かし始めた。
「ああ・・・・・・うぁぁ・・・・・・はぁはぁ・・・・・・」
「ほらほら」
 樹里はもうしゃべるどころではなかった。体中を、超力の上から刺激されている。超力は恐ろしいものである。ダメージは緩衝されるが、体をまさぐるその行為をスーツは攻撃として認識しなかった。と言うことは、通常のパワー同様に何十倍にも増幅された。。。
「・・・・・・・・・・・・・おん・・・・・・」
「お前は超力戦隊ではないのか?」
 樹里は声を出す力も失った。体をよじらすこともできなくなった。足と手に冷たい感触を感じた。手錠だった。こんなものいつもならはずせそうなものだった。しかしはずせなかった。
「それでも戦士か?」
「ううう」弱く、唸っていた。体中を刺激する増幅されたエネルギーは、樹里の精神を乱しに乱した。乱すだけ乱した。なにも考えたくなかった。そうする間にも、刺激されていた。
「ううぅぅぅぅぅ・・・・・・ああ!」
 乱されていた体から、不意に声が漏れた。――再び潮流が訪れた。
 しかし体がそれを阻止する手だてを知らなかった。
 一気に噴出された。
 プライドは崩れさっていた。
 すべてが戦闘服の内側を回った。
 その濡れた感覚が、樹里を支配しようとしていた。
 樹里の黄色い体はウォーターベッドのようだった。

 
 潮流が五度もあった。脱水症状になりそうだが、無理やり水を飲まされた。冷たい感覚が消えたとき、樹里は床にうなだれた。
 排尿。
 そんなこと、もうどうでもよかった。
 手錠がはずされたことについても、何の考えも浮かばなかった。
 うつろな瞳はとらえどころのないものを見ていて、時々まばたきをした。
 どれくらいたっただろうか。どこかへ移動した。目の上に明かりがまぶしく光り輝いていた。多分手術用ライトのようなものだった。体中のウォーターベッドが冷えて、寒かった。皮膚と尿の物質が反応を起こして、体をチクチク言わせた。金属特有の臭いがした。
 カチッ! カチッ! カチッ! カチッ!
 体中が固定される。金具の音がした。動く気など起きない。
「うわ」声が微かに漏れて消えた。
 突然目の前に、針が現れた。誰も持っていない。宙に浮いていた。そしてその針が樹里へと向いた。
「ああぁぁ」弱々しく声が漏れた。
 胸のそそり起たされて、未だに起っている部分にそれが刺さった。痛みがしたが、痛みは痛みでしかなかった。
「あぁあぁ」
 針が抜かれる。針穴から自分の尿が漏れてくる。
 チュー。
 それがそこから漏れ続けた。まもなく針がもう一方の起っている部分に刺し込まれた。すぐ抜かれて、そこからも漏れた。顔にもかかった。髪は濡れていた。
 ガチャン。
 と、隣で大きな音がした。
 うつろな瞳でそちらを、樹里が首を回した。
 ピンク色の体が目に入った。目に入れたくないものだった。
「も・・・・・も・・・・・・」
 まだ樹里は助けを期待していた。

 
 女戦士はどこへ行ったの? 誇りは?
 意識無き丸尾桃から二条樹里へ何かがした。

 
   つづく。

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