平成14年8月9日・初版

オレンジファイター・「スリラー館の恐怖」/妄想博士・著

 オーラ星の征服も時間の問題である.…。 デーモンの作戦会議の結論は楽観的な見通しで締めくくられた。 数々の苦労を克服し、目標を達成する日はもう近いのだ。  思えば30年前、地球征服を断念し、目標をオーラ星に変更したときには屈辱感に苛まれ、眠ることすら出来なかった。 また、オーラ星征服も・・・どこで知ったのか、SATが現れ、断念に終わるどころかデーモンは壊滅寸前まで追い込まれた。  転機になったのは、アパッシュ博士の作ったワープ銃で早瀬ユリを地球へ転送してから・・・つまり、デーモンは 今までトリプルファイター一人(・・・と言うか3人と数えるかもしれないが)にやられていたわけだ。 トリプルファイターに変身出来ないグリーン・レッド・オレンジファイター単独ならば、デーモン怪人の敵ではない。 みるみる勢力を盛り返したデーモンは、たちまちオーラ星を席捲、SATを戦う度に撃破し、壊滅に追い込むチャンスを迎えている。  「それでは占領後の運営方法については、各自持ち帰り検討するように! 以上だ・・・解散!」 持ち回りの当番議長であるアパッシュ博士は、ほぼ満足の内に会議を終了させた。 いつもであれば、ここでぞろぞろと退出するはずなのだが、今日は様子が違う。 誰も席を立とうとしないのだ。 「おい、解散だぞ・・・んっ、なんだ?」 不信に思ったアパッシュ博士に、末席のデーモン怪人が質問をした。 「一つ聞きたいことがある。 地球の状況はどうなっているのだ?」 「何、地球? ああっ、早瀬ユリを送ったあと、全く音沙汰がないのだが・・・SOSもなく、 ブラックマスクとバラランの生存反応もあるから・・・大方、上手く行っているようだが・・・それがどうかしたのか?」  デーモンにしてみると、早瀬ユリを孤立させることに意味があったわけで、その後の経過は地球の再征服を除けば、 今更大した問題ではない。 怪訝に思ったアパッシュ博士だったが、そこはデーモン随一の天才科学者である。 たちまち、質問の真意を見破った。 「うん、そうか! もしかすると、貴様は地球に行きたいのではないか? どうだ、他の者もそうなのか? 行きたい奴は手を挙げてみろ・・・なんだ、全員ではないか・・・あきれた奴らだ! それで、俺にどうしろと言うのだ?」  地球に行ってユリを調教…怪人達の気持ちも判らないわけでもないが、転送装置は先の戦いで破壊されてしまっている。 「アパッシュ博士! 頼む、一生のお願いだ。 もう一度、転送装置を作ってくれ!」 「なるほど、そう言うことか・・・だが、今度は誰が行くのだ? オーラ星攻略があるから、希望者全員と言うわけにはいかないぞ ・・・くじ引きでもやるつもりか?」  行けるのは少数…全員は無理なことくらい誰しも判っている。 そこで怪人達は次々に立候補を始めた。 「俺が行く…このドラッガー様の毒ガス…いや、神経ガスでユリを狂わせてやる!」 「やっ、俺様・・・電流怪人エレキラーが適任だ。」 「いや、貴様はバラランとキャラが被っているから駄目だ! ここは俺・・・ガンマン怪人クラッシュ様に任せろ!」 「くっ、なんだと! 貴様こそ今更、拳銃撃ってどうするつもりだ! この豚の顔!」 「なっ、何・・・もう一度言ってみろ・・・蜂の巣にしてやる!」  エレキラーとクラッシュの言い合いをきっかけに、いつの間にか起立していた怪人達はギラギラした目で睨み合い、 穏やかに進行していた会議はたちまち罵り合いに替わってしまった。 「しっ、静かにしろ・・・落ち着け・・・おい、お前達も落ち着くのだ! 全員、静かにしろ! え〜い、騒ぐなら転送装置は作らんぞ! それでも、いいのか!」  ついにキレたアパッシュ博士が、怒鳴った途端、今までの騒ぎが嘘のように会議室は静まり還った。 元々、アパッシュ博士が作成する転送装置がない限り、実現しないプランである。 「うっ、それは!」 「わっ、判った・・・おい、落ち着こう!」  転送装置無しで地球にいくためには、膨大な時間と手間がかかるから、アパッシュ博士を怒らせるのは得策ではない。 そういうところは、妙に計算高い怪人達は、すぐに争いを止め、冷静に話し合いを始めた。  結局、地球転送は、2名をくじ引きで選出した上で、現在のブラックマスクとバラランの交代として行くことが出来、 一定期間の後に、次の2名と交代になる…2名づつの交代制に決定した。 最大の問題は、デーモンの重要な任務である地球征服の再開を、おそらく誰もしない・・・ことだけだろうが、 それは怪人にとっても、読者にとっても、どうでも良いことに違いない。  なにより交代制は、我の強いデーモン怪人達にしては、とても公平な方法で、(続編の許容範囲も広くなり) 様々な調教が次々に実現出来る利点を持っている。  早速、全員によるくじ引きが実施され、今回転送される怪人が決定した。 アパッシュ博士の開発を待つ間、 地球の状況が調べられることとなり、ブラックマスクとバラランに惑星間通信による呼び出し信号がオーラ星より発せられた。 さて、そのころ、地球にいるブラックマスクとバラランは・・・そして、早瀬ユリはどうしているのだろうか? **********************************************  分断され地球に転送された早瀬ユリを待ち伏せし、完全に手中にしたバラランとブラックマスクは、 日本近海の過疎により無人化した島…捨てられた島に移動していた。    オーラ星から転送される前に、目を通した地球のデーター(30年前のものだから、多少の誤差は覚悟の上)と 現状が余りにも違い過ぎるからだ。  まずは、よく戦闘に使った工事現場は、全て住宅地になっていて、空き地すら皆無である。  それから、諸物価の高さも大きい。 テレビやラジオは、当時より高性能で安いのだが、ガソリンなどの消耗品、食料が数倍もするのだ。  しかも、盗んだガソリンを入れたデーモンカーで深夜の道路を少し走ると、 エンジンを付けた自転車に抜かれるわ、大きな車にクラクションを鳴らされるわ、何故か、人が集まって来てしまい、 仕舞には「幻の名車…スバル360愛好会」に勧誘される始末…。  なにをするにも、東京近辺の都市部では障害が多過ぎて、目立ち過ぎるのだ。 自然の中でじっくりと早瀬ユリに調教を施すつもりで、わざわざ無人島を選んだのだが・・・ここでさえ、環境が大分破壊されている。  ブラックマスクとバラランは地球全体が既に征服するだけの魅力を失っていることをはっきりと感じとっていた。 「バラランよ。 我々の任務は早瀬ユリを仕留めることと、地球占領作戦の再開だったよな?」 「そうだが・・・それがどうかしたか・・・ブラックマスク?」 「早瀬ユリはともかく・・・都市からこれだけ離れた無人島でも、この有様では・・・それでもこの星を欲しいと思うか? 占領作戦の再開に意味があるのか? それを考えると夜も眠れん! どう思うバララン?」 「ふっふっふ、随分と難しい話だな。 俺様は美しいものが好きだから・・・早瀬ユリを犯しているだけで十分なのだ。 無論、こんな汚い星など、どうでもいい。」 「やはり、そうか・・・まあ、深く考えるのは止めにしよう! さて、今夜の仕事の分担は・・・早瀬ユリ調教がバラランで、 俺様がオーラ星に状況報告か・・・おやっ、デビラー達はどこへ行ったのだ?」 「朝から海岸ゴミ拾いと飲料水確保の井戸掘りをしているが・・・どちらも大変で手を離せないようだ!  なんでも、次々に波がゴミを運んで来るし、井戸は掘っても、掘っても、油が混じって飲料水には向かない水しか出ないらしい。」  もはや夕刻なのに…ゴミ拾いが終わらないとは・・・余りに酷い現実に、ブラックマスクは大きくため息をついた。  緑の星・・・いや30年前は緑の星だった・・・地球は、いつの頃から灰色の星になってしまったのだろう。 とにかく早急に地球の現状を報告しなくては、何も知らない本隊がやって来てしまう。   まずは、環境破壊により、占領する価値の無い星であることを伝えねばならない。  しかも、住んでいる人間の科学力は随分進歩しているようで、戦えばかなり手強い予感がする。  垣間見たところでは、 女子高生が個人で小型通信機を持っている上、一般車にもレーダーが標準装備されているし、新聞の三面記事に載っている 高利貸しの取立てや小学生のいじめなど・・・デーモンよりも悪質で計算されている。  何もかも・・・30年前とは比べものにならない。 ブラックマスクはアンテナを立て、オーラ星に惑星間通信信号を発した。 (ツー・トンツー・ツートン) 無人島のため、電磁波の影響もなく、比較的簡単にオーラ星との連絡がついた。 (ツーツートン・ツートン・ツー) 返電も非常に迅速だ。  惑星間信号は簡単な話、暗号電文を信号に置き換えたチャットやメッセンジャーのようなものである。 以下でブラックマスクとオーラ星デーモンの間で取り交わされた信号を2ショットチャット風に解読して紹介しよう。 ------------------------------------------------------------------------------------------------ ブラックマスク:聞こえるかオーラ星? こちら地球のブラックマスク! デーモン:感度良好! 作戦の進捗状況はどうだ? ブラックマスク:地球環境は公害と汚染で予想以上に破壊されている。 侵略の価値は無いと判断している。 デーモン:そんなことはどうでも良い! ユリはどうなった? ブラックマスク:昨日、ユリの捕獲に成功し無人島に移動。 これよりバラランと調教及び種付けを開始するところだ。 デーモン:ご苦労であった…それでは任務を変更する。 地球へは交代要員を送るから、至急、バラランとともに      オーラ星まで帰還準備をせよ! 5分後に強制送還する…以上(プツン…) ------------------------------------------------------------------------------------------------ オーラ星側が一方的に通信を打ち切ってしまった。 「ごっ、五分後…! いっ、以上…って…おい!」  意外な内容にブラックマスクは目を疑ったが、5分後となると時間が無い。 「なによりもユリをもう一度…」と考えたブラックマスクは、監禁してあるテントに猛ダッシュした。  テントをまくると、全裸で拘束されているはずのユリが、オレンジファイターの姿で倒れている。 「おおっ、丁度貴様を呼ぼうと思ったところだ…エネルギー吸引装置を貸してくれ! ブラックマスク」 何も知らないバラランはのんきなものである。 「そっ、それより…何で、オレンジファイターなんだ? どういうつもりだバララン?」 息を切らせたブラックマスクは、バラランに詰め寄った。 「えっ、調教には順序があるだろう…変身を解いて…早瀬ユリに戻して…」 バラランの説明を聞く閑のないブラックマスクは、すぐにユリからエネルギーを吸引した。  オレンジファイターの変身は解かれたが、ユリはちゃんとオレンジ色のSAT制服に身を包んで倒れている。 もちろん、オレンジのパンティー、網タイツも元通りだ。 「なっ、なんだ…ブラックマスク! 今日のユリ当番は俺様だぞ! 俺にやらせろ!」 SATの大きなヘルメットを抱えて文句を言うバラランを睨んだブラックマスクは、あきれたように叫んだ。 「なっ、何故…何故なんだバララン? ユリは全裸だったではないか…!」 「何故って…それは、全裸のままより、もう一度脱がしながら犯した方が興奮するではないか…ヘルメットもこうして…」 説明を聞いたブラックマスクは、ついにキレてしまった。 「バッ、バカモノッ! これでは、後4分で犯せないではないか…あっ、3分を切った! 強制送還までの時間が無いんだよ…バララン!」 「強制送還?! 一体何の話だ…訳が判らん…おっ、おい! 折角、俺が苦労して着せたのに、勝手に脱がすな!」 状況を理解出来ずに立ちすくむバラランを無視して、ブラックマスクはユリの網タイツをずり下げると、 オレンジのパンティーに手をかけた。 「なっ、何で…2枚もパンティーを履いているのだ…?」 「ふっふっふ、なんだ…もう忘れたのかブラックマスク…オレンジは見せパンで、その純白のが自前のパンティーだったではないか…」 「くっ、俺が言っているのはそう言う意味ではない…ああっ、もう一分を切った! 早く手伝えバララン!  駄目だ…もう、間に合わない…!」 「だから、何が間に合わなくなるのだ…ブラックマスク? うっ、むうう…苦しい…うぐぐ…」 「ユリを犯せなくなるのだ…ううっ、待てっ、待ってくれ…まだ、一回しか、犯して…(シュン!)」 「そっ、そうか…強制送還…うわっ、消える…(シュン!)」 ********************************************** 「(ドサッ!)うっ、ううん…痛い…はっ! ここは…?」  バララン達が転送されて、空中で支えるものの無くなったヘルメットは、ユリの胸に落下した。 ユリは衝撃で目を覚まし、虚ろな意識のまま、フラフラと上半身を起し、頭を振った。 「ううん…下半身が疼いてる! そっ、そうだ…デーモンに捕まって…怪人達に代わる代わるに犯されて…ああっ!」  記憶を取り戻したユリは、絶望のあまりがっくりとうなだれてしまったのだが…よくよく考えると、 現状とつじつまが合わない。 「でっ、でも…服を着ている…デーモンもいないわ! もしかして…あれは夢? だとしたら、とんでもない悪夢! あっ、網タイツとアンダースコートが…でも、パンティーは履いたまま…。  ということは…まさか…私ったら…夢を見ながら…自分で恥ずかしいことを…」  悪夢にうなされ自慰行為…バラランの趣味を知らないユリにしてみれば、それが状況としては一番納得がいく。  恥ずかしさで頬を染めたユリだったが、周りに誰もいないことを知って、ほっとした。 「地球に送られたことも…、SAT基地に行ったのも…やっぱり、全部夢? まだ、オーラ星のままかしら?」  気を取り直したユリは、アンスコと網タイツをきちんと履き直し、テントの外に出てみた。  オーラ星と30年前の地球は酷似している緑の星である。 空気もあれば、海もあり、太陽や月も一つずつだから、 簡単に見分けはつかない。 「外は自然が一杯…でも、この星は何処? オーラ星にしては、いえっ、地球だとしても、余りに空気が汚過ぎる…。」  そう考えたユリの記憶は30年前のままなのだから、仕方がないのだが…。  とにかく、周囲の探索をしないことには…何も始まらない。 ユリはヘルメットをかぶると、注意しながら夕暮れの海辺を歩き出していた。 しばらく歩いてみたが …全く人の気配が感じられない。 二人の兄がいないのは仕方ないとしても…デーモンも襲って来ないのだ。 悪と戦うヒロインとは言え、早瀬ユリも弱冠21歳の乙女…孤独には弱い…夜の帳が下りてくるに 従って、ドンドン心細くなっていた。 「これでは…もうすぐ日が暮れちゃう…どうしよう? あっ、あんなところに灯りが…」  海岸近くの崖の上に、チラチラと灯りが見える。 ユリは灯りに吸い寄せられるように、崖に近づくと…きちんと岩を削った階段がある。  どうやら、崖の上には人間がいるようだ。 人恋しさのあまり、ユリは延々と続く階段を上がって行った。  随分と長い階段…ユリが崖の上にたどり着いた頃には、日はとっぷりと暮れていた。  崖の上はうっそうとした森になっているが、小道があり、灯りはその先から洩れている。 暗いのでよく判らないが、何か建物があるようだ。 (キッキッー!)  突然、悲鳴のような鳴き声が森に響き渡る。 「(ビクッ!)きゃああ〜! あっ、鳥かあ〜…びっくりした…! もう、脅かさないでよ!」  かすかな灯りを頼りに、暗黒の森を一人で進むユリには、鳥の声すら不気味に聞こえてしまう。  森を抜けると、そこには古びた洋館がそびえ建っていた。 いつの間にか灯りは消えているが、庭はきちんと手入れがされており、どうやら誰か住んでいる様だ。 「(ドン・ドン・ドン)ごめんください! (ドン・ドン)道に迷ってしまって…誰かいますか?」  大きな木製の扉を力一杯ノックしてみたが、いつまで経っても返事がない。  仕方なく取っ手を引いてみると、鍵が掛かっておらず、「ギイイーイ」という大きな音とともに扉が開いた。 「ごめん下さい…お邪魔します…誰かいますか?」  高級そうな絨毯が敷かれたエントランスルームは、壁に蝋燭が灯っているが、かなり薄暗い。  ただ、蝋燭に炎…ということは誰かいる…。 呼びかけても返事はないが、住人の気配を感じることが出来たユリは幾分安心した。 (ポロ〜ロン・ポロ〜ン・ポロ〜ン・ピン♪) 「あれっ、なんの音かしら?…ピアノ?」  かすかに聞こえるピアノの音色は、建物の奥…長い廊下の突当たりの部屋から聞こえるようだ。  とにかく、挨拶をしないといけないユリは、ほとんど闇に近い、ギャラリーのようになっている廊下を、そろそろと進んだ。  所々に蝋燭は灯っているが、足元まで光りが届いていない…壁に架けられた油絵の照明用なので、それも仕方がないのだが…。  何の気無しに一枚の油絵を見たユリだったが、思わずぎょっとして、悲鳴をあげそうになった。 描かれているのは…地獄絵だ。 次の絵は悪魔の姿…そして次は、真っ赤な血の池…凄惨な油絵ばかりの展覧会、 しかもBGMは暗闇に響くピアノでは、さすがに鳥肌が立ってしまう。 「いっ、一体…どんな趣味をしているのよ…?」  ユリは残りの油絵を見ないようにしながら、ピアノの音がする部屋へ急ぎ、扉をノックした。 「(トントントン!)ごめん下さい。 (トントン)すいません…勝手にお邪魔して…開けます。(ガチャ!)」  呼びかけても途切れないピアノの音に、待ちきれなくなったユリは思い切り扉を開けた。 薄暗い部屋の中では、白いドレスを着た髪の長い女性が、一心不乱にピアノを弾いている。 後ろ向きなので判らないが、少女のようだ。  手元が暗いのに流れるような指の動き…ただ、曲調はクラッシックのためか、暗く気味が悪い。 「よかった…やっぱり地球だったんだ! あっ、演奏中、邪魔してごめんなさい…この家の人ですね?」  部屋は暗く、重苦しい雰囲気であったが、ようやく人間に会うことが出来たユリはうれしさのあまり、 少女に駆け寄った。  突然、ピアノの音が止み、少女が振り返えり、微笑んだ。 「練習しているのに、ごめんなさい…私はSATの早瀬ユリ。 地球を守る為に…えっ、うそ…きゃああ〜!」  そう、少女は振り返えり、微笑んでいた…ただ、身体はピアノに正対したまま、首だけが180度、回転して…。  目の前で起こっている信じられない事態に、思わず絶叫したユリだったが、何故か視線を少女から外すことが出来ない。  ユリをキョトンと見つめる少女は、相変わらず微笑んでいたが、その首に一本の赤い筋が浮き上がると、 みるみる膨らんで、真っ赤な血がダラダラ流れ出した。 (コロン!)  まるで熟した果実が落ちるように、少女の首が床に落ち、立ちすくむユリの足元に転がって来た。  氷のような微笑を浮かべたままの少女は、首だけになって初めて声を出して笑った。 「イーヒッヒッヒ! ヒッヒッヒー!」  首の無い少女の手がピアノの鍵盤を叩く…しかも葬送曲だ。 (ジャン・ジャ・ジャ・ジャン・ジャジャジャジャ・ジャン!) 「きゃあああ〜! ひいい〜! いやあ〜!」  普通の人間ならば、確実に腰を抜かすところだが、さすがは戦うヒロイン…ユリは絶叫しながら、脱兎のごとく逃げ出した。 「おい、ゴーストン…真面目に怖いではないか…! ここは、ホラーではなく、ヒロピンサイトだぞ…!」 「そうは言っても、ユリを恐怖に陥れるのが、読者のニーズだぞ…ミラージュ!」  ユリが走り出ると、ピアノの裏から二つの影が現れた…先頃、くじで地球行きが決まったデーモン怪人 …そう、この館はデーモンの罠だったのだ! 「この後はどうするのだ…このままでは怖くて、みんな読むのを止めてしまうぞ!」 「この著者なら描写が下手だから…大丈夫だとは思うが…そんなに怖いか?」  二つの影は今後の展開を話合った…案外、大事な問題らしい。 「つまりだ…この小説はいつ読まれるのか?…それが問題なのだ!」 「『いつ読まれるか?』って、大概は夜だろうな…多分、日中はみんな仕事をしてるから…」 「そこだ! 夜中にホラーを読まされては読者もたまらんだろう! それに、暗闇ばかりでは…俺の出番はどうなるのだ?  マニアはとにかく…別のところで期待をしている読者も多いのだぞ。」 「うぬぬぬっ…それは…確かに! 判った…それなら、情景描写を少なくして、ユリを脅かそうではないか…その後は…ふっふっふ!  すまんな…今回は俺様の回…貴様の出番はこの次だ…ミラージュ!」  著者まで巻き込んだ折衷案に、一応納得したデーモン怪人は、ユリの後を追うように部屋を出て行った。  元来た方向へ逃げたはずなのに、廊下を進んでも…ユリは玄関を見つけることが出来ない。  しかも、壁にはいつの間にか、油絵の替わりに沢山の扉がある。 恐怖で半ばパニックに陥ったユリは一枚の扉を開けてしまった …そこには老婆が包丁を構えている。 「(ガチャ!)はあはあ…えっ、きゃあああ〜! いやあ〜!(バタン!)」  オレンジのパンティーを丸見えにしながら、ユリはその場に尻餅をついたが、すかさず足で扉を閉めると、立ち上がり次の扉を開く。 「(ガチャ!)きゃあああ〜! 助けて〜!」 「(ガチャ!)きゃああ〜! いやあ〜! ひいい〜ん!」  デビラーの首吊り、発狂した座敷牢オヤジ、和洋中華の妖怪達…扉を開けるユリを次々に恐怖が襲う。  失神寸前のユリは泣きながら、最後の部屋に逃げ込むと、目を閉じ、耳を塞いでしゃがみこんでしまった。 「いやあ〜! 来ないで…お願いだから…もう止めて! 怖い、怖いよ〜!」  うずくまって震えるユリの肩を誰かがポンポンと叩く。  恐る恐る振り向いたユリが見たのは、暗闇の中、懐中電灯で顔を下から照らしたゴーストン。 「ひっ、ひいい〜! きゃあああ〜! うっ、ううん…!」  ユリは絶叫とともに腰を抜かして、ペタンとお尻を床につけると、顔を引きつらせたまま失神してしまった。 「ふっふっふ、見たかミラージュ…大成功だ…ついに失神に追い込んだぞ!」 「しかし、懐中電灯とは…やる方もやる方だが、こんな古典的な技で失神するユリも大したことはないな。」  床に崩れたユリを見下ろす二人の怪人は満足げに頷きあった。 「これでいよいよ調教に入るのか…ゴーストン?」 「待て待てミラージュ! 悪戯ついでにもう一回脅かしてみよう…これだけ怖がっていれば…思わぬことが起こるかもしれないぞ!」 「しつこい奴…まあ、いいだろう。 早くやってみろ!」 「ふっふっふ、見ていろよ…。 (パシン・パシン!)起きろ…ユリ!(パシッ・パシン!)起きるのだ!」  ゴーストンはぐったりとしているユリに平手を見舞い、大声で呼びかけた。 相変わらず懐中電灯で下から顔を照らしている。 「うっ、うっううん…ひっ、ひいい〜! お化け…えっ、あっ、その顔は…ゴーストン!」  目覚めた瞬間、悲鳴をあげたユリだったが、相手が妖怪でなくデーモンだと気付いてからは強気になった。  そう、デーモンの前では恐怖もなくなるのだ。 「こっ、このお化け屋敷は貴方の仕業ね…ゴーストン! もう、許さないわ!」 「ふっふっふ、30年振りのスリラー館を楽しんでもらえたかな? さて、それはともかく、この後のことだが… ユリよ、我々の性奴隷にならないか? さもないと、もっと怖い目にあうことになるが…」 「性奴隷? 誰がなるもんですか…そっ、それに…もう怖くなんかないわ!」 「そうか…それでは仕方がない…俺達はデーモンではなく…本当の…! ぎゃああああ〜!(ポロン!)」  突然、身も心も凍りつくような悲鳴をあげたゴーストンは首から血を噴出した。 そして、先程の少女と同じ手だが… 熟した果実が落ちるように、ゴーストンの頭が取れて、ユリの膝の上に落ちた。  もう驚かない…一旦安堵した後だっただけにユリへの効果は倍増した。 「えっ…うっ、うわあ〜! きゃ、きゃあああ〜…ひいいい〜(ジョッ、ジョジョ〜!)うっ、ううん…」  ユリは大きな悲鳴をあげると、カチカチと歯を鳴らしながら、放心状態になってしまった。 そして、ブルブルッと震えると、オレンジパンティーに出来たシミがみるみる大きくなっていく。  もちろん、その後は…気を失ってしまった。 ********************************************** (ズン・ズン・ズン!)  焼けるような、それでいてなんとなく心地よい下半身の痛みを感じたユリは、意識を取り戻しつつあった。  何故か身体の芯が燃えるように熱く、時折吐息が洩れてしまう。 「うっ、うん! んっ、うはあ〜! んっ、んっん〜ん!」  意識は朦朧としていたが、「自分の中に誰かいる…!」ということが判るまで、さほどの時間はかからなかった。 「んっ…うっうん…はっ! ああっ、そうだ…私…失神して…ううん! ああん、誰…誰なの…こんなこと…止めなさい…うふん!」  ユリは必死に身悶えするが、何かで腕を留められているようで、仰向けで大の字のまま動けない。  もちろん、ヘルメットやオレンジパンティーはおろか、自前の白いパンティーも、すでに脱がされているようで、 生まれたままの姿で犯されているようだ。 ただ、正気に戻り、先程までの記憶を取り戻しただけに… ユリは恐怖で目を開くことが出来ない。 「そっ、そう…私を犯しているのはデーモンよ…あっはん! 怖くなんかない…ううん! そっ、そうに決まっている…あっ、ああん!」  喘ぎながら自分に言い聞かせるユリだったが、どうしても相手を確かめる勇気が出ない。 (ああっ、嘘…てっ、手が4本ある…デーモンではないの? えっ、乳首を吸っているのに、なんか喋っている… まっ、まさか双頭の怪物!? ほっ、本当にデーモンなんかじゃない…やだっ、怖い! 怖くて目を開けられない!) 真相は、ゴーストンが太ももを抱え、股間を指で弄りながら、肉棒を入れて…正上位でユリと合体 しており、同時に両方の乳房をミラージュがしっかりと揉んだり、吸ったりしている。  目隠しプレイと同じ状況なので、誤解するのも無理はないが、要はただの3Pなのだ。 「ふっふっふ、さあ…目を開けてみろ…本当にデーモンかな? 怖いぞ! 物凄く怖いぞ…そうら…そうら!」  不気味な声が耳元で響く度に、ユリの背筋は恐怖で凍りつくが、いやらしい音を出して子宮を突かれる度に、 身体は芯から熱くなるので、肌は火照ったままである。  丁寧に揉み解される乳房の上で、乳首がピンと勃起すると、ユリは堪らなくなり大きく喘いだ。 「うっ、うっう〜ん! はあ〜あ、あっは〜ん! いっ、いやあ〜ん…こっ、声が出ちゃう!」  緊張していた肉体がほぐれて来ると、ユリは不思議と恐怖を感じなくなった…いや、恐怖を感じている閑が無くなって来た。  今やユリの身体の中では大きな波が渦を巻いて荒れ狂い、堰を切って流れ出しそうになっている。  当然、頭は真っ白…もう、何も考えることは出来ない。 「いやあ〜ん! だめえ! ううっ、逝くうう、逝っくううう〜! いやあ〜ああん…!」  ユリはゴーストンの肉棒を身体の中に入れたまま、自分一人で勝手に昇天してしまった。 「ふっふっふ、怖い思いをしながら犯されて昇天するとは…。 しっかりと目を閉じたままでも、その度胸だけは褒めてやる…。  おっと、まだ失神してもらっては困るぞ! もう一度、俺様と一緒に…今度は地獄に連れて行ってやろう!」  通常なら、失神してしまうところだが、今はそれすら許されない。 天国まで登りつめたユリは、4本の手と1本の肉棒により、 再び地上へ引きずり下ろされた。 「ううん…はあはあ…ううん! ああっ、まだ…まだ、手がいろんなところを…あふん…弄ってる… うふん…揉んでる! はあはあ…いやん…また突いてる! うああ〜あ、ズンズン突いてるうっ!」  絶頂直後の肉体は完全に開いてしまい、もはやユリ自身のコントロールが効かない。 意識にしても、 失神していないだけで、すでに理性や感情は失われている。  この時点でユリは、本能の赴くまま、ただひたすらに絶頂に向かって突進する一匹の牝獣と化してしまったのだ。 「さすがにいい身体だ…早瀬ユリ! なんだ、もう感じているのか? 乳首もピンと立っているし、 息も甘いぞ! 肉汁もたっぷり…おう…この締まり方…たまらんな! よ〜し、お返しだ…そうら!」  ゴーストンは掌(手の平)でユリのヘアーをギュッと押さえると、中で動く肉棒に押し付けた。  こうすることにより、摩擦効果は一気に倍増、更にユリの感度が高まっていく。 「はあはあ、ああん…うっ、はっ! はあう〜う! だめえ、そんなところを押さえたら…うっはあ〜!  凄い…凄い…こすれる…ああっ、あん、いやあ〜ん!」  屋敷中に響くような声を出して悶絶しているユリの中で、ゴーストンの肉棒は最大限まで膨張し、フィニッシュの瞬間を 迎えようとしていた。 「ううっ、こんなに締めおって…たっ、堪らん! さあ、ユリよ…そろそろ逝くぞ…準備しろ!  うぐぐ…もっ、もう限界だ…出すぞ…中に出すぞ! 濃いぞ…物凄く濃いぞ! ぐっ、ぐわっ!(ドッビュウ!)」 (私の中に、ドクドクと熱い液体が注ぎ込まれていく…ああっ、きっとこのまま昇天するんだ!)  何故か今になって、冷静に自分を感じたユリだったが、コントロールを失った肉体は無意識の内に、絶叫し、激しく痙攣した。 「ひいい〜い! 逝くう! 逝っくうう! いやあ〜あん! あう〜ん…ううっ…(ガクガク!)」  今回のゴーストンによる陵辱は心理的なダメージを大分与えていたようで、ユリは昇天とともに何度か激しく痙攣したあと、 屍のように動かなくなってしまった。  精液を出し尽くし、萎えてしまったゴーストンの肉棒が引き抜かれるとき、ピクンと腰を一回動かしただけで、 あとは完全に意識を失い、今度は大の字に拘束されたまま、磔にされている。  次の相手はミラージュ。 ただ、調教室をゴーストンと一緒に準備しているため、この場には誰もいない。  失神する前の話だが、ユリは昇天の直前から冷静に物事を考えることが出来るようになっていた。   ずっと目を閉じたままだったから、このときになって心の目が開いたのかもしれない。  心の目は全てのからくりを…そして、これから自分の身に起こる近い未来までも…正確に見通していた。  「私の中に出したのは未知の怪物なんかじゃない…やっぱりゴーストン! そして、デーモンの誰かがもう一人… 悪戯をしていたに違いない! そう、二人がかりで犯されていただけだったのね! きっと、この屋敷も3年前(地球では30年前)と同じデーモンの作り物…いえっ、あのときよりずっと淫らな…陵辱の罠。  ああっ、兄さん…早く地球から助け出して! バララン、ブラックマスク、ゴーストン…そして、もうすぐ…もう一人。  それだけじゃない…きっと、私の身体を目指してデーモン怪人が次々にやって来る…このままでは…本当に奴隷にされちゃう!  ああっ、もう…頭が混乱して…気が遠くなる…うっうん…」   哲也と勇二の残った緑の星…オーラ星はデーモンの侵略で絶体絶命。  そんな中で、二人は地球まで助けに来ることが出来るのだろうか…?  そして、デーモンすら手を出さない灰色の星…地球では、孤独なユリが絶体絶命。ユリは遠く離れた二人の兄と合流し、 トリプルファイターに変身することが出来るのだろうか? しんと静まり返った部屋では、ユリの股間から溢れた精液がポトリ、ポトリと床に落ちて音をたてている。  今ですら絶望的なのに…更に暗惨たる未来を暗示するかのように、うっすらと汗をかいたユリの肌が、 蝋燭のわずかな光りを反射して、暗闇の中でギラギラと淫らに輝いていた。 ***完