平成15年9月19日・初版 MonkeyBanana2.Com Free Counter

キューティーハニー・異次元編「カメラ取材は三度ハニーを濡らす」第1章/東日新聞 早見・著

異次元へ行ったキューティー・ハニー。今回で早くも3回目の報告になる。 相変わらず、異次元への入り口を見つけることが出来ないでいる俺のもとへ、またしても (異次元にいるコブラ・ファングお抱えの事件記者、毛草からの)来て欲しくない手紙が届いてしまった。 3回目ともなれば、説明は不要だろう。早速、読んでもらうことにしよう。 ***********************************************  ジメジメとした曇天が続く異次元の世界。その中で暮らす活気の無い人間達。 「元気」という言葉が失われたこの世界で、唯一、目を輝かせているのは支配者コブラ・ファングだけだ。 そのコブラ・ファングの瞳をより一層輝かせる密告が今日もたらされた。 異次元に連れて来られた人間達の中に、天才科学者・故如月博士の娘、如月ハニーの姿があるらしいのだ。 ただ、今回のコブラ・ファングは珍しく慎重。 早速サイボーグを差し向けるのでは無く、俺に如月ハニーの潜伏先調査を依頼してきたのだ。 コブラ・ファングのサイボーグと人間の関係は、異次元の世界では互いに無関与・無関心。 危害を加えたり、恐れられたりすることも無ければ、会話を交わすことも無い。 よって、人間から細かい情報を仕入れるためには、どうしても俺のような存在が必要になるのだ。 俺としても、空中元素固定装置(空中元素固定装置)を発明した故如月博士の娘には興味がある。 「もし情報がコブラ・ファングに有利になるなら報告しなければ良い…」 こう考えた俺は、早速如月ハニーの情報を調べてみることにした。 何人かの情報提供者に会って見ると、意外や意外…。 如月ハニーは隠れているわけでもなければ、逃げ回っているわけでもない。普通(?)の高校生として、普通に生活していたのだ。 砂に紛れた一粒の砂金を見つけ出すことが困難なように、異次元に連行された人間の中に紛れることが、 絶好の隠れ蓑になっていたのかも知れない。 コブラ・ファングに報告する前に一度会って見ることにした俺は、如月ハニーの家を訪れた。 重苦しい空気が漂う異次元の建物としては、色彩といい、構造といい、完全に浮き上がっている。 小さいけれど、緑の垣根に囲まれた、明るくおしゃれなセンスの良い家だ。 「(ピンポ〜ン!)こんにちは…如月さん。異次元新聞の毛草ですが、取材をさせて頂きたくて…ハニーさん…居ませんか?」 鍵を開く音が聞こえ、扉が開いた。 「取材…どんなことでしょう? 私が如月ハニーですが…」 美少女と聞いてはいたが、コーヒーカップ片手に姿を見せた如月ハニーの美しさは、俺の予想をはるかに越えていた。 ブロンドの髪に整った顔立ち。肢体の方もスレンダーなのに、出るところは出ているパーフェクトボディ。 黄色地に白い水玉をあしらったノースリーブのワンピースから、伸びた長い手足はピチピチと健康的なお色気を振り撒いている。 如月ハニーはにっこりと微笑むと、絶句している俺に諭すように言った。 「ふ〜ん、取材って…記者さん、私のことを調べているの? 本当なら何でも答えてあげたいのだけど、今日はちょっと都合が悪いの。 だって…」 「だって…?」 凛としているようでもあり、無邪気そうでもある深い瞳に、半ば釣り込まれていた俺は思わず相槌を打った。 如月ハニーは瞳を輝かせると、俺以外の誰かに語り掛けるように大きな声を出した。 「だって…記者さん、悪い奴らにつけられているのだもん! ほら、後ろに…ハニィ〜ブーメランッ!」  如月ハニーの左腕からハート型の腕輪が疾風のように飛び出した。腕輪は俺を掠めると、背後の垣根を切り裂いた。 (カチンッ!) 枝や葉が飛び散る変わりに、なんと緑の垣根から乾いた金属音が響いた。 「くっ、見つかったか! ただ異次元に来ている証拠は押さえたぞ…如月ハニー!」 垣根をかき分けコブラ・ファングのサイボーグが現れた。 頭の変わりに大きなビデオカメラをつけ、腕にはガンマイクを装備したロボット型のサイボーグだ。 「くっくっく、俺様はビデオ・コブラ…全てを記録する俺様から逃げることは不可能だ!  如月ハニー、空中元素固定装置の在処を教えてもらおうか!」 「記者さん、とんだカメラマンを帯同して来ちゃったわね。それに、そんな大事なこと…簡単に取材されてもハニー、困っちゃう!  あらっ、手が滑った…ごめんなさい!」 如月ハニーは困ったように肩をすくめると、手に持っていたカップの中身をビデオ・コブラにぶちまけた。どうみても故意だ。 「…ぎゃっ! コーヒーでレンズが…ぬうっ〜、もう許せん!」 俺を押しのけたビデオ・コブラは自ら頭についたボタンを押した。 「如月ハニー…覚悟しろ! 高速巻き戻し!」 (シュン!) 鋭い音とともに垣根から何かが飛び出した。それは、なんと先程投げつけられたハート型の腕輪だ。 腕輪は投げたときの何倍ものスピードで舞い戻って来ると、如月ハニーに襲い掛かった。 「あっ、ハニーブーメラン…はっ!」 受け止めることも出来ず、如月ハニーは仰け反るように腕輪をかわした。 首筋を掠めた腕輪は真空を作り出し、ふつふつとワンピースの肩紐を切断する。支えを無くしたワンピースがまくれ、 プクッとしたバストがこぼれ落ちた。 「…はっ!(ペロ〜ン)ああっ、いやあ〜ん!」 甘ったるい悲鳴を上げながら、如月ハニーは腕を組んでボインを隠した。…といっても、ボリューム満点のボイン全部はとても無理。 ようやく乳首を隠したに過ぎなかったが…。 「あ〜ん…これじゃ戦えない!」 如月ハニーは頬を真っ赤に染めると、くるっと振り返り階段へ逃げていく。 純白のパンティーをもろにのぞかせて階段を駆け上がっていく。俺はお尻にピタッと張り付いた純白のパンティーに釘付けになった。 「どけっ…邪魔だ!」 俺を押しのけてビデオ・コブラが如月ハニーを追いかける。 無論、俺も後に続こうとしたが、何故か階段を駆け上がろうとしたとき、誰も居ないのにもう一度押しのけられた。 「どけっ…邪魔だ!」 周りを見渡したが、もちろん誰も居ない。 気にはなったが、今はそれどころではない。俺はあわてて階段を駆け上がった。 2Fは廊下の両側に幾つもの扉がある。 その内のどれかに逃げ込んだ如月ハニーを探すため、すでにビデオ・コブラが片っ端から扉を開け始めていた。 「ぬぬっ〜、この部屋でもない…。どこに逃げ込んだのだ、如月ハニー!」 次の扉を開けるべくビデオ・コブラが取っ手に手をかけた途端、いきなりその扉が開いた。ビデオ・コブラは勢い余って 真後ろにひっくり返った。 「何の騒ぎですか? 騒々しい…」 中から出て来たのは、ゴージャスな雰囲気の漂う貴婦人だ。 青いベルベット調のロングドレスを身に纏い、髪を上品にまとめている。ダイヤのネックレスにマッチした金のキセルをくゆらせている。 若い美女だが、今風の女子高生…如月ハニーとは雰囲気がまるで違う。 「あっ、あれ…如月ハニーさんのお宅では? もしかしたらお姉様でいらっしゃいますか?」 不思議に思った俺は、ひっくり返ったビデオ・コブラを飛び越して直接尋ねてしまった。 「ほっほっほ、私はこの家の主…エレガント・ハニーです。さて記者さん…とんだカメラマンをお連れになられていますのね…」 エレガント・ハニーは足元のビデオ・コブラを蔑むように見ると、俺に視線を戻して続けた。 「それに、取材は記者とカメラマンだけで良いはずではなくて…? それとももう一人は…ただの野次馬かしら?」 「もう一人…?」 言葉の意味が判らず、ぽかんとしている俺の前で、エレガント・ハニーはいきなりキセルを壁に押し当てた。 「…うぎゃ! あっちっち!」 濁った悲鳴とともに壁の模様が人型に浮き出た。そしてみるみる緑色に変色していく。 「しゃ、見破られるとは…」 現れたのは、もう一人のコブラ・ファングサイボーグだ。 爬虫類型で落ち着きが無く、目をせわしなく動かしている。 「俺様はコブラ・ファング随一の変装の達人カメレオン・ファングだ。お目当ての如月ハニーは留守のようだが…。 そこの女…エレガント・ハニーとか言ったな? 俺様の変装を見破るとは、貴様も只者ではないな!」  エレガント・ハニーは余裕の表情を崩さぬまま、俺に話し掛けた。 「そんなわけなので、取材はノーコメント。それに、見たところ記者さんだけは人間のようね。だったら早々にお引取り頂いた方が懸命よ。 だって…」 エレガント・ハニーの言葉が終わる前に、一筋の赤い軌跡がシャーと空を走った。カメレオン・ファングの舌攻撃だ。 赤い舌はレーザー光線のようになんでも貫通しそうな鋭さを持っている。 エレガント・ハニーは重厚なドレスを翻すと間一髪で軌跡を避けた。そして悪戯っぽく微笑むと伸び切った舌に金のキセルを乗せた。 「だって…逃げないと危ないんだもん! だから、今の内にどうぞ…」 赤い軌跡はクルクルっとカメレオン・ファングの口に巻き戻されていく。無論、火のついたキセルも一緒だ。 「しゃあ…んっ? ぐっわっ、あっちっち!」 カメレオン・ファングは緑の顔を赤く変色させながらもがき苦しんでいる。 「ほっほっほ、口の中で火を消してくれるなんて、随分丁寧ね。それにさすがはカメレオン…真っ赤になるのも早いのね。 …あっ、折角だから、記念にそちらのお化けカメラで録画してもらったら?」 エレガント・ハニーは更にコブラ・ファングを怒らせるようなことを言う。 俺はエレガント・ハニーの言葉に従い物陰に身を隠した。 エレガント・ハニーのクールな反撃は見ている者にとっては爽快だが、やられた方は堪ったものではない。 ダメージは大きくなくても、面子が丸潰れになるのだ。 コブラ・ファングが屈辱のために怒り心頭に達するのは当然だし、そうなれば何が起こるか判らない。 俺のような非力な人間が巻き込まれたら、幾ら消極的な味方とはいえ命の保障はどこにも無い。 ようやく立ち上がったビデオ・コブラも加わり、コブラ・ファングは早々に攻撃態勢に入った。 「いや、ビデオ・コブラ待て…俺様が串刺しにしてやる! シャア〜! シャア〜!」  口内の火事がおさまったのか、顔色を緑に戻したカメレオン・ファングが伸びる舌を連続して繰り出した。 「…はっ! …ふっ! …それっ! んっ〜、しつこい舌…これではきりが無いわ!」 避けても避けても繰り出される鋭い突きに、さすがのエレガント・ハニーも根負けしたのか、あわてて柱の影にその身を隠した。 「シャシャシャ、それで身を隠したつもりか? シャア〜!」  柱からのぞくドレスのすそが貫かれ、そのままエレガント・ハニーが引きずりだされていく。 …と思いきや、「ああっ、いやあ〜ん!」という声とともに、カメレオン・ファングへ戻ってきたベルベットのドレスには中身がない。 「ぬぬっ、ドレスのみ! すると…裸だな! シャシャシャ、それは楽しみだ!」 淫らな笑いとともにカメレオン・ファングがゆっくりと柱ににじり寄っていく。 「ああっ、ちょっと待って! 何も着ていないのに…」 柱の影からエレガント・ハニーは首だけのぞかせると困ったように叫んだ。 「ふっふっふ、このビデオ・コブラ様がヌードを全て録画してやるぞ!」 ビデオ・コブラもカメレオン・ファングに続いて柱ににじり寄る。 「う〜ん…いいわ、そんなに私の裸を見たいのなら、見せてあげましょう。ただし…一瞬だけよ!」 エレガント・ハニーは首を引っ込めると、一瞬の後、柱の影から踊り出た。 真っ白な全裸のエレガント・ハニーではない。 踊り出たのは、あろうことか…ミニスカワンピースを着た如月ハニーだった。 「あるときは天才科学者如月博士の一人娘、如月ハニー!」 如月ハニーはそういうと柱の反対側へ飛んだ。 そして柱を過ぎ着地したときには、これまたなんと…豪華なドレスをまとったエレガント・ハニーに変わっていた。 「またあるときは超一流の貴婦人、エレガント・ハニー! しかして、その実体は…」 エレガント・ハニーはチョーカー(首輪)に着いたハートのアクセサリーをつまみながら飛び上がった。 「ハニ〜・フラッシュ!」 掛け声とともに、ハートのアクセサリーからまばゆいばかりの光が放たれる。 衣装の全てが千切れるように飛び散り、エレガント・ハニーは一糸まとわぬ全裸のままでスローモーションのようにゆっくりと宙返りした。 白い素肌の上を、光りが滑るように覆っていく。 そして…着地したのは、光り輝くシルバーフルーレを持つ、赤毛の女戦士。 胸の谷間を大胆にダイヤカットした、赤黒のピッタリとしたボディスーツで身を包んでいる。 「…愛の戦士キューティー・ハニーさっ! コブラ・ファング…覚悟しなさい!」 「何っ、キューティー・ハニーだと! 一体これはどうなっているのだ?」 唖然として青く変色したカメレオン・ファングにビデオ・コブラが説明をした。爬虫類よりメカニカルな分だけビデオ・コブラの方が 推理が早いようだ。 「いやっ、不思議なことではないぞ、カメレオン・ファング! 如月ハニー、エレガント・ハニー、そしてキューティー・ハニー… 全て同一人物だったのだ! そして、それを可能にしているのは…その肉体の中にある空中元素固定装置だ!」 キューティー・ハニーはフルーレを振りかざしながら、不敵に笑った。 「うふふっ、ようやく気付いたようね? だけどビデオ・コブラってカメラマンでしょう? そんなことを勘繰る前に、 私の変身シーンはしっかり録画してくれたの?」 「あっ、しまった! 目がくらんで、折角のヌードを録画し損ねた!」  「一世一代のスクープなのにシャッターチャンスを見逃すなんて、本当に使えないカメラマン…。これでくびは確実ね!」 「うぬぬっ、生意気な口を…。まあ良い何度でもひん剥いて、全裸をたっぷり録画してやる! いくぞ!」 あわてて視線を合わせるビデオ・コブラに、キューティー・ハニーはふっと息をつくと間髪を入れず床を蹴った。 「ヌードではないのに録画するなんて…。いいわ…役立たずなカメラマンはくびになる前に、このキューティー・ハニーが 引導を渡して上げよう! シルバーフルーレッ!」 素早い跳躍で宙を飛んだキューティー・ハニーはそのままフルーレを突き出した。 「一時停止!」 ビデオ・コブラが頭のボタンを押しながら叫ぶと、あと一センチというところで、キューティー・ハニーの動きが一瞬停止した。 ビデオ・コブラはフルーレの剣先から身をかわすとニヤリと笑っている。 一瞬後に、ビデオ・コブラが緩慢な動作で避けた 誰も居ない空間に、フルーレが突き出されたのは言うまでもない。 「…えっ? 一瞬動きが…何が起きたの?」 キューティー・ハニーは呆然としながら、ビデオ・コブラを見据えている。 「ちょいと一時停止させただけだ! ふっふっふ、どうしたキューティー・ハニー? かかって来ないのか?」 挑発するように手招きをするビデオ・コブラに、キューティー・ハニーは再度向かっていく。今度は走りながらの突きだ。 「シルバーフルーレの突きを受けて…ああっ、スピードが…ゆっくり・に・なっ・て…い…く」 鋭いはずのキューティー・ハニーの突きがみるみる減速した。もちろんビデオ・コブラに軽々とかわされてしまう。 「ふっふっふ、今度はスローモーションだ! コマ送りも可能だぞ!」 「あ・あ・っ・! そ・ん・な・バ・カ・な・!」 ビデオ・コブラの言葉通り、行き過ぎたキューティー・ハニーは呪縛にかかったようにぎこちない振り向き方しか出来ない。 「ふっふっふ、ゆっくりしたところで、こちらの攻撃も受けてもらおう! そうら!」  ビデオ・コブラは手近の台に乗っていた丸い花瓶を持つと、キューティー・ハニーに向かって放り投げた… といっても、投げつけたわけではない。受け止められるのを承知しているかのように、投げ渡したのである。 ただ「早送り!」とビデオ・コブラが唱えた途端、花瓶は猛烈なスピードに加速し、キューティー・ハニーに襲い掛かった。 "バッリッ〜ン!" 避け切れず、受け止めるしかないキューティー・ハニー。その胸で花瓶は爆発するように粉々に砕け散る。 キューティー・ハニーは勢いで吹っ飛ばされ壁に叩きつけられた。 「…くっ! とんでもない技…。早くなんとかしないと…」 ダメージにもかかわらず健気に立ち上がったキューティー・ハニーだが、先程までの余裕は既になく、心なしか焦りの色が感じられる。 間髪を入れずコブラ・ファングの攻撃が続く。 今度はカメレオン・ファングだ。 「シャア〜! …シャア〜! …シャア〜!」 連続して壁や床から浮き出るように、赤く伸びる舌が襲い掛かっていく。 カメレオン・ファング得意の壁や床と同色に変化してからの攻撃だ。 保護色だから、瞬時に舌の出所をつかむことが出来ない。 本格的な奇襲攻撃の前に、キューティー・ハニーは紙一重で避けるのが精一杯だ。 みるみるうちにコスチュームに筋が入り、かすり傷が増えていく。 「はっ…うっうう! こっ、これは…カメレオン・ファングねっ! くっ、どこから来るのか…! うっ、居場所が特定出来ない!」 「しゃしゃしゃっ、ちょこまかと逃げおって…小ざかしい! シャア〜!」 横の柱から伸びた赤い帯が、ついにキューティー・ハニーの手首に巻きついた。 「くっ、手首に…でも、これが命取りね! カメレオン・ファング、地獄に落ちなさい!」 絶体絶命と思いきや、そこはさすがに正義のヒロインだ。 キューティー・ハニーはすばやくフルーレを旋回させ、赤い帯を切断した。 「ぎゃひい〜いっ!」 いくらサイボーグでも、いや動物に似せて生み出されたサイボーグだからこそ、舌を切断されては堪らない。 断末魔の悲鳴が轟いたところで、キューティー・ハニーはすばやく柱の前で身構えた。苦し紛れに浮き出てくるカメレオン・ファングに とどめを刺すつもりなのだ。 ただ、そのとき思いもよらないことが起こった。 手首に残った赤い舌がピクピクと動き出したのだ。 赤い舌は痙攣しながらフルーレの柄に絡みつくと、ジワジワとキューティー・ハニーの指を押しのけていく。 舌に気を取られたキューティー・ハニーは一瞬隙だらけになった。 "シャア〜" 鋭い音をたてて、あり得ないはずの舌攻撃がキューティー・ハニーを襲った。 握りが緩められたフルーレは、二本目の舌にいとも簡単に奪い去られ柱に吸い込まれていく。 「しまった…フルーレがっ! でも…なぜ?」 口にフルーレを咥えながらカメレオン・ファングが柱から浮かび上がって来た。 「しゃしゃしゃっ、よく見ろ…これが舌かな?」 フルーレに絡みついている切り離された赤い舌。徐々に色を替え緑色になっていく。 「キューティー・ハニー、貴様が切ったのは舌ではない…赤く変色させた尻尾だ! 逆転を確信したようだが、残念だったな!  おっと、尻尾なら心配は無用だぞ。 しゃしゃしゃ、幸い俺様はトカゲの一種でね…そうら、もう次の尻尾が生えて来ている」 カメレオン・ファングは口の中の赤い舌をはっきり見せつけながら、余裕たっぷりに続けた。 「しゃしゃしゃっ、とにかくこれで丸腰だなキューティー・ハニー。そろそろ勝負を決めてやろう!」 技はおろか動作さえ制限してくるビデオ・コブラ。神出鬼没の奇襲攻撃と鋭い舌を持つカメレオン・ファング。 一対一の戦闘でさえ勝利はおぼつかないのに、同時に二人を相手にしなければならない。 さすがのキューティー・ハニーも額から汗を流している。 「くっ、仕方が無い…この勝負一旦預けて置くわ! とおっ!」 キューティー・ハニーは後ずさりすると、そのまま窓ガラスに向かって飛んだ。 「ぬっ、エスケープするつもりだな! そうはさせんぞ…しゃあ〜!」 「ふっふっふ、簡単に逃がすとでも思っているのかキューティー・ハニー! そうら…巻き戻し!」 窓ガラスを破りかけたところで、キューティー・ハニーの肉体が空中で急停止した。 カメレオン・ファングの舌が足首に巻きついたためでもあり、ビデオ・コブラの巻き戻しの術に捉えられたためでもある。 いずれにしてもキューティー・ハニーは元の位置へ引きずり戻されてしまった。 「まっ、まずいわ…」 逃げもならない…となると、キューティー・ハニーが思わず口に出してしまったように状況は最悪である。 残された道は開き直っての戦闘しかないのだが、先程も書いた通り、二対一で戦うは圧倒的に不利である。 元来、戦いというものは精神論で光明を見出せるほど甘いものではない。 それを証明するかのように、コブラ・ファングがこの日はじめての連携攻撃を見せると、キューティー・ハニーは 更に追い込まれるはめになった。 このペアの連携攻撃は実に単純だ。カメレオン・ファングが宙に飛び上がり背景と同化し姿を隠す。 そしてキューティー・ハニーの目の前で姿を見せると、ビデオ・コブラの早送りの術で加速し体当たりを見舞うのだ。 「はっ…うぐっ! んっ…後ろに…ぐっ! くっ…今度はどっち? ああっ、目の前…きゃあ!」 まるで「消える魔球」のように宙から浮き出てくるカメレオン・ファング。しかも四方八方から信じられないほどのスピードで 襲い掛かってくる。これではさすがのキューティー・ハニーもなす術が無い。 棒立ちのまま叩きのめされたキューティー・ハニーは、バランスを崩しその場に膝をついた。 「どうしたキューティー・ハニー、もうおしまいか? ふっふっふ、ちと物足りない気もするが、その分、拷問で楽しんでやろう。 まずは拘束する間、一時停止をしてもらおう!」 ビデオ・コブラは膝をついたキューティー・ハニーに近寄ると、ピンコードを取り出し両腕に巻きつけていく。 ビニールでコーティングされた丈夫なコードを巻かれては、この拘束から逃れることはほぼ不可能になる。 その上、ビデオ・コブラはコードを天井に廻し手繰り寄せる。 両腕を上から吊られた状態でキューティー・ハニーは引きずり起こされた。 両腕を上にして、一本の棒になったところで一時停止が解けたキューティー・ハニーは声だけでの抵抗を試みている。 「うっううっ、卑怯な…私の動きを止めないと攻撃出来ないの? しかもこんなに厳重に縛って…この意気地なし!」    「ほほう、まだ悪態がつけるのか。よかろう、それでこそ拷問も更に楽しめるというもの…。ふっふっふ、この肉体だけでも十分だがな…」 ビデオ・コブラはレンズの端をキラリと光らせると、おもむろにキューティー・ハニーへ抱きついた。 「きゃあ! あううっ…何ていやらしい抱きつき方…ビデオ・コブラ、止めなさい!」 「ふっふっふ、接写も技の内…止めるわけにはいかない! それにしてもこの柔らかさ、なんとも堪らん!」 キューティー・ハニーの肉体にレンズを擦りつけるビデオ・コブラは、明らかに興奮し、熱を持ちはじめている。 ゆらゆらと陽炎を昇らせながら、キューティー・ハニーの触感を楽しんでいたビデオ・コブラだったが、すぐに限界が来た。 「ふっふっふ、このレンズを胸の谷間に埋めさせて…。んっ、いかん、オーバーヒートだ。このままではショートしてしまうっ…」  「えっ…ショート?」 キューティー・ハニーが聴き返すより早く、ビデオ・コブラから立ち昇る陽炎が白煙に変わった。 "バリバリバリッ" 逆立っている赤毛を更に逆立てるほどの凄まじい電撃がキューティー・ハニーを襲う。 抱きついたままのビデオ・コブラと一緒に感電したキューティー・ハニーは、クネクネと身をよじらせて悶絶した。 「きゃあああ〜! 痺れるっ、うっあああっ〜! はあはあ…このままでは…」 電撃が収まるとキューティー・ハニーは大きなダメージを負ったのか、肩で息をしながらがっくりとうなだれている。 しかも電撃はコスチュームをビリビリに引き裂いたが、絶縁コードによる拘束は一切解けていないから、キューティー・ハニーの姿は 見るも無様で情けない。 それに対し、ビデオ・コブラはもんどりうつようにその場に崩れ落ちた。ただ、各種のランプは煌々と輝いており、 さほどのダメージを受けているようには見えない。一時的なショックはあるにしても、しょせんは機械仕掛けなのだ。 もうここまでいくと不運を嘆くより他に無い。 やる事成す事上手くいかないキューティー・ハニー。 それに対し、どんなミスを犯しても良い方に転ぶコブラ・ファング。 異次元での三度目の戦いは、キューティー・ハニーにとって最も苦しく、最も恥ずかしいものになろうとしていた。 ***つづく