平成13年3月23日・初版 平成16年2月6日・改訂(扉絵を追加)

金髪のアマゾネス・ソフィア戦記・第1章/AtoZ・著

イラスト:悪の司令官
--------------------------------------- ソフィア編 前編 (パイロン編外伝) --------------------------------------- これは ワンダーウーマンが 奴隷商人に捕われ 調教されている期間に起こった出来事で ワンダーウーマンは登場しません。 代わりに登場するのは ソフィアという アマゾネスです。 ----------------------------- ベトナム・マフィア ----------------------------- 中国マフィアと対立が激化しているベトナム新興マフィアのボス グエンの元を パイロンは 訪れていた。 【それで? 交換条件はなんだ ロン大人】 【何もありませんよ グエンさん。 抗争を止めて頂きたい だけです】 【無条件で 俺達にテリトリーを 明け渡すというのか? ロン大人】 【私は 臆病な人間なのですよ。 これ以上 貴方と戦争する気はありません】 【臆病な人間が 対立組織に ボデイガードなしで 1人で乗り込むのか?】 パイロンの背後には グエンの部下が2人立っていた。 彼等は パイロンが 少しでも可笑しな素振りを見せれば 即座に襲い掛かる態勢を取りながらナイフを構えていた。 その緊迫した部屋の中、睨み付けるグエンの視線を 受けながら たじろぎもせず パイロンは応えた。 【貴方なら 話し合いで解決できると思ったのですよ グエンさん】 【いいだろう 無条件で麻薬ルートとテリトリーを呉れるというなら 俺に文句はない】 【ありがとうございます グエンさん。 これで無用な怪我人がでる事はなくなるでしょう】 椅子から立ちあがり 手を差し出した パイロンに グエンは座ったままだった。 【では これで失礼します。 もう会わないのが お互いの為でしょう】 慇懃に挨拶をし 出て行こうとした パイロンの背中を グエンの言葉が 追った。 【1つ情報をやろう。 ワンダーウーマンは 中国人の金持ちに2000万$で買われたそうだ】 その言葉に パイロンは背を向けたまま 【ありがとうございますグエンさん。 でも 私には関心のない情報です。 ですが その情報は間違っています。買ったのは日本人で金額は1000万$でした】 パイロンが そう言って立ち去ったあと、グエンの部下のユンは ボスに質問した。 【ボス あいつを このまま帰すつもりですかい?】 【お前なら どうするのだ?】 【あんな軟弱な奴なら 締め上げれば 全部巻き上げられますぜ】 アーミーナイフを舐めながら 嘯くユンに グエンは 吐き捨てるように言った。 【お前は馬鹿か 奴を相手にして どれだけの組織が根こそぎ潰されたか知っているのか? 奴が呉れるのなら 黙って貰って置けばいい 俺はそれで十分だ】 せっかくのカモを見逃したボスの弱気に 不満をつのらせながら ユンは 黙って引き下がった が 部屋を出た彼には 別の考えが有るように 目を細めて呟いた。 【せっかく、呉れると言うんだ…全部…戴いてやるぜ ロン】 ----------------------------- パイロンの宿泊ホテルにて(1) ----------------------------- ホテルに戻ったパイロンを 豪華に刺繍がされた真紅のチャイナドレスを着た麗華が迎えた。 身体に密着したそのドレスは 麗華の均整の取れた姿態と 下着のラインを 浮き出させていた。 コートを受け取りながら 麗華はパイロンに科を作りながら交渉の結果を訊ねた。 【パイロン様 グエンとの話し合いは如何でした?】 【決着は付いたよ これで我々は麻薬部門から完全撤退できる】 【他の非合法活動は どうされますの? 全部撤退ですか?】 【麻薬や売春は もう我々には必要ない リスクが大き過ぎる】 【麻薬組織のメンバーは どうされます?】 【使える者は もう引き抜いた。 後は勝手にやらせればいい】 コートをハンガーに掛けると 麗華は媚びた姿態で パイロンの側に座ると 深いスリットを割って 脚を露にして組んだ。 【次の計画は もう決められましたの?】 【戦闘部隊を強化する必要が有る アモンだけでは荷が重いだろう】 【装甲騎士団やナイト・スネークでは 足りませんの?】 【もっと 身軽に動ける部隊が要る アモンクラスの人間を200人は必要だろう】 【そんなに? 馬鹿にならないコストとリスクですわ】 【コストなどたかが知れている だが実戦経験は必要だ 非合法部門を残す必要が有る】 【メンバーはどの様に 集められますの?】 【ロシアと東欧から選抜する それは バロンと光瀬に任せた】 【光瀬? 初めて聞く名前ですわ 日本人ですの?】 【ロシア人だよ 自信過剰な面が有るが有能な男だ いずれ君にも紹介する】 話をしながら 太股を露に擦り寄る麗華に、パイロンは 【食事を注文してくれないか? 一緒に食べよう】 そう言うと 立ち上がって奥の部屋へ行き 本棚から古びたアラビア語の本を手にとった。 そのとき チャイムが鳴り 麗華が怪訝そうな顔をしながら立ち上がった。 【何方かしら? 今日はアポイントはなかった筈ですわ】 ドアミラーを覗き込んだ麗華は 意外な来訪者に驚嘆した。 【ワ、 ワンダーウーマン!?】 ----------------------------- ホテルのラウンジ ----------------------------- ワンダーウーマンの姿がアメリカから消えて3ヶ月を経過していた。 パイロンはホテルロビーのカフェで、1人の女と話しをしていた。 女の年齢は20代前半に見え ワンダーウーマンと見間違えてもおかしくないコスチュームを着ていた。 真紅のビスチェ・星条旗の星をあしらった青紺のハイレグパンツ くびれた胴 豊満な胸 しなやかな脚 端正な顔立ちは ワンダーウーマンそのままだった。 だが 違っているのは ブルーの瞳とブロンドの髪だった。 女の名前は ソフィア パラダイスアイランドの使者だった。 【私に ワンダーウーマンを捜せと?】 【それが ヒポライト様の依頼です。報酬として フェミナムを10トン支払います】 【フェミナム等必要ない 条件はヒポライトだ】 【それはできません。貴方はダイアナが いとおしく ないのですか?】 【ヒポライトから 何処まで 話しを聞いた?】 【貴方とプリンセスの関係だけです。 お願いしますプリンセスを捜して下さい】 【断る。 ヒポライトは 今 何処に居る?】 【教えられません! 協力して貰えないのですか】 【君を 拷問して 喋らせてもいいのだぞ】 【私を捕らえても無駄です! アマゾネスは拷問に屈する事は有りません】 【そうかな? だが止めて置こう 話しは終りだ ヒポライトに帰って伝えてくれ、いずれ お迎えに伺うと な】 その言葉に ソフィアは目を見開き 立ち上がって 詰問した。 【パイロン! 貴方はそれでも!】 その先を言いかけた途端 ソフィアは自分の腹に 両手を当てうずくまった。 その格好は ”くの字”というより ”のの字”だった。 一瞬自分の身に何が起こったかも理解できず、その後の激痛にソフィアは息もできなかった。 【…腹に拳を打ち込まれた!】 ソフィアにも それは解る。 だが パイロンは座ったままだった。 【頼むなら IADCのトレバーに頼むのだな 二度と私の前に現れるな。 今度は手加減しない。 それと 私の事は仲間にも喋るな 喋ればドルシラを殺す 解ったな】 捨て台詞を残し レジで清算をしたパイロンは そのままロビーから去って行った。 パイロンが立ち去る後ろ姿を ソフィアは 唇を噛み締め激痛に耐えて見送っていた。 【見えなかった…】 銃弾の軌道さえ追う事ができる アマゾネスの動体視力でさえも見えなかった。 【プリンセスは あんな奴と 闘って い る の …私に は 勝て ない…】 それが恐怖となって ソフィアの全身に汗が噴き出していた。 【膝の震えが止まらないわ…】 腰を折って腹を押さえ 痛みが消えるのを待っているソフィアの前に 1人の男が現れた。 【ワンダーウーマンかと思ったよ】 不意に声を掛けられ 見上げたソフィアの前に現れたのは 風采の上がらない 緩んだ口元 焦点の無い目から 一見して馬鹿と解るような男だった。 【貴方は 誰? ワンダーウーマンを知っているの?】 【僕はAtoZ ワンダーウーマンの親友だよ】 【親友? だったら プリンセス いぇ ワンダーウーマンが何処に居るか知っているの?】 【知らない 僕も心配しているんだ もう3ヶ月も姿を見せないのだよ】 【そう… 私はソフィア ワンダーウーマンを捜しているの 協力してくれる?】 【いいよ! それじゃ作戦を立てよう ワンダーウーマンが現れるように】 【作戦? どんな?】 【君がその格好で映画にでるのさ そうすれば 偽者が現れた事に腹を立てて きっと本物が現れるよ】 【見かけだけ と思ったけれど…本物の馬鹿だったわ】 ソフィアは がっかりしてしまった。 ワンダーウーマンが姿を消したのは 何者かに拉致され監禁されているからであって 自分から姿を消している筈が無かった。 だが 見知らぬ国で 消息を絶ったプリンセスを捜すには この男も必要と考え直すと 期待をせずに聞いてみた。 【ワンダーウーマンが監禁されている事も考えられるわ 他に作戦は無いの?】 馬鹿は それには 応えず ソフィアの胸を覗きながら 聞き返した。 【君は 何処に泊まっているの?】 【私? 決めていないわ 何処か紹介してくれる?】 【僕の家においでよ 部屋が1つ空いているんだ そこで相談しよう】 いかにも 下心があるのを顔に出しながら 話し掛ける馬鹿だったが 【この男は…弱そうだし…危なくは無いと思うわ…いいかも知れない…】 とりあえず 馬鹿の世話になる事にした ソフィアは AtoZの後について行った。 だが ホテルを立ち去る その2人の後を 屈強な体格をした男が3人追っていた。 ----------------------------- ボロ アパート ----------------------------- AtoZに 案内されたソフィアは ボロボロのアパートに失望していた。 風采の上がらない 見た目通りの 貧乏人のAtoZが、 奇麗なアパートに住んでいる筈がないことを 世間知らずのアマゾネスは 予想出来なかったのだ。 が 案内された部屋が 意外に整理されているのを見て関心した。 【奇麗にしているのね AtoZは几帳面な性格なのね】 【違うよ きっと紅龍が掃除してくれたのさ】 【紅龍? あなたのフィアンセ?】 AtoZは ただのメイドだ と言いかけて 慌てて周りを見回した。 【どうしたの? 他に誰かいるの?】 冷蔵庫の中まで確認した AtoZは ソフィアに、 【いや 別に …紅龍は 何時も突然現れるからな 気を付けないと… 誰も居ないや… 紅龍はメイドだよ。 僕のファンなのさ さぁ くつろいでよ】 そう言うと 冷蔵庫から牛乳と棚から睡眠薬を取り出し コップに入れて スプーンでかき混ぜて ソフィアに差し出した。 【牛乳だよ 喉が渇いただろう 飲んでいいよ】 【今 何か薬を入れなかった?】 ワンダーウーマンのように 腰に両手を当てて質問するソフィアに 露骨に 下心を顔に出しながら 【ただのビタミンだよ パートナーの僕を信用しないのかい?】 【信用できないわ 先に飲んでくれない?】 図星をさされ 口を馬鹿のように開けたAtoZ ソフィアが その口に 牛乳を注ぐと AtoZはそのまま飲み込んでしまった。 【しっ しまった!】 【…やっぱりね】 飲んで直ぐに 倒れたAtoZは いびきをかいて 眠ってしまった。 馬鹿が眠っている間に ソフィアは部屋の中を調べ始めた。 部屋の中には ワンダーウーマンの写真や 映画関係の書籍が並んでいた。 だが ソフィアが 本を手に取った瞬間 エロ写真が 本の間からボロボロと零れていた。 【男性はこんな写真が好みなのかしら…一応 映画の仕事をしているようね… でも プリンセスを捜すのは どうすればいいのかな?】 ソフィアが途方に暮れていると ドアをキックする音がし 少女の声がした。 【アトズ居るの? 紅龍よ 入るわよ】 入って来たのは 紅龍と名乗った 10代後半の可愛い少女だった。 入るなり 少女は 倒れているAtoZとソフィアを見ると 険悪な顔を露にして詰問した。 【あんた! アトズに何をしたのよ!】 紅龍の剣幕に圧倒されそうになりながら ソフィアは笑顔を作り自己紹介をした。 【貴方が紅龍 メイドさんね。 私はソフィア 今日からここで泊めて貰うの】 ソフィアの言葉に コメカミを引きつらせ 紅龍は怒鳴った。 【誰がメイドよ! 出て行け この泥棒猫!】 【待って! AtoZが 泊まれと言ったのよ メイドと言ったのもAtoZよ】 【そんなこと、私は聞いていないよ! アンタ 叩き出されたいの!】 【待って! 私は貴方と喧嘩したくはないのよ。お願い 落ち着いて!】 2人が言い争っている内に 意識を取り戻し始めたAtoZは 険悪な雰囲気から 身の危険を感じ取ると こっそり 窓から逃げ出そうとした。 だが 窓に手をかけた途端 後ろから 2人に いや二匹の野獣に捕まってし 床に 両手を伸ばした格好で 引き摺り落されてしまった。 【アトズ! 誰がメイドなのよ! コイツは誰よ!】 【私に協力すると約束したのは嘘なの】 口を大きく開けて迫る2人が AtoZには 牙を剥いて迫る 虎と豹に見えていた。 2人を 数時間かけて 目を腫らしつつ 鼻血を拭きながら 説得に成功したAtoZは 紅龍の機嫌を取る為に 買い物に誘った。 ----------------------------- ストリート・ファイト ----------------------------- スラム街の公園では 今日もストリート・ファイトが行われていた。 観客は昼間から酒を飲んでいる浮浪者がほとんどだった。 リングも無ければ コスチュームもない ルールは相手がギブアップするまで という 素手の殴り合いだった。 プロレス・空手・ボクシング 武器を使わなければ なんでも良いという試合だった。 勝者には その日のホテル代と酒を飲むだけの金が入るが 敗者には 何も無い試合だった。 【行け! ぶっ殺せ! 腕を折れ!】 ぶっそうな声援が飛ぶ中 わずかの金を掛けて 必死で戦う男達、 その闘を 長身の体格のいい男が 周りの騒音とはかけ離れた冷静さで見ていた。 頑強な体躯をした1人の男が 近づき その男に話し掛けた。 【アモン隊長…女の居場所を突き止めました】 その言葉に アモンと呼ばれた男は 【駄目だな…ここに出ている奴では 使えない】 そう 言うと 静かにその場を立ち去っていった。 歩きながら2人は 顔を見合わせず 前だけを見て会話していた。 【向こうに2人残していますが 俺達だけで行きますか?】 【お前を入れて4人 それで十分だ アマゾネスの力を調べるだけでいい】 【美人ですぜ 捕らえる必要は?】 【倒してから考えればいい どの程度か 闘えば分かる】 アモンの言葉に 男は更に質問を続けた。 【なぜ アマゾネスを調べる必要が? 俺達の仕事の障害になると?】 【知らん。 だが 調べる必要があると言うなら 戦争も有ると 考えたほうがいい。 ロン大人は そういう人物だ。】 アモンは ロン大人の慇懃な態度は その牙を隠すものだと知っていた。 野獣のように その強さを誇示しないだけ 一層危険な男だと感じていた。 かって 採用テストで アモンはロンと闘った事が有った。 実戦を積んだ者ならは 数手で相手の力量は解るものだ、 技が解らなければ 部下を戦わせればいい。 だが アモンに対してだけは ロン大人は最初から立ち会った。 最初、アモンは パイロンを自信過剰な男と思った。 鍛え上げられた筋肉もなければ 骨格も太くない 格闘家としての片鱗さえ見えなかった。 戦士としての本能も 警告を発していなかった。 【…俺に負けて欲しいのか?】 ボスとしての面子を保つ為の八百長試合だと 直感した アモンだったが、 だが 闘ってすぐ その間違いに気付いた、 自分と同じ土俵で 同じ技で向かってくるのだ。 アモンは 自分に絶対の自信があった。 格闘技をベースにしていても、実戦で 身体で覚えた技だ 教科書など有る筈がない。 だが 相手はそれを その先を 知っているようだった。 アモンが、自分の築き上げたモノが 相手に通用しない と感じたとき、 その心を読んだように パイロンの身体が陽炎のように 揺れた。 【殺される】と直感し 無意識にガードしたとき 試合は終了した。 全身 汗に塗れたアモンと 汗ひとつかいていないパイロン。 普通なら 勝者とし君臨するか 相手の技量を称えつつ 尊大に振る舞うか だった。 だが パイロンは【君を採用する】とだけしか 言わなかった。 アモンは その時 威圧も危険も感じさせない男に 戦慄さえ覚えた。 だが 戦士のプライドから 格闘家としての興味から 後日にアモンが挑戦を申し込んだとき、 【あんたの技を見せてくれ】と言った直後、床に昏倒していた。 何を どうされたか 訳の分からないまま 開いた目に 眉間に第二間接を折った中指が有った。 【君は私にとって大切な部下だ、これで終りにしよう。 いいだろう?】 パイロンの言葉に アモンは 肯くだけだった。 そして、抱き起こされ 立ち上がったとき 彼の目に映ったのは 捻じ曲がった空間だった。 そして、アモンが誰も知る筈の無い 自分の技に関して、 パイロンに聞いたとき その答えは簡潔だった。 【中国では 2000年前から知られていた ことだ】と 黙って歩き続けるアモンに 男は質問をした。 【さっき ストリート・ファイトの連中が使えないと 言っていましたが‥】 男の質問に アモンは ぶっきらぼうに 応えた。 【奴等は 人を殺せない。最後の一歩で躊躇する奴に 戦争は出来ない】 男達は 路地から人通りのある街中に出ると 途中何度か立ち止まり 背後を警戒しながら そして 間隔を空けながら 目的の場所へと 歩いていった。 ----------------------------- 女戦士 ----------------------------- 紅龍とAtoZが部屋を買い物に出かけた後 AtoZの部屋で ソフィアはヒポライトとティアラ通信を行っていた。 【申し訳ありません パイロンを説得できませんでした】 【パイロンは条件を 飲まなかったのですね】 【フェミナムではなく ヒポライト様なら応じると…】 【… … パイロンは私なら応じると言ったのですね…いいでしょう】 【駄目 駄目です! そんな事は出来ません プリンセスは私が探し出します! ヒポライト様はそのまま モナコに居て下さい。】 そのとき ソフィアの背後に数人の男達が現れた。 【そうか モナコにいたのか おい! ロン大人に連絡しろ】 背後の声に驚いたソフィアは 通信を遮断すると 立ち上がって振り向いた。 【お前達は!】 ソフィアの前に現れた男は 長身の細身だが鍛え上げられた男だった。 その背後には 手下らしい男が3人立っていた。 【4人…少しキツイわね…でも逃がす訳には行かないわ】 ソフィアにも 実戦で鍛え上げられた男達だと 直感で理解できた。 ソフィアが 相手の戦闘力を 推し量っているとき、 男の部下が 連絡を取ろうとした。 ソフィアは とっさに男達の中に飛び込み 通信しようとしていた男の腕を掴むと壁に投げつけた。 男は器用に受け身をとって衝撃を最小にすると 直ぐ立ち上がった。 【…手強い相手のようだわ】 ソフィアの一瞬の隙を突いた行動に 男達は不意を付かれたが その後の反撃は 迅速だった。 控えていた男達が 一斉に襲って来た。 だがソフィアも 戦士の素早さで直ぐに応戦した。 右端の男にパンチを食らわせ 怯ませると その男を盾にして 他の男達の攻撃を躱した。 最初の攻防で アマゾネスの素早い動きに 慎重になった男達は 冷静さを取り戻すと、 3人の男が ソフィアを囲むように取り巻くと じりじりと壁際に追い詰めていった。 ソフィアも 取り囲まれ動ける場を失う不利は 分かっていた。 しかし 一歩前に出れば 前の男が引き 同時に2人が攻撃する気配をしていた。 結果的に じりじりと 後退して行くしかなっかた。 後退しながら、手に触れるもの 身体に当たるものを投げつけ、 相手の態勢を崩そうとしたが、彼等には通じなかった。 ソフィアの背中が壁に当たったとき 男達は 左右から 同時にパンチを繰り出した。 ソフィアは 左側の男の攻撃を躱すと 右側の男の手首を掴み 捻った。 だが 前からの時間差攻撃は 防ぐ間が無かった。 無防備となった胴にパンチを浴び 壁に押し付けられたソフィアは 崩れそうになりながらも 壁を支えに態勢を立て直そうとした、 だが 次の瞬間 顔面にパンチを浴び 仰け反ったソフィアに 左側の男が 左キックを仕掛けて来た。 ソフィアが、中断にあった右手で払いのけた瞬間、右側から キックが脇腹に抉り込んだ。 脇腹を押さえ 端正な顔に苦痛に滲ませて 激痛に耐える ソフィア。 ソフィアの コスチュームからはみ出しそうな豊満な胸が 大きく波打っていた。 【アマゾネスの戦闘能力を見せて貰おうか】 そう 嘯きながら 男達を割って 長身の男が前に進んで来た。 【俺の名前は アモン。ロン大人の戦闘部隊のリーダーだ】 【私は 私の名前は ソフィア アマゾネスよ】 痛みに耐えながら アモンを睨み付け 凛とした態度で名乗りをあげるソフィアに、 野獣の様な咆哮をあげ アモンのパンチが飛んだ。 【!!】 腹に響く男の咆哮に 一瞬 全身を縛られたように萎縮したソフィア。 アモンはソフィアの顔面を狙ってパンチを繰り出した。 本能的に両手で顔をガードしたソフィアの 無防備な腹部に重いパンチがめり込んだ。 アモンの拳は ソフィアのモデルのように引き締まった腹に 手首まで沈み込んでいた。 【あがぁ!】 息が止まり激痛が全身を走った。 嘔吐しかけ 思わず手で口を押さえる ソフィア。 その俯けた頬を 次のパンチが襲った。 【きゃぁぁぁあああああああああああああ】 アモンのパンチで吹っ飛ばされる ソフィア。 【お前は 騙しと 本物の攻撃の 区別も出来ないのか】 そう嘯き ゆっくりと倒れたソフィアに近づく アモン。 アモンが蹴りの届く範囲に来たとき ソフィアは反撃に転じた。 アモンの股間を狙って 長い足を蹴り出したソフィア。 だが その作戦は読まれていた。 蹴り出した足は アモンの手に捕らえられ、股裂きのようになってしまった。 【くっ! 離せ! 離しなさい!】 抗議する ソフィアの股間に アモンのキックが その秘所を突き破るように めり込んだ。 【!!】 頭の頂上まで走る激痛に 身を丸め 股間を押さえ 床に転がる ソフィア。 この男は 相手が女であっても 容赦することをしなかった。 ”闘う”以上 相手の性別や年齢・容姿は 関係なかったのだ。 無防備となったソフィアの くびれたウエストに 太股に アモンの蹴りが入った。 2発・3発 【ぐぁう! あぐぅ! ぁぅつ…】 一気に体力を消耗し 無様に床を這うソフィアに アモンの言葉が追い討ちを掛けた。 【アマゾネスの戦闘能力など この程度か? これならパラダイスアイランドの制圧も 問題はないな】 その言葉に戦慄するソフィア。 【パイロンは! パイロンはパラダイスアイランドに攻め込むつもりなの!】 【俺は ロン大人から アマゾネスの戦闘能力を調べて来いと言われた それだけだ】 アモンは 倒れている ソフィアのブロンドの髪を掴むと 手首を捻り髪を固定し 逃れられない顔面に パンチを打ち込んだ。 バラの花弁の様な唇が切れ 鮮血が飛び ソフィアはそのまま昏倒してしまった。 【アマゾネスの力は この程度だったのか】 【ワンダーウーマンを除けば この程度だろう】 【動きは速いが ダメージに弱いようだ 1対3なら俺達でも 楽勝だ】 【隊長 アジトに運んで 尋問しましょう】 【受けたパンチの借りを 返してやるぜ】 アモンの部下が ソフィアを運び出す相談をしているとき 背後から 少女の怒声が飛んだ。 【アトズの部屋で何をしてるの! せっかく私が掃除した後なのよ】 その声に アモンは ソフィアから 飛び離れると 声の主を確認した。 【げっ! 紅龍!】 部下達も 怒髪天を付く形相の紅龍に たじろぎながら アモンを注視した。 【…どうします隊長】 【…不味いですぜ】 呟きながら 呆然と立ち尽くす男達。 筋骨隆々の男達4人が 少女の前で 立ち竦んでいた。 オーナーのパイロンが 紅龍を可愛がっているという理由 だけでなく、 男達は 紅龍が暴走したときの噂を 何度か聞いていた。 その凄まじさは ワンダーウーマンと互角に闘った装甲騎士団を 1部隊丸ごと 戦闘不能に追い込んだ噂に 尾鰭が付いたものだった。 その紅龍が目の前に しかも 暴走直前の 気配を見せながら 立っていた。 それは 巣を荒らされた雌の虎が 眼前にいるような威圧を 彼等に与えていた。 アモンは 噂話など信じていなかった。 だが 眼前の紅龍を見た瞬間、 心臓が早鐘のように鳴り 血管が膨張していき、 さらにアドレナリンが沸騰し 全身から汗が噴き出すのを 感じていた。 【相手の姿に騙されるな。 こいつは野獣だ。危険だ。】 アモンは 戦士の計算というより 動物の本能として 恐怖を身体に感じていた。 選択肢は1つ。どう闘うかではなく どう逃げるかが問題だった。 紅龍は アモンを睨み付けると 外を指差し 叫んだ。 【出て行け!】 その言葉に 脱兎のごとく部屋から走り出るアモン それに続く男達。 男達に 理屈など無かった 身体が意識より先に 動いていた。 【もう大丈夫だよ アイツ等は 僕が追っ払ったから】 へっぴり腰で合気道の型を取りながら 男達を見送ってほっとした AtoZは 倒れているソフィアを抱き起こし 汚いベッドへ寝かせた。 一方の紅龍は ぶつぶつ文句を言いながら 散らかった部屋を片づけていた。 暴漢が去った後、AtoZに介抱され 傷の手当てをして貰ったソフィアは 礼を言いながら 別れを告げていた。 【ありがとう…私 急いで帰らないと 私達の国が危ないの…だから】 【でも 酷い傷だよ それでも帰るのかい ワンダーウーマンはどうするの】 【プリンセスも心配だけど 女王様も危ないの だから私 急いで帰らないとイケナイの】 せっかくの美人を 取り逃す未練を顔に出しながら 紅龍の手前 押し倒す事も出来ず 我慢するしかないAtoZだった。 介抱しながら 魅惑的なコスチュームを抱きしめたい誘惑も 背後の威圧に萎えてしまっていたAtoZだった。 ----------後編 女戦士陵辱へ続く-------------- 後記: この作品の戦闘編は KfromJ様の翻訳小説 Wonder Woman's Interrogation を参考にしました。 是非 K様の素晴らしい翻訳を読まれる事をお勧めします。