平成13年6月19日・初版 平成16年3月19日・改訂(扉絵を追加)

金髪のアマゾネス・ソフィア戦記・第5章/AtoZ・著

イラスト:悪の司令官
------------------ コラーン ------------------ 中東小国の皇太子から 招待を受けたパイロンは、ホテル最上階の1室を訪れていた。 部屋の中は 床も壁も 厚いペルシャ絨毯で 覆われていた。 【拝謁できて 光栄に存じます。 殿下】 【良く来てくれました。 貴方の会社の技術は 我が国でも 高く評価しています。】 【ありがとうございます。 殿下のご高名は 私めも お聞きしております。】 皇太子は 赤いカーフィアを黒いヤスマグで止めた アラブ特有の衣装で パイロンを迎えた。 儀礼的な挨拶を交わした後、パイロンは 持参した 周時代の青銅の方爐を 差し出しすと 皇太子に 勧められ 絨毯に腰をおとした。 【これは 素晴らしい。 これを 私に?】 【前9世紀の西周時代のものです。古代美術品に 造詣が深いと お聞きしましたので】 【ありがとう。せっかく貴方に来て戴いたのだが 今日はタソアで、 我々は断食をしなければならない。食事で歓待できないのをお詫びします。】 【明日はアシュラですね。存じております。】 【パイロン氏は クルアーン(コーラン)にも詳しいようだ。 ところで、貴方と個人的に 話が有るのだが…】 皇太子が 席を外せと目配せすると 側近達は 一礼して退出していった。 二人きりになった部屋で 皇太子は 立ち上がると パイロンの目を見ながら 言った。 【失礼なお願いだが…上着とシャツを脱いでくれないか】 請われるまま パイロンは 立ち上がると 服を脱ぎ 上半身の裸身を見せた。 【こちらに 背中を見せてくれないか?】 【これで 宜しいですか?】 側に近づいて パイロンの背中を指で撫でていた 皇太子だった が、 大きく溜め息を吐くと パイロンに言った。 【ありがとう…もういい…失礼な要求を お詫びする。】 【何か ご不審な点が ございましたか?】 【いいや…人違いだったようだ】 【人違いとは?】 二人の会話は 自然に英語から マグレブ諸国の方言が混じったアラビア語に移っていた。 【30年前 独立戦争のとき 我が国に 中国の武官が来ていた。 その人物の コードネームが パイロンだった。 当時、彼は戦場で私を庇って 背中に銃弾を受けた事が有った…】 【それで 私の背中に 傷が有るのではないかと?】 【私の幼い記憶の中の彼は 今の君と同じ顔だった。】 【似た人物は いるものです。 30年前なら 今は60代では?】 【常識なら そうだろう】 【…】 【君はアラビア語も堪能なようだが?】 【アンミーヤ(話 し言葉)を少し、フス ハー(文語)は未熟です。】 【君は昔 武術大会で優勝したと聞いたが。 鍛えた身体には見えなかったが?】 【優勝はフロックです。試合当日 相手選手が事故で負傷して 不戦勝となったのです。 幸運でした】 【でなければ…予定通り 2位の準優勝になっていた。】 【…】 【私も観戦したのだが、ロンドンでのフェンシング大会でも 2位だった。】 【覚えています。 カザフ氏と対戦した試合でした。】 【君は 準優勝だった。会場がヨーロッパでなければ 君の勝ちだったろう】 【優勝は カザフ氏の実力です。私は彼に勝てませんでした。】 皇太子は パイロンの目を見つめながら その仕種を 反応を 見逃すまいとしていたが、 パイロンの表情に変化はなかった。 だが 会話を進める程に 皇太子は 自分の推量に 確信を深めていた。 【その話はいい…それより…私の依頼を聞いてくれないか?】 【私で ご協力できることなら 喜んで】 また 会話は自然に 英語に戻っていた。 ・・・・・ 【我が国は まだまだ途上国だ。 打破すべき旧い習慣もある。】 皇太子は 打破すべき にアクセントをつけて話した。 【それを 私に依頼されるのですか 殿下?】 【私に協力して欲しい。見返りとして GIT社に 通信網整備を一任する。】 【技術分野での協力には 喜んで お手伝い致します。 殿下】 ・・ 【そうか…では 我が国と 君の会社の 未来を祝して 淡水で 乾杯しよう。】 ・ 【殿下の夢と 国王の健康を祝して 乾杯いたします。】 皇太子は 未来に パイロンは 夢に アクセントをつけて応えた。 【もう マグリブ(礼拝)の時間だ、今日は 君と再会できて 楽しかったよ。】 【では これで 失礼いたします。プランは至急お持ちいたします。】 パイロンが退出した後 皇太子は部下を呼び寄せると、 パイロンが手にした杯を指差して言った。 【そのグラスの指紋を調べてくれ】 【畏まりました。すぐ調べます。】 【如何でした? パイロンは信頼できる人物でしたか?】 部下が出ていった後、皇太子付きの武官が 訊ねた。 【私が知っている人物ならな…パイロンに関する資料はあれだけか?】 【はい、現状で集められるだけのモノは あれだけでした。】 皇太子に命じられ パイロンに関する資料を集めたとは言え、 それは 友好国の情報機関の資料や通信社の記事を スクラップしただけの モノ だった。 【肝心な部分が 抜けている】 【はっ?】 【独立戦争当時の、 いや、それ以前の資料が無い】 【しかし、独立戦争当時といえば 30年以上前です。当時の彼は まだ赤子では…】 【もう一度 調べて見ろ】 【畏まりました。】 武官も去った部屋で 1人 パイロンが持参した 方爐 を見つめながら 皇太子は 呟いた。 【背中に銃弾の傷はなかった…だが…あの肌の感触は…私にとって懐かしいものだった】 ------------------ 戦闘(1) ------------------ 暗い 広い地下室、コンバットスーツの1人の女を 3人の男が取り囲んでいた。 じりじりと 3方から迫る男達、だが女は 構えるまでも無いという 余裕だろうか 少し脚を開いた姿勢で 手をぶらりと下げたまま 立っていた。 何度も痛い目にあったのだろう、3人の男達の方が緊張し、動きも固く、 筋肉にも力が入っていた。 ジリジリと間合いを 縮めた男達が 先に動いた。 左右の男が 同時に ブン と風を切って キックを放った。 ほんの数センチ退いた女は それを躱すと、 時間差で繰り出された 前面の男の 伸び切ったキックを捕らえ 拳でその脚を砕いた。 【!!】 【…甘いな…状況判断ができていないぜ】 うめき声を上げずに 態勢を整えようと前面の男が引いた。 一角を崩した女は そのまま つーーと横に進むと 左の男の腹に拳を打ち込んだ。 一旦は 女の攻撃を払った男が 反撃しようとしたとき 視界から女が消えていた。 【フェイントか!】 と 解ったとき 脇腹に沈むほどの拳を 受けていた。 【うぐぅっ!!】 【…悪い癖が直っていないな…】 たまらず 声を上げ くの字に折れた男が しゃがみ込んだ。 無防備となった頭部に 女の踵が落ち 男はそのまま沈んでしまった。 【…全治1ヶ月という程度か…】 右にいた男が 垂直の壁を駆け上がり 女の背後に回ろうとした。 だが 床に脚をつけた瞬間。 その脚が鈍い音を立て 男は 苦痛で 脚を抱え”のの字”に身を捩った。 【…馬鹿か…無駄な芸をしやがって】 二人を倒され 手強いと見た男が コンバットスーツから 警棒を取り出した所で 声が掛った。 【合格だ!】 暗闇から 長身の男が ゆっくりと 進み出て 女の前に立った。 【まだ余分な動きが多いが 合格にしておこう】 【…】 【予約が入った。明日アルバニアに立つ 準備しておけ】 【…】 男の指示に肯いた女は 倒れている男達に 見下すような視線を投げつけると、 無言のまま 地下室に靴音を響かせ 部屋を 出ていった。 その後ろ姿を見送りながら 長身の男が 倒れている男達に命令した。 【お前達は 失格だ。見るに耐えん様だ。 もう一度 基礎訓練からやり直せ!】 ------------------ 戦闘(2) ------------------ 煙草の煙でくすむ 地下のショットバー カウンターでバーボンを飲む男が 側の女に 囁いた。 【時間だ。 そろそろ 行こう】 オフホワイトのパンツスーツに パンプスを履いた長身の女は 黙って肯いた。 午前2時 小雨の中を 並んで歩く二人は まるで恋人同士のように 歩調を合わせていた。 何も話さず 手も組まず ある距離を保ちながら ただ歩いていた。 その距離は 1人を狙撃したとき 即座に もう1人に照準を合わせるのが 困難な間隔だった。 男が人気の無いビルの 玄関の前で立ち止まり コートから煙草を取り出し それに火をつけた。 そのとき 女の姿は 街路から消えていた。 男が立ち止まったまま 煙草を吸っていた。 その姿は ある部屋の モニターに映し出されていた。 モニターを見ていた男が 合図をすると 部屋にいた二人の男が立ちあがる。 男は玄関に立ったままだった。 ドアが開き ビルの中から 背広のボタンを外したまま 出て来た男が コートの男の 前後を挟むように立った。 前の男が コートの男に 何かを言った瞬間 倒れていた。 咄嗟に 後ろの男が 銃を取り出した。 だが その男も 銃を握ったまま 反り返って倒れた。 それを モニターで見ていた男が 側の電話を取ろうとしたとき、 サイレンサーで 頭を撃ち抜かれていた。 モニターを抱くように倒れた男を 退かせ、 女がモニターに目を落したときには コートの男の姿は 消えていた。 モニター室に侵入した女が 電話を取り 内線番号を押した。 【…何だ…】 電話の向こうから 眠たげな男の声がした。 【ギルマンね】 【!!】 直ぐに電話が切れ 沈黙が訪れた、 女は銃のカートリッジを確認すると 一気に部屋を出て 階段を駆け上がった。 階段の上から数人の男の 駆け降りる靴音がした、 女は 足を止め 踊り場で 壁に身を固定して 銃を構えた。 男の姿が見えた瞬間 ブシュッ と軽い音がして 1人が崩れるように倒れた。 後の男が さっと 身を引き 銃を構え直した。 ほんの数秒が 数分に感じられる緊張。 静寂に痺れを切らした男が 壁越しに 階下を伺ったとき、 正確に眉間を撃ち抜かれ倒れた。 その頃 ギルマンと呼ばれた男は 窓から降ろされた梯子で壁を蹴りながら降下していた。 その足が 地上に着いたとき、男は崩れるように 両手を広げ 地面を抱いた。 ギルマンは目を開けたまま 小雨が跳ねる暗い地面を見ていた。 そのギルマンの側に コートの男の靴が現われる 男が 主人を失った梯子の先 窓に目をやった。 暫くして 気配を感じて 振り返った男の視線の先に 女が立っていた。 女は手に 銃とワンダーウーマンのゴールドベルトを握っていた。 【完了だ 直ぐ出国するぞ】 【了解】 【次は どうするの?】 【このまま アラビアへ向かう】 【アラビアへ?】 ------------------------- 戦闘(3) ------------------------- 人口が10万に満たない 中東の小国 ソルテァの王都 ファルデァ、 深夜 その王宮の庭園に 侵入する人影が あった。 二人の警備兵が庭園の茂みに 木の葉が揺れるのに気が付いた瞬間、 その場に崩れるように 倒れた。 倒れた男の喉は ナイフで切り裂かれ 大きく傷口を開けていた。 男は 横にいた女に 目配せすると テラスにワイヤーを打ち込み、 円柱の柱を駆け上がった。 二人は テラスに侵入した後 壁に絡まるツタを伝って 更に上へと進んでいった。 猫のような 機敏な動作で 最上階まで 一気に侵入した二人は、 迷路の様な通路を 迷う事無く 駆け抜けていた。 そして 一旦 目的の部屋の前で立ち止まると、 女は コンバットスーツを脱ぎ 宮廷衣装に着替えた。 【オルガです。お呼びにより 参りました】 【オルガ? 聞いていないぞ?】 女の声に 警備兵がドアの窓から見たとき オルガと名乗った女は ワンダーウーマンの ゴールドベルトとコスチュームを 見えるように掲げた。 【ギルマン様から これをお届けするようにと…】 中の警備兵が 銃を構えながら扉を開けた、 女は 降ろしたほうの3本の指で 背後の男に人数を教えていた。 警備兵がコスチュームを受け取ろうと前に立った瞬間 女が脇に移動すると、背後の男が 小銃を速射し 中にガス弾を投げ込んだ。 最初の3人が即死した後 中にいた男達が 煙に むせ返りながら反撃しようとしたが、 入れ替わった女に 頭を吹き飛ばされていた。 まるで同心ニ体のような 見事なコンビネーションだった。 そのまま二人が 奥の部屋に侵入したとき、 大きなベッドの上に 裸の男と それに 奉仕している 3人の女がいた。 【キサマ! キサマ達は何者だ!】 脅える女を盾に威圧的に声高に叫ぶ男。 侵入者は 盾にされた女の眉間を撃ち抜くと 男の頭に銃を向け 言った。 【ワンダーウーマンは 何処にいる? 3つ数える内に答えろ 3】 【ワシ ワシを脅しても 無駄だ】 【2】 【ワシを殺しても…】 【もういい 死ね】 【まっ! 待て! 奥だ! 奥の部屋にいる その壁絵の向こうだ】 それを聞いた女は 手探りで壁を調べ 扉と思われる部分を見付けると 男に合図した。 【どうやって 開ける。 また数えようか?】 【リモコン リモコンだ! わしのベッドの下にある!】 男は銃を 裸の男に向けると トリガーに指を掛けたまま聞いた。 【死にたいのか? 早くしろ!】 裸の男が ベットの下から リモコンを取り出したとき、 女達が 部屋から逃げ出そうと 走り出した。 だが 次の瞬間 もう1人の女に 二人の女が頭を吹き飛ばされていた。 【待て! 今 開ける 射つな】 リモコンが操作され 壁絵が開くと 中に鉄格子があった。 その中に 死んだように眠る ワンダーウーマンの姿があった。 ワンダーウーマンは ティアラと首輪を身に付けただけの姿で、 全身汗と白く濁る液に塗れ 手足を投げ出すように 倒れていた。 乱れた長い髪が 頬に纏わり 陵辱の限りを尽くされた後だった。 豊かなバストの先端 ピンクの乳首には 痛々しいピアスが、 同様のものが クリトリスを貫いていた。 奴隷商人に捕われ カリブ海の孤島で調教されたワンダーウーマンは そこでのオークションで 日本人に落札され 東洋に運ばれた。 調教師に責められ 縄の味を覚えさせられていたワンダーウーマンは 日本で処刑される寸前 ヒシュタル教団のギルマンによって 拉致された後、アラブの国王に再び売られていた。 絶望と快楽に溺れるまま 落ちて行った ワンダーウーマンは 逃亡する意志も・救出される希望も 失っていた。 鉄格子が開かれ 女がワンダーウーマンに近寄った。 女は 素手で鎖を引き千切ると ワンダーウーマンを揺り起こした。 【ダイアナ! ダイアナ・プリンセス!】 その声に うっすらと目を開けた ワンダーウーマンに 女は コスチュームとゴールドベルトとブレスレットを手渡した。 【…これは?…貴方は?】 か細い声で問う ワンダーウーマンの質問に答えず 女は言った。 【それを使って、自力で脱出しなさい。プレーンは東側の林を抜けた所にあるわ。 私達が衛兵を引き付ける。時間は10分よ!】 【…貴方は 誰?…どうして私を?】 女が何かを言おうとしたとき 男が声を掛けた、 【行くぞ! 警備兵が来る!】 女は ワンダーウーマンに錠剤を渡し その手を握り締めた。 【それを入れなさい 体力が回復するわ。 いい! 時間は10分よ】 【入れる? これを何処に?】 【胃袋で消化するより 腸から吸収したほうが早いわ。】 【…】 女は 戸惑うワンダーウーマンを 振り返らず そのまま 駆け出して行った。 男は 後ろ手錠を掛けた裸の男を盾に 通路から駆けつけた兵士を 無造作に殺していた。 既に 10数人が無造作に 殺戮されていた。 もし兵士達が発砲すれば 彼等が躊躇せず 国王を射殺する恐れは 十分にあった。 兵士達は 人質の国王を盾にされ 反撃も出来ぬまま 後退していった。 男と女が テラスに出たとき 下の庭園は 警備兵で溢れていた。 【無駄だ! お前達は逃げられん 降伏しろ! 命は助けてやる。】 【…】 【お! お前達は 何者だ! 誰に頼まれた!】 【…】 国王は 萎えた股間を曝したままの屈辱に塗れながら 何も答えない男に 恐怖を感じていた。 進入者がテラスに出たとき、既に背後の入り口は 狙撃兵で固められ、 無数の照準レーザーの光が 犯人を捕らえていた。 爆弾を全身に巻いた男が前に立ち 女はその後ろから 裸の男のコメカミに銃を当てていた。 男は自分の腹に巻いた爆弾に銃を当て 警備兵を威圧して言った。 【3秒以内に照準を消せ! でなければ 自爆する】 男が数を数えると同時に 光は消えていた。 【何が望みだ! 言って見ろ! お前達の要求を言え!】 裸の男が 叫んでいた。 しかし 男は無言のままだった。 張り裂けそうな緊張が 不気味な沈黙が 兵士達を焦らせていた。 そのとき… 警備の司令官らしい男が 兵士を割って 前に現れた。 【君たちの話を聞こう。要求を言ってくれ】 【…】 【君達に逃げ場はない。銃を捨てろ。 発砲しないと約束する。】 【…】 【君達に要求はないのか なぜ応えない?】 【…】 【君たちと話がしたい。兵士を下げる。どうだ?】 【…10分立った…な】 【要求を言ってくれ。死ねば 君達の声は 誰にも届かないぞ!】 【…】 【兵士を下げさせろ!】 指揮官は 暴漢の警戒心を解く為に 部下と暴漢に聞こえるように 命令した。 【国王は預かる。我々が安全な場所に撤退してから 要求を伝える】 懸命に説得しようとする指揮官に 男が始めて応えた。 男が答えたことで安心した指揮官は さらに訊ねた。 王宮に侵入し 国王を拉致した暴漢が 自爆覚悟の狂信者でないと判断した彼は、 暴漢を説得する 糸口を掴もうとしていた。 【どうやって ここから出る? 車が要るなら我々が手配する。】 【…】 【どこかと連絡したければ、無線も提供する。言ってくれ。】 【…来たな】 そのとき 指揮官は 微かに 重い羽音を聞いた。 【…あの音は?…ヘリか!】 指揮官も兵士達も音に気付いた頃 男が言った。 【聞け! 俺達は脱出する。 照準を合わせたら その場で国王を射殺する いいな!】 男の 腹に響く太い声に 指揮官は 要求に応じるように 肯いた。 【あれに乗ってもらおう】 男が指を差す方向 空に 黒く機体を塗りつぶしたヘリが有った。 【そんなもので 逃げられんぞ!】 国王は 自慢だった警備と衛兵の無能を罵りながら叫んだ。 女は 裸の男を抱えると 一気に飛び上がって ヘリに飛び込んだ。 【!! そんな馬鹿な!】 眼前の光景が信じられないと 唖然とする 指揮官と兵士。 女が男を抱えたまま 空中にジャンプなど 出来る筈が無かった。 手が出ない衛兵を尻目に、テラスに 黒く塗装されたヘリから 梯子が降ろされた。 男は 庭園に仕掛けてあったガス弾を爆発させると、 梯子に飛び移り そのまま ヘリを発進させた。 狼狽・混乱する兵士達に 空に目を向ける余裕が戻ったとき、 高度を上げたヘリから 銃声がして、空から裸の男が落下した。 地上に落ちた男は 頭を打ちぬかれ 即死していた。 … 翌朝 沿岸で タンカーに収容された二人は 艦長から報告を受けていた。 【ご苦労だった。既に軍も警察も ファウド皇太子が掌握した。】 【それで、事件は?】 【緘口令が引かれているが クーデターにより暗殺されたとの噂が 喧伝されている】 【全て 終了か?】 【後は君達を運ぶだけだ。 どこへ行きたい?】 【フランスへ 向かってくれ】 そう言うと 男は 側の女を抱き寄せ 口付けをした。 【パイロン様へ 報告しろ。 アモンとソフィアを回収。地中海へ向かう。】 【了解。】 これは ソフィアとアモン 二人にとっては 何度目かの協同作戦だった。 ヒポライト女王に依頼され、パラダイスアイランドから、 ワンダーウーマン救出を託された ソフィアだったが、 パイロンに捕われ その部下になる事を誓って 命を救われた。 アモンは 教官として ソフィアを育て上げ 二人は昼も夜も寝起きを共にした。 何度かの作戦を経て、徐々に アモンに惹かれていったソフィアは 過去を忘れる為 自分から アモンを求めた。 それが 二人の 新たな始まりだった。 案内された 狭い船室で 二人は裸身を絡ませ 抱き合っていた。 【パイロンは なぜ ワンダーウーマンの救出に同意したの?】 【そんな話は 最初からない】 【貴方の 独断なの!?】 【君のしこりを取っただけだ。 任務は果たした。】 【国王を暗殺したこと? なぜパイロンが国王を殺す必要があったの?】 【皇太子がパイロンに依頼した。】 【なぜ パイロンが引き受けたの?】 【知らん? それより】 【それより?】 【あのコスチュームは お前のだろう?】 【もう 私には 必要ないものだわ それより】 【なんだ?】 【フランスで 次の仕事なの?】 【休養する。 一ヶ月はのんびりしたい】 【駄目! 休養させないわ】 【???】 【私の相手をするのよ】 【いいだろう…眠れないぞ ソフィア】 【嬉しわ 貴方って最高よ! 愛してるわアモン】 ------------------------- ワシントン IADC本部 ------------------------- 【トレバー長官! ダイアナさんから連絡です。】 その声を受けて 受話器に飛びついたトレバーは 懐かしい声に 目を潤ませていた。 【無事だったかダイアナ! … 今 何処だ! … 私が迎えに行く 場所を教えてくれ!】 電話の向こうから 啜り泣きが 聞こえていた。 涙で 途切れながら 無事だという 返事が 返っていた。 それを 聞きながら トレバーも 声を詰まらせていた。 ----------ソフィア戦闘編(1) 完---------------