平成13年7月6日・初版 平成16年3月26日・改訂(扉絵を追加)

金髪のアマゾネス・ソフィア戦記・第6章/AtoZ・著

イラスト:悪の司令官
パイロン戦闘部隊シリーズ 2前編 ------------------ イタリア ------------------ 夕暮れ時の繁華街を大型レスラーのような巨人が歩いていた。 その男が 場違いなショーウインドウのドレスを覗き込んで見ていたとき、 いきなり 後ろから巨人の尻に ファックユーの形で指を立てた男が居た。 巨人が ゆっくり 背後を振り替えった。 にやけた笑いを浮かべる3人のチンピラ達。 次の瞬間 左右の男の頭が 真ん中の男を挟むと 巨人の頭の位置まで持ち上げられ そして 地面に叩き付けられた。 それを見ていた チンピラの仲間が 指笛を鳴らすと 20人近い男達が 集まって 巨人を2重3重に取り囲んだ。 その中には ナイフやバット チェーンを持っている男もいた。 【おらぁ このデブ! よくも仲間を痛めつけたな】 【この大馬鹿野郎 トスカレッリのシマと知って暴れているのか】 【死にたいのか デブ! 殺すぞ】 甲高い言葉で威圧する大勢の男達に 巨漢は大きく息を吸い込むと 腰を下げ 集団の中を突進した。 一角が あっという間に崩れ 駆け抜けた巨人を追って 残りの集団が走り出した。 狭い路地を駆け抜ける巨人 それを追うゴロツキ集団 蜘蛛の子を散らすように逃げる人達。 男の意外なスピードに 息を切らしながら追っていた先頭集団から 悲鳴が上がった。 反転した巨人の体当たりで1人がぶっ飛び その1人が左右の仲間を 先頭が後続を まるで 将棋倒しの様に ぶつかりあって自滅していった。 しかし 巨人が町外れまで来たとき チンピラ達の数は 50人に膨れあがっていた。 人気のない場所に来たことで 逆に武器が使える余裕から 男達はゆっくり 包囲網を狭めていた。 【野郎 舐めやがって】 【ぶっ殺してやる】 【てめぇ ズタズタに切り刻んでやる】 【ボスに連絡しろ トスカレッリさんの前に引き出してやる】 殺気立った男達に囲まれながら巨人は 自転車置き場に目をやると また 大きく息を吸い込み そちらに駆け出した。 巨像の暴走を阻もうと バットを振った男がいた その男が打撃の反動で肩を脱臼していた。 ナイフを刺した男がいた そのナイフが刺し通らず指を落す男がいた。 背中を銃で撃つ男がいた だが巨人の駆け抜ける速さは変わらなかった。 行く手を遮る男がいた その男はトラックに跳ねられたかのように弾き飛ばされた。 巨漢を追った男達の頭上に 自転車が バイクが 回転しながら降って来た。 銃声が止み静寂が訪れた頃 チンピラ達のボス トスカレッリが 現れたとき 路上に血まみれで蠢く男達がいた。 尺取虫の様に尻を上げる者 顔面血だらけで昏倒する者 自転車やバイクの下で伸びている者 そんな 男達の間を 4人のボデイガードを引き連れた 高級スーツを着た男が歩いて来た。 その姿を見て バイクに腰掛けていた巨漢が 服に打ち込まれた銃弾を払い落とすと 立ち上がって 歩み寄って来た。 トスカレッリ【お前が やったのか】 巨漢 【話し合いで形をつける気があるか?】 トスカレッリ【原因は なんだ?】 巨漢 【アンタの手下が 俺の尻にファックユーをした】 トスカレッリ【そうか 済まなかったな…おい!】 ボスが そばに居たボデイガードに目配せすると 彼等は 倒れている男達から 犯人を聞き出し チンピラを引きずって来た。 トスカレッリは その男に謝罪させ 友人として食事に誘ったとき 巨漢の携帯が鳴った。 巨漢は ちょっと待ってくれと 手で合図すると 指で携帯を摘まんで電話に出た。 【玄武だ。パイロンか どうした?】 ------------------ フランス ------------------ ソフィアが 心地よい眠りから目覚めたとき 側にアモンの姿は無かった。 けだるさの残る手を伸ばし シーツの温もりを感じたとき 抜け殻さえも愛しむ様に さっき迄の余韻を思い出し 微笑むと また 目を閉じた。 【…アモン…】 もう一度薄目を開け シーツの上に一筋の髪を見付けると それを指で摘まみ 自分の頬に摺り寄せて何度も撫でた。 【…好きよ…】 今のソフィアには パイロンもダイアナも 異世界の出来事だった。 アマゾネスの女王ピポライトから 失踪したワンダーウーマンの救出を任され 1人で パイロンに立ち向い、敗北し陵辱され レイプサバイバーとして闘ったとき、 自分には 他のアマゾネス達が信じる 輝く明日も 夢見る今日も無かった。 だが 今は 世界中の幸せが 自分にあると信じていた。 アモンの愛に包まれ 身体も 心も 満たされていると感じていた。 【…愛してるわ アモン…】 アモンとソフィアの二人は 最初は 敵として、そして共に戦ううち 互いを もう1人の自分として 意識していった。 その時 ドアの鍵穴に 鍵が刺し込まれ 音を殺しながら静かに回った。 そして ゆっくりと ノブが廻り始めたとき ベッドの上に ソフィアの姿はなかった。 灯かりをつけないまま 男が1人 絨毯の上を靴音を立てずに 歩いて来た。 ベッドの前で立ち止まった男は 苦笑しながら 両手を挙げると 言った。 【俺だ。銃を仕舞え ソフィア】 聞きなれたその声に 暗い壁の奥から 銃を構え 裸身を惜しげも無く曝しながら 現れたソフィア 豊満なバスト くびれたウエスト しなやかな脚 天賦と鍛練による 均整の取れたその姿は 男の心を そそらせるものだった。 【私を置いて 何処で浮気していたの アモン】 【手を下ろしていいかソフィア シャンペンが重いのだが】 【シャンペン? それを買いに行ったの】 【今日が 何の日か忘れたのか?】 【…???】 【俺達の記念日だ】 その言葉に 何かを思い出し 銃をベッドに放り投げ 裸のままアモンに飛び付くソフィア。 【好きよアモン 私を1人にさせないで】 抱き合って絡み合ったまま 二人がベッドに倒れ込んだとき 電話が鳴った。 【いぁーーん 出ないでぇ】 電話に手を伸ばそうとした アモンの上に被さり 大きい胸に顔を埋めて 甘えた声で ぐずるソフィア、 そんな ソフィアを 持て余しながら アモンは仰向けの姿勢のまま手を伸ばし 受話器を取った。 【アモン隊長か?】 【今休暇中だ 仕事なら他に回してくれ。あんたは?!…分かった】 軽く電話を受け流していたアモンの耳を ソフィアは 自分の金髪を指先に絡め擽っていた。 だが 相手を確認したアモンは それを払いのけると ベッドから起き上がり ソフィアを促した。 【移動するぞ 直ぐ服を着ろ!】 ------------------ マケドニア ------------------ マケドニア政府軍への大規模侵攻作戦を立てていたアルバニア系ゲリラ「国家解放軍」は 北西部テトボ近郊の山中で集結中に 国籍不明のゲリラの襲撃を受けていた。 宝石を散りばめたような星空に 突然現れた 3機の戦闘ヘリは 弾薬を満載したトラックを 狙って ミサイルを連射した。 枝や枯葉で隠蔽され迷彩された車両が 的確に破壊され 爆発延焼する炎で 浮き上がるテントの前 逃げ惑う兵士が 次の目標になっていた。 反撃する者 逃げる者 負傷し転げまわる者 混乱と叫喚の中 個々に指揮官が狙撃され 組織的な反撃は不可能となっていた。 ヘリの攻撃が ミサイルから 機銃掃射に移った頃 狙撃隊のリーダーらしき男が 司令部らしきテントに駆けて行った。 その周辺には 迫撃砲の斉射で 吹き飛ばされた死体が散乱していた。 男は 転がっている足首や頭に 足を取られぬ様に気を配りながら テントに近づくと 自分の服と顔に血糊を付け 銃を構え直して中に入った。 同じ戦闘服 同じ武器 混乱の中では敵味方の判断など出来る筈が無かった。 テントに男が入ったとき 司令官さえ 男を敵とは思わなかった。 【こちらへ ご案内します】 と言われ肯いた司令官が 背を向けて書類を持った瞬間 頭を吹き飛ばされていた。 男は 倒れた男から書類を奪うと 岩場へと駆け抜けた。 ヘリが銃弾を撃ち尽くし 飛び去った頃 男は部下を集めていた。 【20人全員 無傷のようだな。俺の作戦は 我ながら見事だな 自分で自分に惚れそうだぜ】 2000人規模で集結していた組織が壊滅状態になり、 再集結を始めたゲリラに 今度はマケドニア政府軍ARMの掃討作戦が開始されていた。 明け方 山岳地帯を抜けた男は 無線で 何処かと連絡を取っていた。 【光瀬だ作戦終了。これからスコピエへ向かう。俺の採用した奴等はどうだった? …不合格が200人?…おい おい 苦労して集めたメンバーだぞ。 …しかたないな アルメニアで 又 メンバーを集めるか …CIA? それが どうした。…分かった ロシアへ情報を届ければいいのだな】 光瀬と名乗った男は 日系ロシア人の旧KGB特殊部隊教官であったが ソ連崩壊後 パイロンに拾われ その傭兵人事部門を任されていた。 光瀬は 失業したロシア・東欧のスパイや特殊部隊隊員をパイロンに斡旋し その戦闘部隊の増強に貢献していた。 ------------------ アメリカ ------------------ 麗華 :【パイロン様 主だった者には連絡を入れました。】 パイロン:【私も玄武と紅龍には連絡した 後は義父の廣総裁だな】 麗華 :【本当に戦争されますの? 相手はCIAですわよ】 端正な容貌ながら パイロンの秘書として 普段は女王のような尊大な態度とる麗華も 今度の CIA相手の全面対決には 不安と恐れを抱いていた。 だが パイロンの態度は普段と変わらぬそっけないものだった。 パイロン:【それが どうかしたのか?】 麗華 :【い、いいえ…】 超大国アメリカの誇る情報機関を相手に戦争することを 意に介さないパイロンの態度に 麗華は 返す言葉を失っていた。 パイロン:【君も 当分 父親の元にいろ】 麗華 :【でも、パイロン様1人では】 パイロン:【心配などいらん。相手が仕掛けて来たのだ 受けて立つだけだ】 麗華 :【…でも】 パイロン:【大丈夫だ、いずれ相手から折れてくる】 そう言うと パイロンは 麗華を抱き寄せ 唇を重ねた。 緊迫した状況での パイロンからのファーストキスだった。 麗華は 肩にパイロンの手の重さを感じたとき その身体を電撃を浴びたように突っ立って がくがく震える膝で必死に身体を支えながら パイロンの口付けを瞳を閉じて迎え入れた。 麗華は 股間が熱くなり じわっと 濡れるのを感じながら されるがままになっていた。 沈黙の後 パイロンが ゆっくりと 麗華を離したとき ドアをノックする音がした。 不規則な ノックの後 若い女の声がした。 【早紀子です。 麗華様をお迎えに来ました】 早紀子と名乗った小柄な女性は パイロンの情報部門の責任者 灘川部長の秘書であり 灘川が収集・分析したレポートをパイロンに届ける 上級連絡員だった。 早紀子は 20代後半の若さでありながら 各国語に通じ 非戦闘部員でありながら 祖父直伝の 日本古流の武術の達人でもあった。 パイロン:【さぁ 行くんだ】 麗華 :【い や …お願いです…このまま 側に置いて下さい…】 頭を振って いやいやをする麗華の引き締まった腰に手を当てて 身体を引き離したパイロンは 早紀子を部屋に入れると、持って来た資料を麗華に手渡した。 パイロン:【中国大使館の李部長に 君からこれを手渡して欲しい】 麗華 :【これは…】 パイロン:【中国にいる CIAのメンバーリストだ】 麗華 :【でも、後で困るような事は?】 パイロン:【慌てるだろうな。私を相手にする余裕など無くなるだろう】 早紀子 :【大使館まで お送りします 麗華様】 麗華 :【でも…】 パイロン:【命令だ 行きなさい。私も下まで送ろう。】 パイロン・麗華・早紀子の3人が 地下駐車場に降りたとき、 待っていたように 揃いの紺色のスーツを着た 屈強な4人の黒人が 彼等の前に現れた。 男達は いずれも 服の上からでも鍛えた筋肉が解るような体格と精悍な顔をしていた。 【予定変更だ 麗華は私が送り届ける。 早紀子君 後は頼んだぞ】 そう言ってパイロンは 麗華を庇うよう抱き 車に向かって走り出した。 それを見た男達も 俊敏な動作で 背広のホルスターからルガーを取り出し 駆け寄って来た。 【な、なんで私が!】 唖然とし 抗議する相手を失い 立ち尽くす早紀子の前を 男達は通り過ぎようとしていた。 ----------------- パイロンと麗華が 中国大使館に車を滑り込ませた頃、 踵の折れたヒールを手に持ち ナイフで切られたタイトスカートを庇いながら GIT社に戻った早紀子は呟いた。 【修繕費と危険手当 それに特別ボーナスを請求してやるわ 覚悟しなさい灘川部長】 だが 早紀子が席に戻ったとき、灘川は 彼女への置き手紙を残して 姿を消していた。 【くっ、逃がさないわよ部長】 ----------------------------------- CIA ----------------------------------- ワシントン 言うまでもなく超大国アメリカの首都である。 都市の発達が 人間の営みに便利といった自然の地勢から選ばれ 商業・政治・軍事・宗教を要因として自然発展するのが通常だが、 ここ ワシントンは例外として 人工的に作られた都市だった。 1776年の独立宣言後 一進一退の戦争の末 1783年のパリ講和会議で ヨーロッパ諸国から 独立が承認されたアメリカだったが、 当時 首都はなく 独立13州の連合会議は 持ち回りで開催されていた。 その後 南部・北部の対立も絡み 1790年から10年間の暫定首都として フィラデルフィアが決められたが、 初代ジョージワシントンの頃に ニューハンプシャーとジョージアの中間地帯に 首都設置案が成立した。 当初この地域はコロンブスの名をとって 「テリトリー・オブ・コロンブス」 市は「フィラデル・シティ」と名付けられたが 1796年に「ディストリクト・オブ・コロンビア」 市を「シティ・オブ・ワシントン」 と改名した。 初代大統領が死んだ翌年 1800年に首都ワシントンに合衆国政府機関が引っ越した。 ワシントンに任命され フランス人のランファンよって始まった都市計画は アレキサンダーシェファードが市を破産状態に追い込みながらの財政投入の元 公園・道路・下水・並木と目をみはる景観が完成し、 壮大な首都建設計画は ジョージ・マクミランへと引き継がれていった。 パイロンとCIAの全面戦争が始まる 前日の夕暮れ時のこと、 そのマクミランによって建てられた ギリシャ神殿を模したリンカーン記念堂で パイロンはCIA長官と歩きながら 話を続けていた。 【ロングループをCIAの管理下に置きたいと?】 【君にとって 悪い取り引きでは無いと思うがね パイロン君】 【お断り します。】 【逮捕されてもいいと 言うのかね?】 【それは USAの決定なのですか?】 【私の意思は CIAの意思 すなわち USAの意思だ】 【後悔されない と いうことですね?】 【君が選択しろ。組織を壊滅させられ逮捕されるか 私の管理下に入るか どちらかだ】 【無意味な戦争は避けたい が 避けられないならば闘う 相手がCIAでも同じだ】 【CIAを相手にする事は アメリカ合衆国を相手にする事になるのだぞ 解っているのか?】 【これは 私と貴方の闘いだ USAとは関係ないと 思うが】 【大した自信だな。勝てると思っているのかね?】 長官のその言葉に 歩みを止めたパイロンは 相手を射抜くように見ながら 言った。 【自国のスーパーヒロインさえ 国益から 見捨てた国だ 負けるとは思わない】 【アラブのソルテァ国王に売られたワンダーウーマンのことを言っているのかね】 【そうだ 貴方のことだ 長官】 【君の無礼は許そう、3日の猶予をやろう。私が期待する返事を待っているよ パイロン君】 パイロンの肩に手を置き 去って行く長官 その後ろ姿を見送りながらパイロンは呟いた。 【猶予は3日か。CIAが行動を開始するのに2日もかかると言うことか。 随分のんびりした組織だな…】 ------------------ モンスター ------------------ すぐ近くで砲弾が爆発し 木々を吹き飛ばし 周囲の土砂を巻き上げていた。 身体のすぐ側を銃弾が軌跡を描いてすり抜けていた。 【大丈夫か?】 砲弾の破片で足を負傷したソフィアを背負いながら走るアモンが 顔を上げて聞いた。 【もう降ろして 私がここで食い止めるわ 先に行ってアモン】 【馬鹿を言うな あと2時間も走れば ここから抜けられる もう少しだ】 【駄目よ 包囲されているわ お願い! 下ろして】 アモンが 応えようとしたとき その膝が崩れた 【?! アモン!】 スローモーションで 頭から倒れ込んだアモンと共に 地面に叩き付けられるソフィア。 ソフィアが絶望的な悲鳴を上げたとき 彼女は夢から覚めた。 全身から珠の様な汗をかき ソフィアが目覚めたとき 側にアモンの姿はなかった。 薄がりの中 夢と現実の狭間のまま ソフィアは よろよろと起き上がった。 だが ベッドの前に 男の気配を感じ 枕の下のベレッタに手を伸ばそうとしたとき 【静かに…騒がずに…マダム】という声がした。 熟睡していたとは言え 今迄こんなミスなど無かったのに 自分の不覚に歯噛みしながら 態勢を取る余裕を作る為 【誰?】と問い返した。 【悪い夢を見ていたようだなマダム】 直感的に敵ではないと判断したソフィアから出た言葉は、自分がもっとも気になる名前だった。 【アモンは! アモンはどこ?】 【心配するなアモンは無事だ。着替えたら俺と一緒に来てくれ】 男は ソフィアを安心させる為 わざと ユックリ 応えた。 【嫌よ アモンに会うまでは ここを動かないわ】 アモンが自分に黙ってどこかに行く筈がない 行ったとしても連絡はある筈だ この男が 敵ではないとしても 味方という保証はなかった。 沈黙の後 胡座を組んで座っていた男が立った。 声の位置から 立っていたと思い込んでいた男が立ちあがったのに ソフィアは驚いた。 男の頭は 天井から吊るされている照明を超したのだ。 【…怪物…】 思わず出そうになった声を押し止めて ソフィアはある男の名前を思い出した。 パイロンの武装組織の中に巨人がいる。 その男は装甲騎士団と呼ばれる 装甲アーマー部隊の司令官だった。 ベッドの中でアモンから その名前を聞いた事が有った。 【パイロン・玄武・紅龍 この3人とは正面から闘うな。闘うなら命を捨てる気でやれ】 そう言われた相手の1人だった。 【あなたが玄武? どうしてここに?】 【ソルテァ国王暗殺の犯人として、CIAが君達を追っている】 【アモンは?】 【他のメンバーへの連絡に動いてもらった。マダム あんたも協力してくれ】 【何をすればいいの】 ------------------ 装甲騎士団 ------------------ 明け方近くフランスとイタリア国境近くで 車内灯を消したままシートに身を沈めている女がいた。 海岸線を見渡せる丘の上から 昨夜から徹夜で監視していた疲れがありながら 女は一睡もしていなかった。 【…アモン…】 ソフィアは これから始まる闘いに恐れ等なかった だが 背中が無性に寂しかった。 アモンと背中をぴたりと合わせ 弾丸を撃ち尽くすまで機銃を掃射したことも 闇の中に潜む敵に向かって駆けていったときも アモンが後ろに居ることの安心感 背後が絶対安全だと確信できた闘い。それが 今失われている寂しさに ソフィアは捕われていた。 靄が解け始め周の木々が柔らかい陽射しに包まれた頃、 一台の大型トラックがエンジン音を殺しながら 林の中に滑り込んで来た。 トラックがエンジンを切り 中から2人の男が現れた。そしてトラックの後部から ソフィアが始めて見る姿 装甲騎士団と呼ばれ アーマーに身を包んだモンスターが10体現れ そして 玄武と呼ばれる男が その後ろに降りた。 【敵に動きは?】 【ないわ…倉庫に幹部が集まっているわ。警備兵は8人 全員自動小銃を持っていたわ】 【了解。マダム 君は空港に行け アモンも10時のコンコルドに搭乗する予定だ】 【私は戦闘に参加しなくてもいいの?】 【必要ない 協力に感謝するマダム】 【解ったわ。それじゃぁ】 玄武・装甲騎士団 敵にすれば手強い相手だろう だが 彼等が味方なら これほど心強い相手もなかった。 もし、あのまま 自分がパイロンと闘っていたなら 彼等を敵にしていただろう。 そんな 思いが一瞬頭を過ぎったが 今のソフィアには アモンとの世界が全てだった。 ソフィアが林を抜け国道を走っている頃、 途中で立ち寄った無人のガソリンスタンドで ラジオが 海岸での倉庫と船の爆発炎上の ニュースを伝えていた。 ソフィアが車に戻ろうとしたとき 3人の男が大型乗用車から姿を現した。 濃紺のスーツを着こなした 身長が2m近い 頭の小さい肩幅の大きい男達が その場所からぱっと散るように動くと スーツから銃を取り出した。 その間にも1人の男が 喉にナイフを突っ立てて倒れた。 のこる二人が 右手で銃を持つ左手を支えて狙いを定めたとき ソフィアの姿が視界から消えていた。 目標を失った男が立ちあがって周囲を確認しようとしたとき ボンネットを飛び越して現れた女に 男が鼻柱を折られ 鼻血を撒き散らしながらよろめく。 もう1人が女に照準を合わせる。 ソフィアはよろめく男を盾にして 車の陰に隠れると 引きずり込んだ男の喉仏を潰した。 男が身体を丸め防御の姿勢をとる ソフィアの拳が側頭部に打ち込まれる。 襟を掴んで仰向けにした男が 憤怒の形相で目と口を開けたまま絶命していた。 ソフィアが立ち上がって車から離れるのと 残った男が銃を撃つのと同時だった。 車の前に再びソフィアが立ったとき 男は2発目の銃弾を打ち込んだ。 だが その銃弾が ソフィアのブレスレットで弾かれたとき 男は呆然として動きを止めた。 次の瞬間 石が礫となって 男の顔面に当たった。 堪らず顔を両手で覆う男 立ち尽くす男の両方の耳に ソフィアの左右の指が突っ込まれた。 【!!】 男には 悲鳴を上げた声が 自分の耳には聞こえなかった。 そして 眉間が割られたとき 信じられないというように 目を開けたまま 男は死んでいた。 空港の駐車場に車を乗り捨て ゲートに向かうソフィア。 空港の化粧室に入ったソフィアの後を追うように 女が入った。 女がバックから 小型の拳銃を取り出したとき ドアの背後から 首に立てられたナイフが その喉を引き裂いた。 【!!】 女の悲鳴が 切り裂かれた喉から漏れ 声にならなかった。 ソフィアは 女をトイレの中に押し込めると 何事も無かった様に 出ていった。 コンコルドの機内 アモンはソフィアの疑問に答えていた。 【倉庫と船を襲ったのは なぜ?】 【殺されたソルテァ国王の弟フセインが CIAのバックアップの元 再蜂起を計画していた】 【国王の弟は?】 【集合に参加していなかったようだ。 悪運の強い奴だ】 【CIAが 私達を狙ったのはなぜ?】 【作戦が失敗したときの保険だろう。 パイロンと新国王を強請るネタだった。】 【パイロンを?】 【CIAの長官は 大統領とは反対陣営の大物だ。発端は派閥次元の問題だ】 【CIAと戦争になるの?】 【解らん。だが 俺はパイロンに付いて行く お前はどうする?】 【私は アモンに付いていくだけよ】 アモンの太い腕に自分の腕を絡め それに 頭を寄りかけて ソフィアは応えた。 ソフィアのブロンドに輝く髪を梳きながら アモンは機内の窓から眼下のフランスを見ていた。 ----------続く