平成13年7月19日・初版 平成16年4月9日・改訂(扉絵を追加)

金髪のアマゾネス・ソフィア戦記・第8章/AtoZ・著

イラスト:悪の司令官
パイロン戦闘部隊シリーズ 3 --------------------------------------- イリア編 (ソフィア戦闘編 3) --------------------------------------- パイロンのホテルルームに1人の女が侵入した。 ドアを拳で打ち破ったその女はワンダーウーマンと見間違えられても おかしくないコスチュームを着ていた。 真紅のビスチェ・星条旗の星をあしらった青紺のハイレグパンツ くびれた胴 豊満な胸 しなやかな脚 端正な顔立ちは ワンダーウーマンそのままだった。 だが 違っているのは ブルーの瞳と亜麻色の髪だった。 【あら? 随分派手な訪問ね どなたかしら?】 豪華な刺繍のされた深いスリットの入ったワインレッドのチャイナドレスを着た女が 尋常でないパワーを見せ付けた侵入者に 胸の前で腕を組みながら平然と訪ねた。 イリア:【私は イリア。アマゾネスよ。ソフィアを返してもらうわ!】 麗華 :【彼女は ここには居ないわよ。】 イリア:【何処に監禁しているの! 教えなさい】 麗華 :【自分で捜したら? 人にものを尋ねる態度じゃないと思うけど】 イリア:【素直に言えないようね】 ワンダーウーマンの様に腰のベルトに両方の拳を当て 厳しい顔で チャイナドレスの女を睨み付けるイリア。 そのとき パイロンが奥の部屋から現れた。 パイロン【どうかしたのか 麗華】 イリア:【貴方がパイロンね。ソフィアを何処に監禁しているの】 パイロン【教えれば 素直に帰って貰えるのか】 奥の部屋から現れた30代後半に見える男も 女戦士に 平然と質問していた。 イリア:【ソフィアを連れて来なさい! 彼女に怪我をさせていたら承知しないわよ】 パイロン【それは無理だな。彼女は 今 ブラジルに居る】 イリア:【では、その場所を教えなさい。】 パイロン【解った。麗華 奥の部屋にソフィアの名刺がある。取って来てくれ】 そう言いながら 麗華に目配せするパイロン。 麗華はその意図を悟って 奥に入るとシークレットサービスへの緊急ボタンを押し 名刺ケースからソフィアのものを捜し出して さりげなく戻って来た。 麗華: 【ここに住所が書いてあるわ。彼女の名刺よ】 イリア:【もし居なかったら 罠だったら 許さないわよ】 イリアがそう言って名刺を受け取ったとき シークレットサービスの3人が部屋に入って来た。 振り向くイリア。その瞬間 麗華の手を引っ張り 奥へ逃げ込むパイロン。 イリアがパイロンに”待ちなさい”と叫ぶのと シークレットサービスが”動くな”と 銃を取り出したのが同時だった。 ---------------------------- イリアがシークレットサービスの3人を倒し奥の部屋に入ったとき すでに パイロンと麗華は 共に姿を消していた。 イリア:【く、逃げたわね。でも ソフィアの救出が先だわ。見逃してやるわパイロン】 イリアはそう呟くと 倒れているシークレットサービスを打ち捨てて 部屋を後にした。 イリアが去った後 秘密の壁扉から 姿を現した二人。 麗華が怪訝な顔でパイロンに質問した。 麗華: 【なぜ 逃げる必要が有りましたの?】 パイロン【ワンダーウーマンに狙われていると シークレット・サービスに覚えて貰った方が いいからな】 麗華: 【そういう 事でしたの…でもソフィアの方に問題が起こりませんか?】 パイロン【ソフィアはもう我々の仲間だ。アモンが付いている限り信じてやるのだな】 パイロンの説明を聞き流しながら 麗華は腕組みしながら悔やんでいた。 麗華: 【…私があの女に挑戦し 追い込まれる。危機一髪 パイロン様が助ける。 そして 私がパイロン様に抱き着き 敢闘した私をパイロン様が抱擁する… くっ! せっかくのチャンスを、失敗だったわ。】 ----------------------------- ブラジル・リオデジャネイロ ----------------------------- コパカバーナ・パレス・ホテルの一室 ソフィアはアモンから習った”心意把(しんいは)”を練習していた。 この技は アモンがパイロンに破れたとき 中国武術について教えを講たとき 【教えるのは私より玄武の方が上手だ 彼に頼むといい】 と言って玄武を紹介され 玄武から直伝された技だった。 ”心意把”は華南省馬家に伝承されたものを心意六合拳 山西省戴家に伝承されたものを六合心意拳として発展し 少林寺の極秘伝として一子相伝ともいわれ 伝承者が限られている技だった。 本来 心意把は十二把存在していたが 現在は二把のみしか現存しないと言われている。 玄武は 失われた十把を含め その全てを教えてくれた。 本来 把は 侵攻して人を打つ打法であり 拳を練った後に学ぶものと教えられた。 最後に玄武から教えられた極意は 心意把も把の一つに過ぎず ”一は万を生じ 最後は一に戻る”というものだった。 難解な中国思想の意味が解らず 問い返したアモンへの玄武の答えは "外見の所作から内在する変化を理解できぬゆえに多くの派が生まれるのだ"ということだった。 それも解らないという顔のアモンに 玄武は”困ったなという表情で”笑った。 アモンからソフィアが学んだ技は 進歩・踉歩・起把・収把の更に単純な動作で、 これの何処が一子相伝なのか 今のソフィアには理解できなかった。 1時間の練習を終え シャワーを浴び汗を流した後 ソフィアは銃の点検を始めた。 浴室の上・ベッドの脇・テーブルの下から集められ テーブルの前に並べられた銃は 3種類 ベルギーFN社のFN P−90 (全長504mm インナーバレル長247mm) これは 97年のペルー日本大使館公邸占拠事件で ペルー軍の対テロ特殊部隊が使用したもので、クラスIIIの防弾ベストも貫通する50連装の 強襲用アッタクウエボンというだけでなくサイレントキラーとしても使えるものだった。 次は 同じく50連装の フルオートブロードバックのタイプUのサブマシンガン (全長250mm インナーバレル長120mm)だった。 P−90が両手持ちに対し タイプUは重量840gと片手での連射が可能だった。 連射速度は25発/秒で あるが P−90と比べ発射音の高いのが難だった。 最後は 12連装のS&W・M669ステンレスピストルだった。 ソフィアが常用のこの銃は9mm弾であったが 重量が737gと軽量で携帯に便利なものだった。 もう一つの常用拳銃としては ベレッタセミオートマチックII M84FSがあったが これは 車内のシート下に隠してあった。 銃を分解しながら ソフィアは ふと漏らしたアモンの言葉を思い出していた。 【噂だが…パラダイスアイランド侵攻作戦は玄武が指揮するらしい。 装甲アーマーもワンダーウーマンとの何度かの戦闘で改良され 対アマゾネス用のDタイプまで 完成しているそうだ。 もし 急襲されたら アマゾネスは一蹴されるだろう…】 そんな言葉を思い出しながら ソフィアは 複雑な感傷に捕われていた が 【もし私が アモンとその作戦に参加しなければ ならないとしたら…迷わずアマゾネスを倒すわ】 自分にそう言い聞かせ 過去の思いを断ち切るソフィア。 ソフィアは 銃をメンテナンスした後 気分を変える為 化粧室に入って行った。 鏡を前に ソフィアがワインレッドの口紅を付けているとき ドアをノックする音がした。 ソフィアはハンドバックから レイザープロダクト社のフラッシュライトを取り出すと それをスカートベルトに差し込み ドアに歩み寄った。 このフラッシュライトは手の平に収まる程の小型ながら 瞬間的に相手の視力を奪う程の光を出す事ができ、 同時に打撃用の武器としても使えるものだった。 ドアミラーを覗いた ソフィアは意外な訪問者に驚いたが 冷静さを取り戻すと 静かにドアを開け訪問者を招き入れた。 イリア:【久し振りね ソフィア】 ソフィア【そうね…何か用なのイリア?】 イリア:【貴方を助けに来たのよ】 ソフィア【残念ね。1人で帰ってくれる】 ソフィアの意外な言葉に戸惑うイリア 困惑を隠さない表情で問い返すイリア。 イリア:【どうしたの? どうして帰らないの? あなたの事を心配して 来たのよ】 イリアの言葉に嘘はないだろう…しかし…パイロンの手下に陵辱され パラダイスアイランドへ戻ったソフィアを迎えたのは、 仲間と信じた者達の 冷たい蔑みの視線と揶揄・嘲笑だった。 レイプされた者は2度殺されると言うことは、それを経験した者しか解らないだろう。 …所詮は他人事として その恐怖・慙愧は解らない… いま ソフィアは レイプサバイバーとして立ち直った が それは 仲間の助けではなく 敵であったアモンの助けだった。 アモンと結ばれた後も 悪夢に目覚めたとき 忍び音に泣き崩れたとき 自分をしっかり受け止めてくれたのも彼だった。 そして 戦場で互いの命を託すことの連帯感が 二人を より強く結びつけていた。 もう戻る気はない。もう仲間とは思わない。それが正直な気持ちだった。 イリア:【仲間が待っているわよ ソフィア】 ソフィア【そうかしら? でも どうしてここが解ったの?】 イリア:【パイロンを締め上げて聞出したの 貴方の居場所を直ぐに白状したわ】 ソフィア【そう…でも私は帰らないわ…話がそれだけなら帰ってくれない】 イリア:【貴方はパイロンに騙されているのよ! 目を覚ましてソフィア】 ソフィア【…】 イリア:【さぁ帰りましょう。私が守ってあげるわ パイロンなど恐れる事はないのよ】 ソフィア【断れば どうするの?】 イリア:【腕ずくでも 連れ戻すわ】 ソフィア【できるかしら?】 イリア:【貴方は 私に勝てなかったわ】 パラダイス・アイランドの競技大会では ソフィアは優秀な戦績ではなかった。 ダイアナ・プリンセスを別格として イリアは常に上位組 ソフィアは中位組で 何度かの対戦でも 常にイリアの圧勝だった。 格闘技以外の成績ではソフィアに劣ってはいたが、 なぜ ヒポライト女王がパイロンとの交渉役に ソフィアを選んだのか イリアには不思議だった。 自分こそ選ばれるものと信じていたイリアが パイロンに敗れ 任務に失敗して 島に戻ったソフィアに 冷淡だったのはそのためだった。 ソフィアがパイロン打倒の為 1人で島を出て戻らなくなったとき ソフィア救出の為にやって来たのは そのときの責任を感じていたからだった。 イリア:【さぁ帰りましょう ソフィア】 イリアが利き手で腕を取ったとき ソフィアの拳が その腹に打ち込まれた。 信じられないという顔で 腹を押さえながらソフィアを見上げるイリア。 その顔面に 次のパンチが飛んだ。 ソフィア【2度と顔を見せないで! この次は手加減しないわ】 頬を押さえソフィアを見つめるイリアに ソフィア【帰って伝えなさい! 私の警告を笑っていられるのも今の内よ、 貴方達はパイロン様には 絶対勝てないわ】 ソフィアが パイロンに敬称を付けたのは もう自分はアマゾネスではない と もう仲間ではないと 諦めさせる意味を込めたものだったが 逆にイリアは その言葉からパイロンに洗脳されているのだと確信した。 イリア:【ソフィア…あなたは…あんな奴に 心まで奪われたのね】 ソフィア【…】 イリア:【目を覚ますのよソフィア パイロンは悪い奴よ。卑怯で臆病な犯罪者よ。 ヒポライト様もあなたを心配していたわ】 必死で説得し洗脳されたソフィアを助けようと思うイリア。 だが、どう説得されようと ソフィアはパラダイス・アイランドに戻る気はなかった。 闘いの無い平和な島 そんな世界より アモンと共に生きる世界の方が良かった。 戦争・飢餓・貧困に悲鳴を上げる殺伐とした世界であっても、 そこにアモンがいる限り、ソフィアには満ち足りた幸せがあった。 イリア:【みんなも あなたの事を…】 言いかけたイリアの言葉を 手を上げて制止したソフィアは 断言するように言った。 ソフィア【私は パイロン戦闘部隊の女戦士よ アマゾネスに仲間などいないわ】 そう言ってイリアを部屋の外に押しやるとソフィアはドアを閉めロックした。 紋章の入った豪華な扉の向こうから 長い廊下を歩くイリアの重い足取りが聞こえていた。 それを聞きながら ソフィアは呟いていた。 ソフィア【…貴方達は あのモンスターには勝てないわ 何故解らないの…】 気が付くと 電話が鳴っていた。 足早に進み受話器を取ったとき 聞こえて来たのは 恋しいアモンの声だった。 【そうよ、あなたの妻のソフィアよ。どうして昨日は帰らなかったの…??? アルゼンチンに出張?…ちょっと待ってよ。私はどうするの…10日も? …10日も私を1人にするつもり…いいわ 浮気してやるわ… …嘘よ、あなたを待っているわ。気を付けてね】 電話はアモンからの仕事の連絡だった。 アルゼンチンで昨日 日本人商社マンが誘拐組織に拉致されるニュースが有った。 アモンはその交渉を請け負ったのだろう。 誘拐組織も日本人相手のときは 身代金を吹っかけてくるのが常だった。 身代金が500万$なら ASの成功報酬は 20%の100万$になる その金額ならアモンが担当してもおかしくはなかった。 だが アモンが留守になれば AS警備保障の警備責任者はソフィアだけとなる。 ソフィアは パソコンで仕事の予定とメンバーのスケジュールに目を通し 予備知識を頭に叩き込むと 緊急事態への対応を考えた が リストの一部に疑問を感じたソフィアは 直接会社で確認しようと 駐車場へと向かった。 ----------------------------- アマゾネス対アマゾネス ----------------------------- ソフィアが駐車場に向かったとき イリアがその前に立ちはだかった。 ソフィア【まだ用があったの?】 イリア:【さっきは不意打ちを食らったわ。でも今度は違うわ。 あなたがパイロンの手先として攻めてくるつもりなら ここで倒すわ】 ソフィア【そう…さっきはフロックだと思っているのね いいわ 相手をしてあげるわ】 イリア:【私を本気にさせた事を後悔させてやるわ 貴方の後はパイロンよ】 上体を残したままイリアが大きく右足を踏み出した その足先が外を向いていた。 ソフィア【…左足キック】 イリアの左足が弧を描いて襲って来た。 少し後ろへ退きその脚を右手で払うソフィア。 イリアの右上腕に力が入った。 ソフィア【…右パンチ】 イリアの右のパンチがソフィアの腹を狙って打ち込まれた それを中段で外に払うソフィア。 躱されたイリアの 脇に絞められた左拳に力が入った。 ソフィア【…左パンチ】 左腕が直進し伸びた先端で回転した それを肘を曲げて外に払うソフィア。 イリア:【く、くっそう なぜ、なぜ当たらないの?】 ソフィアには イリアの動きが 次の攻撃が手に取るように分かっていた。 ソフィアは イリアの動きだけでなく呼吸さえ捕らえていた。 息を吐く 息を吸う 息を止める その全てを手に取るように掴んでいた。 最大パワーで動くイリアに対し 最小動作で躱すソフィア 躱されながら ピシッ ピシッと 針を刺すような痛みを伴う反撃に イリアの焦れた怒りが増していった。 自分の技が効かない焦りから イリアの攻撃が 徐々に 雑になり始めた。 スピードに賭け キックを交え パンチを連続して繰り出すイリア その全てを外すソフィア。 焦りと怒りと疲れが イリアの身体を蝕みはじめていた。 イリアの豊かに膨らんだ胸がだんだん激しく上下し始めた。 格下の生意気な女を捉えることができず、パンチはより荒々しくなり、 昂奮は益々その正確さを削ぐことになっていった。 イリアの血が上った頭から 冷静さが失われ 猪突猛進の意気しか残らなくなっていた。 イリア:【…くっそう、髪を掴んでヒキヅリ倒してやる そして馬乗りになって顔を殴ってやるわ】 唇を噛み目を剥き 左手の親指を大きく開き まばらに指を伸ばすイリア ソフィア【…髪を掴む】 イリア:【うおおうっ!】 咆哮するような声を上げ 体当たりするように突進し 左手を伸ばし髪を掴もうとするイリア その予測された攻撃が ソフィアには スローモーションに映っていた。 髪を掴みに来た手首を捕らえ内側に捻り イリアの胸に押し付け 体重を掛けるソフィア。 倒れまいと身体を反らし足をふんばるイリア。 その額にソフィアの指が添うように当たり イリアの足が 宙に浮いた。 そのまま頭から倒れるイリア。 イリア:【!!!脚を滑らせた???】 顎を引き受け身を取った為 後頭部の直撃は免れたものの イリアが手を払って立ち上がったとき 何をされたのか 平行感覚が無くなっていた。 捻じ曲がった空間の先に ソフィアの陽炎のような姿があった。 イリアはよろめき、ほとんど倒れそうになっていた。 身体の感覚が無くなり 意識も朦朧となっていた。 無防備に立ち尽くすイリアにソフィアが ゆらり と動いた。 イリアのコスチュームから零れるような胸を ソフィアの拳がマシュマロを潰すように歪めた。 そして 引き締まったウエストに ソフィアの拳が手首までめり込んだ。 ”くの字”に身体を折るイリア。 その後ろ首にソフィアの手刀が入った。 ”どさり”と重い音を立て崩れるイリア。 朦朧とする頭を振って 床に這いつくばりながら両手と膝で立ち上がろうとするイリア。 激しく喘ぎながらイリアは弱弱しくソフィアを見上げた。 イリア:【ま、まだ…まだよ…】 言葉を殺しながら 哀れむように見下すソフィア。 ソフィア【…まだ解らないの…わざと手刀にしたのよ】 イリアの左肘を蹴り上げ 反転して上向いた右膝を拳で砕くソフィア。 イリア:【!!】 全身を貫く激痛に絶叫するイリア。 左腕と右足は 感覚を失い 自分の意志から外れていた。 だが イリアは それでも 起き上がろうとしていた。 イリア:【まだ…まだ負けてないわ…私は アマゾネスよ】 敵に敗れても屈服したことはない それが彼女の アマゾネスの誇りだった。 ソフィア【…根性だけで勝てると思っているの】 無意味なイリアの頑張りに ソフィアは怒りを覚えていた。 ソフィア【…闘う前から解っていた事なのに…闘って敗れながらまだ解らないの…】 呼吸するのさえ痛みを伴う苦しい息をしながら 頭を支点に 拳を握り締め 右腕と左足を支えに それでも 立ち上がろうとするイリア。 そのイリアの腹にソフィアの靴先がめり込んだ。 1発・2発・3発… キックが入る度に イリアの身体が床から浮き上がっていた。 脇腹を蹴りつけるソフィア イリアはたまらず、転がって、横向きに向きを変えた。 ソフィアは容赦なく脾腹をさらに2度蹴りつけ、イリアをうつ伏せに転がした。 イリア:【負けない…私は負けない…負ける訳にはいかないの】 イリアの息が完全に上がっていた。 喘ぎながら弱々しい声で 自分に訴えるイリア。 その声は痛みでしわがれ、震えていた。 アマゾネスとして 戦士としての誇りが 敗北を認めていなかった。 ソフィアは イリアの亜麻色の髪を掴み捻じ曲げて拳で握ると 顔面をコンクリートの床に叩き付けた。 イリア:【… … …】 イリアは手足をしなだれたままぐったりしていた。 引き締まった身体は引き攣るようにぴくぴく痙攣していた。 ソフィアは スポーツ競技と兵士の戦闘との違いに気が付かないまま 動かなくなったイリアに 履き捨てるように言った。 ソフィア【見逃してあげるわ。消えなさい。二度と現れないで】 そう言うと イリアを打ち捨てて車に乗り込むと 何かを断ち切るように フルスピードで会社に向かった。 だが 車を走らせるソフィアに 熱い思いが込み上げていた。 ソフィア【なんて馬鹿なの…なぜ解らないの… ベルトをしたあなたが ベルト無しの私に負けたのよ。 私は持っている武器を使わなかった でも あなたは負けた。 …貴方達は 攻めてくる相手が 素手で闘うとでも思っているの…】 ハンドルを握り締める腕に水滴が ソフィアの涙が頬を伝って零れて落ちていた。 ソフィアの泪目に 玄武や装甲騎士団の圧倒的なパワーと武器の前に なす術も無く倒れて行くアマゾネスの幻影が パノラマのように 浮かんでは消えていた。 ------------------------ 冷たい剥き出しのコンクリートの上で イリアはヨロヨロと立ち上がった。 目を腫らし 鼻と唇からどす黒い血を流しながら 自分の身体では無くなった感覚のなか イリアは ソフィアの消えた方に目をやると 呟いた。 イリア:【ソフィア…あなたを諦めるわ。今度遭うときは敵よ。この次は負けないわ…】 イリアは 自分が負けたのは 仲間だったソフィアへの 油断と遠慮からだと あのとき 脚を滑らせる不運がなかったら パンチを手加減していなければ、 自分は互角の闘い いゃ もっと有利な闘いが できていたと 信じていた。 イリア:【パラダイスアイランドでなら あなたにもパイロンにも負けないわ… そうよ アマゾネスの誇りに賭けても負けないわ】 ----------ソフィア戦闘編(3) 完---------------