平成14年12月27日・初版

リモート・オブ・スーパーフカキョン「誕生!!その名はスーパーフカキョン」/AK−3・著

…ここは東京都内のある大きな屋敷。地下室には1人の男がいた。手術台には1人の乙女が横たわっていた。 彼女には無数の電気コードが繋げられていた。 「よし。あとはbS15とbV81を繋げて完成だ」 男は小型の半田ごてを持ち、コードをつなげていた。 「さぁ、電源を投入して…」 男は、手術台に横たわる乙女の頭にヘッドギアを着け、電源をいれた。 乙女は目を開けた。彼女は男の顔をのぞきこむ。 「アナタハ、ダレ?ココハ?ソレニ、ワタシハ…ワタシハ、ダレ?」 彼女は片言の日本語で男に話し掛けた。 「おぉぉ。どうやら、成功したようだな。きみの名前は”恭子”っていうんだよ。おれの名前は佐倉創(さくら はじめ)だ」 彼女は交通事故で瀕死の重傷を負った。ただちに警察病院に運ばれたが、首から下がマヒ状態になっていた。 そこで彼女を救う為に、特殊な脳治療をするため佐倉博士の研究所に緊急搬送されたのだった。           ・           ・           ・           ・           ・ それは、数ヶ月前の出来事であった。 その日の午後、佐倉博士の研究所の電話がなった。 ”プルルルル…” 「モシモシ。あ、風下警視ですか?え?これからですか?わ。わかりました。…う〜む。もう、プロジェクト・リモートを始めるのか。 まだ、実験段階だがなぁ。まぁ、やってみるか。しかし、よりによって20歳の女とはなぁ…」 佐倉博士のもとに運び込まれたのは深沢恭子という某体育大の2回生。 陸上競技とレスリングではオリンピック代表が有望視されていた肉体の持ち主であったが、 車に轢かれそうになった少女を救うため、自ら犠牲となって交通事故に遭い瀕死の重傷を負ってしまった。 警察病院でも回復の見込みが望めないため、それに、この事件は、風下警視が追っていた犯人が目撃者の少女をひき逃げに 見せかけて、抹殺しようとしたことが原因であった。そのため、責任を感じた風下警視が自らこの研究所に彼女を運び込んだのであった。 本来なら過去の事故で下半身マヒになってしまった風下警視に行うはずであった脳治療をこの恭子に施すためであった。           ・           ・           ・           ・           ・ …恭子が目覚めてから、数日後、彼女のリハビリが始まった。 佐倉はイスに座る恭子に話し掛けた。 「恭子ちゃん。立ち上がれるかな?イスのひじ掛けにつかまっていいんだぞ」 ”ムギュッ!” 恭子が立ち上がろうとイスのひじ掛けをつかんだとき、ひじ掛けが変形をしてしまった。 「ん?ひじ掛けが…。まさか、脳治療の副作用か?ためしにこいつを握らせてみるか」 佐倉は机の上にあった、松坂大輔ののサインボールを渡した。 「恭子ちゃん、このサインボールを握ってみてくれ」 「あ、これ、松坂君のサインボール。博士、これって野球の硬球でしょ?」 「ああ、そうだとも。さあ、握ってみてくれないか」 恭子は佐倉に促され、サインボールを握り締めた。 ”ギュギュギュッ!”  野球の硬球が、彼女の手の中で、まるで軟式のテニスボールの様に軽々と変形していた。 「あぁ、私、すごい!博士、恭子、どうなっちゃたの?」 「うむ。どうやら、治療の副作用で、常人以上のパワーが身についたようだな。今度は脚力の測定だ。 そのランニングマシーンの乗って走ってみてくれないか?」 恭子はランニングマシーンに乗り走り出した。 「あまり、ムリをしないでいいぞ。あ、マシーンが…」 マシーンは恭子の走力についていけず、火を吹いてしまった。マシーンの速度は180kmを指していた。 「な、な、なんてことだ。まるでバイオニックジェミーのシーンみたいだ」 「博士、恭子、いったいどうなっちゃったんですか?もう、人間ではないの?」 「いや、君は立派な人間だよ。だだし、恭子ちゃんには人間の常識を遥かに超えた能力が身についたようだ。 きみがここに運ばれてきたときは頚椎がズタズタになっていてすでに首から下は完全にマヒをしていたんだ。 そこで、身体の神経系統を電気指令にしたんだ、どうやら微弱電流で身体の指令を出すときに、筋肉を微弱電流が刺激して 驚異的なパワーを生むようだな。きみはもはやスーパーガールになってしまったんだ。あ、それから、大学の方は休学ということにして、 あすから風下のところで働いてもらうことになっている。くわしい話はそこでだ。さ、これから風下のところへ行くよ」 「待って、博士。そんなことってアリなの?恭子がなんで風下さんのところに行くの?」 「仕方がないんだ。きみに施した脳治療は警視庁の極秘プロジェクトの一部なんだ。それに、これで君の夢も叶うから…。」 「そ、そうね、私の夢は刑事になって、悪の手から人々を救うこと。その為に、恭子のこのパワーが日本の平和の役に立てるのなら。 それに博士と風下さんに命を救ってもらったんだもの…。博士、私、風下さんのところへ行きます」 「うむ。わかってくれたか。さあ、風下が待っている。行くぞ」 「ちょっとまって、博士。恭子、下着のままよ。なにか服を着たいわ」 「う〜む。こまったなぁ。そうだ、これを着てくれ。あ、それと普段はこのメガネとピアス、ネックレスをつけるんだ。 おれからの快気祝だ」 佐倉は恭子にスーパーガールのコスチュームを着せた。 「さすが、これだけ体格がいいと、全く違和感がないなぁ」 「博士、この服の上になにか羽織るものはないの?」 「すまんが、これで我慢してくれ。風下警視には女物の服を用意させておいたから。しかしこんなに似合うとは…」 佐倉博士は恭子を連れ、風下警視の事務所に向った。 「ちょっと狭いけれど、我慢してな」 恭子の身長は173cm、佐倉のワゴンRの助手席では、いささか窮屈そうであった。 佐倉と恭子を乗せたワゴンRは都内を走っていた。 恭子は耳を澄ませた。 「あ、なにか聞こえる…。あ、たいへん。博士、車を止めて!」 ”キキー!” 佐倉は団子坂の交差点で車を止めた。 ”バタン!” 恭子は車から飛び出し、団子坂を駆け上がっていった。 「うわぁ、ブレーキが…」 ブレーキが壊れた大型ダンプが坂を転げ下りていたのだ。 「うわあ!ひくぅー」 ダンプの前に突然人影が現れた。それは恭子の姿であった。彼女はダンプの前に立ちはだかった。 "ドン!” ダンプを受け止めた恭子は、両足に力を入れて踏ん張った。 ”ザザザー!” 恭子はダンプを止めた。しかし、恭子の様子がおかしい。 「な、なんなの?頭の中でノイズが…UBniyvt5z4a5LZ9dof7giyngfyu8.…」 恭子はその場で倒れこんでしまった。 「おい、ダンプに女がはねられたぞ!」 交差点は大騒ぎになっていた。 「え?女がダンプに?」 佐倉は車から飛び出し、交差点へ走った。 そこには恭子がダンプの下敷きになっていた。 ダンプのまわりは黒山の人だかりができていた。野次馬たちは横たわっている恭子の身体を見ていた。 「なんだ。マネキンか。まったく人騒がせだな」 「だいたい、このマネキン、スーパーガールの服なんか着ているぞ。どっかのヲタクがおとしたのか?」 「おい。このマネキン、一人前にアソコに毛があるぞ」 「おい、服の破れ目から胸が見えるぞ。マネキンにしちゃ、ずいぶんリアルだな」 「腕やフトモモのあたりなんかプリプリしているなぁ。いや、マネキンじゃなくて人間じゃないか?」 そこへ佐倉がかけつけ、恭子の無残な姿を見つけた。 「あっちゃ〜。」 (まぁ、特殊繊維で出来た下着のおかげで、無傷だったのは幸いだったな) 佐倉は頭をカキながら、グッタリした恭子を担ぎあげた。 そこへ警官がかけつけた。 「おい、そのマネキンは、あなたのかい?」 「え、えぇ、そうですが…」 「こんなところで、荷物をばらまいちゃ、こまるなぁ。気をつけてくれよ」 「いやぁ、すみません。あのぉ。それより、あのダンプの無線、違反じゃなですか?さっき、ラジオを聞いていたら、 ものすごいノイズがはいったんですけれど…」 「どれどれ?おい、この無線はずいぶん電波がつよそうだね。それにこのタイヤボウズだし。ま、署まで同行願いましょ」 佐倉は警官とダンプの運転手がやりとりをしているスキに恭子を片付け、その場から立ち去った。 「やれやれ、どうやら恭子はダンプの無線のノイズを拾ったみたいだな。こうなることもあろうかと、 スペアのパーツと工具を一式持ってきて正解みたいだったな。あ、あそこで修理するか」 佐倉は上野公園の近くの路端にワゴンRを止めた。 「やれやれ、余計なところで、ストックパーツをつかってしまったな。ま、帰りに寄ればいいか。 あ、電話しとこ…。あ、モシモシ、徳沢さん?わるいんだけど、1,2のビス、500個ある?うん。じゃああとで寄るね…。」 佐倉は趣味である模型のパーツを恭子の修理に使ったのであった。 「さてと、バッテリーに恭子をつないでと、スイッチON!」 「あ、博士!わ、私、どうしたの?」 「ん?もう、だいじょぶだよ」 佐倉のワゴンRは両国橋にさしかかった。 「あ、国技館か、もうすぐだ」 ”キキキー!” 「うわ!あぶねぇな」 ワゴンRの前に1人の男が立ちはだかっていた。 「あぶないだろう!そこをどけ!」 運転席の窓から顔を出し、佐倉はどなった。 「うるせぇな。オッサンには用なしじゃ。」 男はそういうと助手席のガラスを叩き割り、恭子を拉致しようとした。男は恭子の腕をつかんだ。 「おねちゃん、こんなオッサンなんかと遊ばないで、オイラといいことしようよ。 あれ?その服は…。コミケにでも行くの?有明に行くなら反対方向だよ。」 ”ズズッ!” 男は恭子のコスチュームの胸のふくらみと、ミニのスカートから出た脚に思わずよだれをすすり上げた。 「ちょ、ちょっと、なにするのよ!」 恭子は、そういいながら佐倉の顔を見た。佐倉は恭子に目で合図をした。 「しょうがないわね。いま、降りるわ」 恭子はワゴンRから降りた。 「あら、おにいさん、意外と背が小さいのね」 恭子はワゴンRの屋根に手を付いていた。 ”ベコリ!” ワゴンRの屋根が恭子の力でへこんでしまっていた。 「で、おにいさん。どこへ行くの?」 「…」 恭子のあまりの迫力に、男は無言のままであった。 「黙っていたらわからないわ」 恭子はそう言うと、男のベルトをつかみ、持ち上げた。 「あわわわわわ…」 恭子は男を頭上まで持ち上げていた。男は足をバタつかせるだけで、答えることができなかった。 「まったく、意気地がないわね」 ”ドスン!” 恭子は男を放り投げた。 「ほら、早くどこかに消えな!早くしないと、この車下ろすわよ」 恭子は佐倉の乗っているワゴンRを持ち上げて、男のに下ろそうとしていた。 「あわわわわ…。ほ、本物のす、スーパーガールだぁ。ご、ごめんなさ〜い」 男は腰が抜け、立てず、四つんばいのまま、逃げさって行った。 恭子はワゴンRを下ろした。 「しかし、超パワーが身についたとはいえ、実際に見るとすごい迫力だなぁ。さあ早く行かないと」 佐倉は車を走らせた。四つ目通りを左折、都内の某所へついた。立派な門構えの大きな屋敷であった。門扉の高さも3mはゆうにあった。 「さぁ、ここだよ。きょうからここがきみの職場だ」 佐倉はワゴンRを降りて、インターホンを押した。 「おれだ、佐倉だ」 「あいよ。勝手に開けて入りな」 インターホン越しから風下警視の声がした。 佐倉は門を開けようとしたが、ビクとも動かなかった。すると、インターホンから風下の声がした。 「あ、そういえば、きのうから電磁ロックが解除できないんだ。恭子くんも一緒だろ?彼女に開けてもらえば?」 佐倉は恭子の顔を見上げた。うなずく恭子。 「博士、本当にいいの?私なら別の方法でこの門の中に入れるわ」 恭子はそういうと、佐倉を抱き上げた。 「えい!」 恭子は佐倉を抱いたまま門を飛び越えた。 ”ストン!” 恭子は屋敷の敷地に入った。 「そうか、その手があったか…。しばらくこのままでたいなぁ」 「博士、どうですか?スーパーガールに抱かれる気分は。ご要望なら、しばらくいいですよ。それで、どこへ行けばいいの?」 「この屋敷の3階だ。バルコニーがあるだろう。そこの部屋に風下警視がいるはずだ」 恭子は屋敷のバルコニーを見た。いや、彼女はバルコニーがある部屋の奥の方を見ているようであった。 「あ、あそこね。いまパソコンに向ってるわ。でも、なんか暗そうな人ね。博士、いくわよ。えい!」 恭子は佐倉を抱いたまま、3階のバルコニーへジャンプした。 ”ガラ” 「いよっ!スーパーガールのお出ましだね」 「あ、さっきの…」 風下がバルコニーを開けると、彼の後ろには両国橋の交差点で佐倉たちを襲った男がいた。 「おい、星野!早くサッシを締めろ!」 風下は男を怒鳴りつけた。男の名は【星野葛男】である。 「…そんなに怒鳴らなくっても。さっきは、どうも…」 「ははは、すまん。しかし星野のいうとおり、これは本物のスーパーガールだな。恭子ちゃんって言うの?とりあえず、こっちに来てくれ」 「風下さんって、まだ若そうなのに杖をついているのね」 恭子は、風下の後ろ姿を見ながらつぶやいた。 恭子と佐倉は屋敷の地下室へ案内された。そこは地下室というよりも、巨大な体育館というような広さであった。 「あの屋敷の地下にこんなところがあるのね」 「恭子くん、改めて紹介するよ。風下警視とその部下の星野葛男君だ。星野君にはきみのサポーター役をやってもらう。 まぁ、捜査の指示は風下警視からがほとんどだがな」 「風下だ、よろしく」 「星野です。恭子…ちゃんって呼んでいいのかな?よろしく」 星野は恭子の顔を見ながら照れていた。 「博士、捜査って?」 「ああ、これは風下から言ってもらうかな。この先の話は俺の範疇外だから」 佐倉の後ろから風下が顔を出した。 「そうか、じゃあ、説明しよう!ここ数年、凶悪犯罪が警視庁管内でも数十倍に増加している。 おまけに、犯人の凶暴化、犯罪の完全化、犯人の多人数化、どれをとってもいままでの検挙のしかたでは手に負えなくなってしまった。 しかし現在、この警視庁特命課は人手不足だ。最近の若いやつは根性がないんだよな。 やれ、休みがほしいだの、彼女がどうのこうのってすぐに辞めていってしまう。 いまは、この星野しかのこっていないんだ。だが、彼もまだ捜査経験が浅いし…」 そこで、恭子が風下の話を遮り質問をした。 「だったら、風下警視が行けばいいんじゃない?」 「お、おれは…」 恭子のつっこみに風下は答えに詰まってしまった。 佐倉が助け舟をだした。 「恭子くん、いや、いまからは恭子ちゃんでいいかな?彼は去年のテロ事件で陣頭指揮のミスを犯してしまい、 多数の部下を失ってしまったんだ。それにこの身体だ。以来、責任を感じて、この屋敷で暮らしてるんだ」 「なぁんだ。俗に言う『引きこもり』ってやつなのね」 風下は恭子の鋭い指摘に冷や汗をかいていた。 佐倉は話を続けた。 「恭子ちゃんそれだけじゃないんだ。風下はそのテロ事件でケガを負い、歩くのさえ不自由になってしまったんだ。 ただ、奴の捜査のカン、分析は警視庁でもピカイチだ。そこで、恭子ちゃん、きみとサポート役の星野君で凶悪犯の検挙をしてほしいんだ。 ただ、ここに依頼の来る捜査は一筋縄ではいかないぞ。覚悟はできているよね。 まぁ、さっき見せてもらった数々の能力を使えば、大丈夫だろがな。きみはスーパーガールなんだから。 そういえば恭子ちゃんの苗字は深澤だったな。アイドルの深田恭子のニックネームはフカキョンだよね。星野君」 「ええ、そうですけど。なにか?」 「それなら、恭子ちゃんもフカキョンだろ?だったら、スーパーガールのフカキョンだな。名付けてスーパーフカキョンだな」 「スーパーフカキョンか?いですね。かわいくて強そうだな」 風下は恭子のコスチュームの胸元を見て叫んだ。 「よし、スーパーフカキョンだな。胸のマークをSからFに変えよう」 ここに新ヒロイン、スーパーフカキョンが誕生したのであった。 ***完