平成15年11月28日・初版 平成16年12月22日・改訂(扉絵を追加) MonkeyBanana2.Com Free Counter

新・聖天使ミレイヤ「警察官『邪鬼』」第1章/妄想博士・著

イラスト:悪の司令官
 突然だが、「鬼が現れた!」と言ったら、信じてはもらえるだろうか? 警察だから当然なのかも知れないが、署長以下、上司は誰も信じてくれなった。 同僚にも話したが、笑われたり、呆れられたり…。挙句の果ては同情した目で見つめられ「疲れているのか? 良い医者紹介するぞ」とまで 言われる始末だ。 もちろん疲れていないわけではない。 ただ、今回の事件に関する限り、それも鬼を見たことについては、間違えが起こり得るはずがない。 どんなに疲れていても、人間と鬼を見間違ったりするはずはないし、そもそも一時的には本官も鬼になったのだから… 事件のことを考える度に頭の傷が疼く。 そう、傷は状況証拠でもあるのだ。一時的にも鬼になった証が自分の身体にはっきりと刻まれてしまったのだ。 今もその傷…10円ハゲが頭で疼いている。 東京池袋にある高層ビル内の派出所。そこが本官の勤務地だ。 近辺は繁華街で交番が各所に点在するから管轄地域は高層ビルのみ。しかも、凶悪事件になると所轄に直接通報されるから、 大きな事件に出会うことはめったに無い。 だから派出所は閑かというと、これがとんでもなく逆である。 警官の配置が少ないのだから、もう大変…スリ、痴漢、食い逃げ等の小さな事件は毎日のことだし、 ひどい場合は観光に来た小学生の喧嘩仲裁にまで駆り出される。平和といえば平和なのだが、忙しいのは考え物だ。 そう、鬼と係った一件も、初めはある意味…平和な事件だった。 高層ビルは高層部分にオフィス、観光スポットを配置し、低層部分を衣料、飲食テナントとして貸し出す巨大な雑居ビルだ。 いずれも最近の不況の煽りを受け、空室が出るし、空くと次が中々決まらない。 そんな中、高層部分の空室にようやく借り手が決まった。 借り手の企業はブルセラショップをチェーン展開している「鬼制服」。その商品本部を移転させて来たのだ。 「鬼制服」はブルセラの暗いイメージを払拭し、ここ一年で急成長した新進気鋭の企業である。 「人間誰でも明るい変態!」をキャッチフレーズに、女子高生からブルセラを買い、企業や病院へユニフォームとして売ったり、 逆に事務服や看護服を女子高生にコスプレ用で売ったりしている。 入室したのは商品本部だから、直の売買はないが、さすがに大手チェーン。訪れる人は数多い。 移転から一週間の間、案内プレートが間に合わないせいか、何人もの男が交番に道を訪ねて来た。 「ブルセラショップって、そんなに儲かるものなのかな?」などと考えているところへ、当の鬼制服商品本部責任者…本部長が挨拶に来た。 顔と身体はごつい割に、腰の低い愛想の良い男だ。 「商品本部の場所が判りにくくて、色々とすいませんでした。来週になれば看板が立ちますので、判り易くなると思います。 ところで…これはつまらないものですが、ご面倒を掛けたお詫びです。お巡りさんもお好きでしょう?  自慢のショールームがありますので、是非一度お立ち寄り下さいな!」 菓子折りかな? これくらいならもらって置いても良いだろうと思いつつ、本部長から渡された包みを開いて驚いた。 変わっているというか、世間知らずというか…なんと中身はセーラー服と「匂いの元」という香水が入っていたのだ。 悪気は無いのだろうが、交番への土産がこれでは呆れてものが言えない。 俺は慌てて本部長の姿を探したが、既に立ち去った後だ。 「今度、見かけた時に返却しよう」 そう考えた本官は包みを引き出しに入れて、業務に戻ることにした。 さて、非番が開けて出勤すると、相方の巡査がにやけながら本官を待っていた。 「引き出しの中を見せてもらったよ。あんなところに入れとくものではないな…落し物にしては艶かし過ぎる!」 お土産のセーラー服のことをすっかり忘れていた本官は、指摘を受けてはっとした。完全に誤解されている。 「しかし、お前さんにこんな趣味があるとはね…一応、警官なのだから、大概にしとけよ! それでは、あとはよろしく!」 誤解を解こうとしても、笑って取り合ってはくれない。にやにやしながら相方は交番を後にした。 「さては『匂いの元』を開封したな! もう、まいったなあ〜! とにかく返してこないと…」 交番は扉が開け放たれているが、全開の引き出しから漏れる甘ずっぱい香りでムンムンしている。 深呼吸をすると下半身と脳天…特に頭皮から何かが生えて来るかのように頭が疼く。 本官はパトロールにかこつけて商品本部に行くことにした。 ちょうどそのとき、交番の前で一組の男女、そして犬が揉めている。 風采の上がらない男が美女に一方的に責められている。もし、カップルならば…いや余りに釣り合いがとれていない。 「ワンワン!」 「何々…えっ、このオッサンが一万円の報酬の代わりに、このブルセラ店の商品券をもらっていた…ですって?  …ちょっと、所長! 一体何を考えているのですか?」 「いや…だから…その…変装用の道具も必要かな…って」 男は汗だくで言い訳をしている。 「女子高や中学に潜入する依頼なんてあるわけないでしょう! それに、ブルマーやセーラー服を着るとしたら…私ってこと?  そんなコスプレ…絶対にお断りですよ!」 「ワンワン!」 「何々…このオッサン、『キヨリンが着てくれなくても、使い道はある…』ってほざいていました…ですって。 所長! まさか自分が欲しくて商品券にしたのではないでしょうね!」 「だから…その…。このバカ犬…全部チクリやがって! 口止め料のステーキ返せ!」 「ワンワン!」 「何々…黙っていて欲しければ、500円の輸入ステーキで無く、和牛を食わせろ!…ちょっと、ブレンダー!  貴方もいい加減にしなさい! 探偵事務所の犬が買収されてどうするのよ?」 犬まで尾を垂らしシュンとした。 どうやら(男と犬がグルになり)ブルセラショップの商品券を手に入れたのが、彼女にバレたようだ。 それにしても彼女の美しさたるや、この世のものではないくらいだ。スタイルも抜群なので、 コスプレをさせて見たくなる気持ちも判らないではない。 「とにかく…今すぐ商品券をお金に換金して貰って下さい! さもなければ、向う一ヶ月、経費での飲み食いは認めませんから…。 それから、ブレンダーの餌代も所長の自腹でお願いします!」 人並み外れて美しい彼女の前に、ごく一般的な男と犬はたじたじになっている。 警察には民事不介入の原則があるが、弱者保護の義務もある。本官は役目柄、仲裁に入ることにした。 「まあまあ…落ち着いて…」 「あっ、お巡りさん! ちょうど良かった…んっ…この匂い…何ですか?」 考えてみると、本官は匂い付きのセーラー服を小脇に抱えている。まさに警官にあるまじき行為…基本的に仲裁に入れる立場では無い。 慌てた本官は包みを後ろに隠して、うな垂れている男の方に声を掛けた。 「話は聞きました…いや、あれでは聞こえてしまいます。所長さん…彼女の言う通りにした方が良いと思うのですが…。 本官もちょうどこの商品本部の本部長に用事があるので一緒にどうですか? お口添えしますよ!」 「はっ、はあ…ほんの出来心ですので、今回だけは…んっ? いやっ、そうでは無く…残念ですが…いやっ、その、それは助かります…」 彼女と犬をその場に残し、本官と男はエレベーターで商品本部へ向かった。 男は風下達也という私立探偵、事務所を経営している所長だそうだ。 彼女は助手の鈴谷聖美…風下曰く、事務所の経理を握られているために、聖美の言うことには逆らえない…とのことだが、 それだけではなさそうだ。 経理云々ではなく、常に風下が間違いで、聖美が正しいだけのこと。少なくとも商品券の経緯では風下に弁解の余地はない。 鬼制服商品本部の中はガラスケースが並ぶ宝石店のような作りになっている。 ガラスケースの中も広々としており、ポツンポツンと商品が展示されているようにみえる。ただ一点一点に照明が当てられ、 高級感をかもしだすとともに暗いイメージを払拭している。横には元の持ち主の顔写真が展示されているが、揃いも揃って美少女ばかりだ。 確かに自慢のショールームだ。 「いらっしゃいませ! おや、お巡りさん、早速の商品本部訪問、ありがとうございます」 奥の扉が開き、先日の本部長が現れた。 本官はセーラー服の返却の前に風下の事情を説明することにした。 「やあ、どうも。実はこちらの方は私立探偵で、商品券を換金したいとおっしゃっているのだが…出来ますか?」 本部長は表情を曇らせながら応えた。迷惑な要求なのかも知れない。 「う〜ん、残念ですね。何しろ内の商品は他所では手に入らないものばかり…後悔しますよ! それでもよければ換金しますが…」 風下は黙々と商品券をガラスケースの上に並べている。ただ、その目はケースの中に飾られた純白のパンティーに向けられている。 風下の燃えるような視線に気付いた本部長が声を掛けた。 「おや、この商品が随分お気に入りのようですね? ははあん、お客さん…探偵さんでしたね…さては嫌いではありませんね?」 「えへへっ…実は換金は渋々なんですよ…。こういった機会は滅多にないから…」 「そうですか。換金も事情がおありで…? ううん、交番のお巡りさんのご紹介とあってはむげにも出来ない…判りました!  換金と一緒にこちらの商品もサービスでお持ち下さい!」 「それはありがたい…けれど、商品を持ち帰るわけにいかないのです」 「そうですか。ならば商品券の分1万円に『匂いの元』をお付けしましょう…むふふ!」 本部長は商品券と引き換えの一万円札とともに棚から小さなビンを取り差し出した。  「実はこの香水がとっておきのサービスなのですよ。むふふっ…匂いを嗅ぐと脳天から下半身まで刺激が突き抜け、妄想が沸いて来ますよ! 肉体的にもパワーが漲ります。もちろん、覚せい剤や麻薬の類ではないから心配は要りません。 なにしろ、お巡りさんにもお渡ししているくらいですから…」 「へっ? お巡りさんでもこんな趣味があるのですか?」 いきなり話を振られ面食らった本官だったが、ここは弁解するには好都合な場面だ。 そもそも、成人女性はとにかくとして、ブルセラへの興味は薄い方なのだ。濡れ衣を着せられても面白くない。 本官は本部長に紙包みを見せながら、訪問の目的を語った。 「…そう、本官の用事はそのことでした。移転記念を貰ったけれど、職業柄持っているわけにもいかなくて… お気持ちだけ頂いて置くことにしますよ」 本部長は紙包みを受け取りながら、声を落とし言った。 「それは残念です…。ただ、折角なので『匂いの元』だけはお使い頂きたい…おや、もう使って頂けたようですね!」 「実は同僚が勝手に開封してしまって…。確かにムンムンとした甘酸っぱい香りが拡がりました。 何か妄想をかきたてるような不思議な香りですね。ぼんやりするようなことはないので、薬物の心配はありませんよ」 本官は素直に感想を話した。社交辞令は含まれていない。 「ふっふっふ、そうでしょう、そうでしょう…」 本官の言葉に諸手をあげて喜んだ本部長は、更に愛想良く続けた。 「といっても、片や警官、片や探偵で事情がおありのご様子。お二人とも持ち帰りでは中々実験出来ないでしょう?  如何です…奥の個室で効果を試されては? ここでしたら一時的にお気に入りの商品もお貸し出来ますよ」 聖美を待たせているくせに、風下は誘うような熱い瞳で本官を見つめている。 まあ、短時間で済めば問題はない。本官達二人は本部長の好意に甘え個室を借りることにした。 それぞれの個室に本部長は「匂いの元」を香水のように振りかけた。 「どうぞごゆるりと…ガチャリ!」 ただ、不可解なのは鍵を閉めるような音が聞こえたことだ。 「ああっ、鍵が掛けられている!」 風下の言葉に釣られて、俺も扉のノブを押したり引いたりしてみたがまるで動かない。 「本部長、鍵は必要ない…開けて下さい! これは一体…何の真似だっ?」 隣の個室では早くも風下が騒ぎ始めている。 「本官まで閉じ込めるとは…こんなことをすると、公務執行妨害になるぞ!」 俺も得意の台詞をわめくように言った。 「ふっふっふ、騒ぐな…欲望の塊め!」 底響きのする意地の悪い笑い声が響いた。声だけは本部長のものだが、口調が別人になったかのように全く違う。 「ボッタクリを考えているのなら無駄だぞ! 俺なんて、さっきの一万円で一ヶ月暮らさないといけないのだ! それに…知っているか?  お巡りさんて言うのは地方公務員の中でも最低の給料なのだぞ。 俺と同じでお金なんて持ってないはずだぞ!」 隣室で風下が喚いている。内容は図星だが…大きなお世話でもある。 「ふっふっふ、我々の考えは合理的でね…お前達のような貧乏人から金を取るくらいなら、金持ちか銀行を襲う。我々が欲しいのは、 一瞬の快楽のために仕事を投げ出す不埒な根性を持った人間の魂…それで監禁させてもらったのだ!」 本部長の言葉は厭味にも聞こえるが、思い当たる節もある。少なくとも不埒な根性であることだけは認めなければならない。 それにしても監禁は行き過ぎだし、言葉には意味の判らない部分も多い。 「我々…って、何かの組織か? それに魂が欲しい…って、一体、俺たちをどうするつもりなのだ?」 俺の問いに本部長は明確に答えた。 「我々は宇宙から来た犯罪組織…夜盗鬼族だ。そう、お前達はそのままそこで邪鬼となり、我々の手先となって働いてもらわねばならない。 ふっふっふ、先程撒いた『匂いの元』別名キマイラ・ウイルス。その匂いを嗅いでいけば、数時間で邪鬼になれるのだ。 快楽への欲求があれだけ強いお前達のことだ…さぞかし優秀な邪鬼となるだろう!」 「なっ、何だと、夜盗鬼族…こんなところにまで現れるとは…。とっ、とにかく、ここから出せ! 邪鬼になって角の破片探しなんて、 誰がやるものか!」    益々訳が判らなくなった俺に対し、隣の部屋の風下は猛然と抗議を始めている。監禁の事情を飲み込んでいる様子だ。 「ふっふっふ、出してやりたくてもその扉は内側からしか開かない。それも人間では無理、邪鬼程度のパワーを持たないと開かないのだ! それにしても破片探しのことまで知っているとは油断ならないようだ。探偵さんには眠ってもらおう!」 「なっ、何なんだ…このガスは? う〜ん、眠い…ぐう…ぐうぐう…」 隣室からは風下のいびきが響きはじめた。 「それに引き換えこちらは…何も知らないようだ。ふっふっふ、お巡りさんにだけは俺様の本当の姿を見せてやるとしよう!」 マジックミラーのような仕掛けになっているのか、みるみると個室の扉の色が褪せ透明なガラスに変わっていく。 そして、そのガラス戸の向うに立っていたのは…。 いやはや驚いたのなんの、愛想の良い本部長などではなく…なんと青鬼だった。 「ふっふっふ、驚きの余り声も出ないようだな? 警官がそんなことで、市民の安全を守ることが出来るのか? んっ?」 (ピンポ〜ン!) このときちょうど新たな来客を告げるチャイムが鳴り響いた。 「おっと、新たな邪鬼候補…いや、お客様のご来店かな?」 壁にかけてあるジャンパーと帽子を羽織ると、青い素肌と角が隠され、鬼であることが判らなくなる。 青鬼は本部長に早変わりすると、くるりと振り向きカウンターに出て行った。 「いらっしゃいませ! んっ…女性のお客様…持ち込みですか? あいにく、ここは商品本部。買取の方は店舗の方で承っておりますが…」 客は女性のようだ。助けを呼ぼうにも、ここからはカウンターの様子が影に隠れて見えない。 「あらっ、勘違いしないで下さい。私は下着の持込に来たのではなく、人を探しに…」 姿は見えないが声の主は聖美に似ている。待ちくたびれて探しに来たのかも知れない。 幸いにして本部長の姿をした青鬼は追い返そうとしている。ここで騒げば、(聖美と思われる?)女性にも危険が及ぶと判断した本官は しばし行方を見守ることにした。 「ふっふっふ、貴方のような美人の持ち物なら高値での売買が可能です。よろしければ…いやっ、人探しでしたね…。 ただ、先程から外部の方は一人も見えていませんよ!」 「えっ〜、誰も来ていない…あの二人、一体どこへ行ったのかしら? ところで…」 対面会話に不審な点があったのかも知れない。ここで急に女性の声のトーンが変わったのだ。 誰からも好かれるような厭味のない口調から、犯罪者を厳しく追い詰めるような口調に一転したのだ。 「ところで…このお商品本部の中には随分と邪悪な空気が漂っているようね! 邪悪な空気の源は本部長の貴方ね!」 「なっ、何をいきなり邪悪な空気などととんでもないことを…。そんなことを言うと名誉毀損で訴え…ああっ、帽子を取るな!」  開き直って誤魔化すつもりだったのだろうが、青鬼の企みはもろくも崩れたはずだ。 帽子を取られて角を晒せば、もう言い訳など出来はしない。 それにしても青鬼の正体を簡単に見抜くとは、一体この女性は何者なのだろうか? 「その角が邪悪な空気の源よ! 夜盗鬼族、角の破片探しの合間にこんな商売を始めていたなんて…。一体、何を考えているのかしら? あっ、そうか、お客に来た人間を邪鬼にするつもりね!」 「ぬうっ〜、見破られては仕方がない。しかし、小娘のくせに偉そうな…一体、何者だ?」 答えの代わりに、凛とした声で呪文が唱えられた。いや呪文というよりは、悪を許さぬ正義の叫びだ。 「ティアラ・アップッ! チェ〜ンジッ・ミレイヤ!」 カウンター越しにまばゆい光が乱反射し、青鬼が弾き飛ばされた。 青鬼を弾き飛ばしたのは…。 金色の冠でまとめられたサラサラとした長い髪。 10人のミス日本の良いところばかりを集めて来たような整った顔の作り。 コスチュームがはちきれんばかりに突き出された豊満な胸。 超ミニスカから惜しげも無く伸びた、細いのに肉付きの良い長い脚。 美しさと華やかさを揃えているピンクのコスチュームに身を包んだ完全無欠のヒロインだ。 「聖天使ミレイヤ参上! 夜盗鬼族、覚悟しなさい!」 青鬼は壁伝いに起き上がると少し怯えたような表情で身構えた。 「くっ…聖天使ミレイヤ! またしても我々を邪魔立てする気だな!」 ミレイヤはにっこりと微笑んだ。この笑顔に100万ドル出す男が居たとしても不思議はない。 「うふふっ、もちろんよ! このミレイヤが商品本部ごと全部潰してあげるわ!」 「うぬぬっ、そうはいくか!」 青鬼の丸太のような腕がミレイヤに繰り出された。 見るからに破壊力満点のパンチ…。が、ミレイヤは涼しげな表情のまま掌で軽く受け止めた。 「うふふっ、そんなパンチではダメージを与えることなど出来ないわ! 本当に威力のあるパンチというのはこう打つのよ!  ミレイヤッ・パア〜ンチッ!」 ミレイヤはスルスルと青鬼の懐に入り込むと、顔面にパンチをめり込ませた。 「ぐっはっ!」 華奢な体からは考えられないような重量感と破壊力。至近距離からのパンチに青鬼は大きく反り返ると、そのまま後ろへ転倒した。 倍ほどもある青鬼をいとも簡単に倒したミレイヤは、続けて足技を繰り出した。 「さあ、連続でいくわよ! ミレイヤ・ストンピングッ! …アンド、ミレイヤキック!」 コスチュームとはまるっきり色違いの純白のパンティーを、チラチラさせながら軽いステップで踏みつけ、モロに見せるほど振りかぶって 蹴り飛ばす。 「ぐほっ! …げほっ! …ほげっ!」 完全に青鬼を舐め切ったような攻撃だが、一発一発の重さと威力は十二分だ。 Mは切れ目のない攻撃で青鬼を完膚なきまでに叩きのめしていく。 立ち上がる気力すら奪われた青鬼は床を這いながら壁際に逃れようとした。 真上から見下ろすミレイヤは、青鬼へ馬乗りになって角に手をかけグイッと引き絞った。 角を極めてのキャメルクラッチ…ラクダ固めだ。 青鬼は悲鳴をあげることも出来ないまま、蟹のようにブクブクと泡を吹いた。 「あらあら、角を折ったわけでもないのに、もう泡を吹いて気絶しちゃった。訊きたいことがあったのに…あっ、居た!」  ミレイヤが顔を上げたとき、本官と視線が交差した。マジックミラーまで透視出来るようだ。 ミレイヤはほっとしたような笑顔を浮かべると扉を開こうとした。 「もう大丈夫…すぐに出してあげるから安心してね! ん〜んっ、あれっ? ううっ〜ん…ダメだわ!」 青鬼の言葉は嘘ではなかった。扉はミレイヤの力をもってしても開けることが出来ないのだ。 続けてトライするミレイヤに、本官は事情を説明した。 「…というわけで、内側から、それも邪鬼にならないと、扉が開かないらしいんだ」 「それは困ったわね…。そうだ、扉ではなく壁を破れば…んっ?」 (ミシミシ…バタン!) いきなり端の個室の扉が開き、一匹の邪鬼が飛び出して来た。 「ううっ〜ん…ここは? そうだ個室に閉じ込められて…一体どれくらい寝ていたのだろう? 仕事に戻らなければ…」  邪鬼は寝起きのときのように頭に手を当てウロウロしていたが、扉の鏡にはたと釘付けになった。 「うっ、緑の鬼…まさか、これが俺の姿なのか?」 愕然としながら頭に手をやり角を確かめている。 「ああっ、角があるっ! こんな姿で会社に戻ったら…ぐわっ、頭が割れそうだ! しかも…なっ、何故だ?  無性に悪事を働きたくなって来た…ううっ、角の破片を探さなくては…」  邪鬼は頭をかきむしりながら悶えている。人間としての記憶が失われ、徐々に邪悪な邪鬼の意識に変わっていくのが手にとるように判る。 「うおおっ…俺様はもう人間ではなく、夜盗鬼族の手先邪鬼だ! 思う存分暴れて…んっ、そこにいるのは?  ふっふっふ、小娘か…ちょうど良い。邪鬼としての初めての悪事がレイプとは俺様も幸運だ!」 邪鬼は角を黒光りさせると、いきなりミレイヤに襲い掛かった。 「邪鬼に変えられたのね! ならば、悪事を働く前にまた人間に戻してあげましょう! ええっ〜いっ!」 邪鬼の突進を片手で押さえたミレイヤはもう片方の手で角を掴み、ねじ切るようにへし折った。 「うぐっ、角を…。ぐっ、ぐわああ〜!」 ポキンという乾いた音と断末魔の絶叫を残し、邪鬼は泡を吹きながら崩れ落ちた。 ミレイヤにかかれば虫けらのごとく秒殺される、身も心も醜い使い捨ての戦闘員。それが邪鬼なのだ。 もし本官がこのまま邪鬼になったら…。そう思っただけで、さすがに背筋に悪寒が走る。 ただ、悪寒の理由はそれだけではなかった。 今にして思うとそれは嫌な予感だったのかも知れない。 このときはまだ本官は知らなかったのだ。 圧倒的な強さを誇るミレイヤに決定的な弱点があることを…。 ***つづく