平成16年7月2日・初版 MonkeyBanana2.Com Free Counter

新・流星天使ラスキア「性隷なる球艶・実況パワフルエロ野球」第3章/妄想博士・著

 ポツポツと肌に当たる水滴のため、ラスキアは意識を半ば取り戻した。 いつの間にか雷雲は去り、雨脚が弱まりつつある。 うつろな意識の向うで、赤鬼、青鬼がすっきりした表情のまま作戦会議を始めている。 「ふううっ〜、全精力を振り絞った爽快感と、空になった脱力感はいつものことながら堪りませんな、赤鬼様!」 「ふうっ〜、お互いたっぷり出したな、青鬼! さて、これで任務は一先ず完了だが…。ラスキアという性奴隷の土産も 出来たことだし、そろそろ引き上げるとするか?」 「んっ…野球の方は試合放棄するのですか? 折角、勝てる試合を放棄するというのも、つまらないのでは…。 それより、我等の強さを見せつけ、あの野球狂どもを邪鬼に洗脳してはどうですか?」 「そんな簡単にことが運ぶのか?」 「楽勝ですな! 延長になった途端に突き放して勝利すれば、黙っていても向うから敗因を聞きに来るでしょう。 そのときにジャパンデビルズのトレーニング方法を教えるとかなんとか言えば、絶対に釣られるはず…」 「しかし、ラスキアを昇天失神に追い込んでしまったぞ! スマイルズのピッチャーはどうなるのだ?」 「ふっふっふ、ラスキアには迷惑な話だが…。叩き起こして投げさせ、その上で滅多打ちにするのです。 邪鬼達も打てるよう新器具…ツインローター装備の特製貞操帯を装着して置けば良いでしょう!  ふっふっふ、パワーベルトを外して置けば、何も心配は要りません!」 「なるほど、ラスキアを滅多打ちか…悪くないな! どうせラスキアは持ち帰りだ。そのおまけで、スマイルズを 全員邪鬼化するのであれば…よし、その手でいくぞ!」 背後から太ももに手を廻した赤鬼によって、ラスキアはうつろな意識のままぐいっと抱え上げられた。 ラスキアは首をがっくり垂らしたままだから、中で混じった二種類の精液が股間からポタポタ滴り落ちるのが見える。 ぼんやりしながら白く汚れた雫を見ていると、青鬼がニヤニヤしながらその横で作業を開始した。 濡れて汚され敏感になっている二つの穴に何かがあてがわれた。 「んっ…あっ…あふん!」 ズブッ、ズブッと二本の太い棒がラスキアの中に入っていく。 奥まで挿入されたところでパチンパチンとベルトが留められる。 まるでオムツを履かされるように、ラスキアは貞操帯を取り付けられたのだ。 「ここからは人間の目では透けないが、鬼族の目から素通しになるシースルーのユニフォームを着てもらおう!  ふっふっふ、巨乳やヘアーを剥き出しにしたまま投げてもらうのだ!」 「ふっふっふ、開発班も次から次へと淫らな新アイテムを作り出すものだ!これも青鬼が率いるようになって以来だな。 ただ、シースルーでは全裸と同じ。興奮した邪鬼が滅多打ちに出来るのか?」 「ふっふっふ、ご心配は無用ですな、赤鬼様! 邪鬼には出塁に付きラスキアを犯せる懸賞を着けます。 そうすれば意地でも打ちまくるはず…。大体、俺様でさえまだ物足りない。 今すぐにでも、もう一発中出ししたいくらいなので…」 「ふっふっふ、あれだけ中に出しておきながらまだ不足とは呆れた奴だ! そもそもラスキアを滅多打ちにすると 言ったのは貴様だぞ、青鬼! どうせ試合が終われば、揉んで舐めながら幾らでも中に出せるのだ、少しの間くらいは 我慢しろ!」 赤鬼と青鬼はラスキアにユニフォームを着せ付けると、一塁側のベンチまで運び込んだ。 ようやく雨は上がり、邪鬼達がグラウンド整備を始めている。 「ふっふっふ、ラスキア…人間を逃がそうなどと考えると、どんなことになるのか判っているな!  パワーベルトを失っていることを忘れるなよ! さあ、スマイルズの奴らが戻ってきたようだ。 ふっふっふ、邪鬼誘致のために一イニングだけ頑張ってもらおう!」  赤鬼はそれだけ言うと、すぐに態度を改め、戻って来たスマイルズの面々に会釈した。 野球帽で角を隠しているから、人間では正体を見破れない。 「中断の間、お宅のエースはずっとウォームアップと柔軟体操…大したもんです。 大変堪能…いやっ、勉強させて頂きました。それから、師法君、これ君のバットだよね?  間違えたようだから返しましょう」 壊したグリップを怪力で直したのか、寸一のバットは元通りだ。 ただ、お守り…角の欠片は抜かれているから、特殊効果はもうない。 「あっ、レナッチ、来ないと思っていたら、こんなところで雨宿りしてたんだ! あれっ、ゴーグルを着けたんだ。 中々、かっこいいな…そういえば、メジャーリーグにもゴーグルエースってのが居たな…」 邪鬼にされる運命が待っているとも知らず、風下は呑気なことを言っている。 表情を隠すようにしているから、風下は未だにラスキアを流奈のままだと勘違いしているようだ。 「さあ、さっそく試合を再開しましょう! ここからは総力戦…互いにがんばりましょう!」 なんとか異変を伝えたいラスキアだったが、赤鬼の目の前ではそれも叶わない。 追い出されるようにベンチを後にしたラスキアは、今や完全に鵜飼の鵜となってしまっていることを 自覚しないわけにはいかなかった。 「試合を再開します。プレイ!」 延長回の表。先頭バッターは一番の鬼一…邪鬼1号だ。 ギラギラとした淫らな視線は、シースルーとなっている肉体に釘付けだ。 (どうしよう…滅多打ちになったら、全員邪鬼に…。とりあえず抑えていくしかないわ…) ラスキアはまだ火照った肉体をなんとか操りながら、大きく振りかぶった。 その時、ブーンという音が体の芯に響き渡り、ラスキアの手元を狂わせた。 「あっ、うっうん…ああっ!」 ボールは大きくコースを外れ、バックネットを直撃。大暴投となった。 「ボール!」 焦って投げた二球目もバイブの振動のために、大きく手前でバウンドしてしまった。 「ボール・ツー!」 投げる瞬間、二つの穴にはまったバイブが作動し、まともにコントロール出来ない。 本来なら球数とともにバッターを追い込まなくてはならない。 それにもかかわらず、ラスキアの方がカウントの上でも、肉体的にも追い込まれていく。 続けて投げた三、四球目も大きく外れてしまった。 「ボール、ファーボール!」 邪鬼1号はニヤニヤ笑いながら、ゆっくりと一塁へ歩いていく。 (ああっ、ランナーを貯めてはまずい…。でも、どうしたら…) ラスキアは肉体の疼きを必死で抑えながら、二番の邪鬼2号に立ち向ったが、結果は変わらない。 ストレートのファーボールを出して、ノーアウト一、二塁のピンチを迎えてしまった。 心配した風下と内野陣が、マウンドに集まろうとしたが、ラスキアは身振りで平気であることを告げた。 ラスキアに変身している今はバッテリーの距離でも不安だ。 マウンドまで来られては、流奈でないことがばれてしまうのだ。 文字通りの孤立無援。 風下達をどうにか押し留めたラスキアだったが、打開策がある訳でもない。 バイブ付きの特製貞操帯は今のパワーでは外すことは出来ないし、誰かにピッチャーを交代してもらっても、 打たれることは目に見えている。 ましてや次は3番の青鬼だ。 完全に進退窮まり、マウンド上で立ちすくむしかないラスキアだったが、せかすようにバイブが振動を始めている。 “ブイイィ〜ン! ブイイィ〜ン!” 「うっ、くうう〜…ああっ、我慢出来ない!」 何も考えることが出来なくなるほどの疼きに耐えかねたラスキアは、反射的にボールを投げてしまった。 ボールは打ち頃のコースへ甘く入っていく。 青鬼は持てる力の全てをつぎ込むように強振した。 “バッコ〜ン!” 凄まじいが鈍く詰った音が鳴り響く。 打ち損ないだ。 打球は青鬼の真下でワンバウンドすると高く高く舞い上がっていく。 「センター! 取れるぞ!」 風下の声でセンターが落下点に入ったが、青鬼の打球は中々落ちてこない。 ランナーの邪鬼が次々にホームを駆け抜ける。 ようやく捕球したセンターが、内野にボールを返した時には、青鬼は三塁に達していた。 走者一掃の勝ち越しタイムリー三塁打だ。 ホームランこそ出なかったものの、青鬼の一打は追加点を叩き出し、ラスキアのピンチを最大限に拡大した。 しかも迎えるは四番の赤鬼。敬遠すら通用しない相手だ。 “ブイイィ〜ン…” 今までにも増して強烈な振動がラスキアの芯を揺さ振っていく。 「あっ、うふっ…はあはあ…。いやん…はあはあ…」 ラスキアは大きな呼吸を繰り返し、漏れる吐息を誤魔化した。 衆人環視のマウンド上で大きな声を出して悶えるわけにはいかない。 体の方も、疼きで肉体をよじる代わりに、投球をしていかないとならないのだ。 相変わらずボールは大きく外れていく。 ただ、赤鬼はニヤニヤしながら立っているだけでまるで打ち気を見せない。 青鬼のような打ち損ないを恐れたのか、ラスキアの苦悶で歪む表情に見とれているのか、連続ホームランが 掛かっているのに手を出さないのだ。 「ボール。ファーボール!」 敬遠と思えるほどのボール球が続き、赤鬼はノッシノッシと一塁へ歩いていく。 その表情は、雑魚の邪鬼達に粉砕されるラスキアを楽しんでいるようにも見える。 二点が追加され尚ノーアウト一、三塁。 度重なるバイブ責め、そして甚振るように見送られるラスキアは、肉体的にも、野球の上でも火達磨状態だ。 もう邪鬼でさえ抑えることは不可能だ。 肉体の昂ぶりで目の焦点さえ合わなくなってしまっている。 (ああっ、どうしたら…。どうしたらいいの?) まさに追い込まれたラスキアは、神に祈ることしか出来なかった。 「タイム!」 たまりかねた風下が立ち上がり、マウンドへ一歩踏み出したそのとき… 「所長、流奈さんを励ますのは私に任せて! 審判、選手交代します! センターに鈴谷聖美が入りま〜す!」 ベンチから聖美が飛び出して来ると、風下を言葉で押し留め、マウンドに駆け寄った。 取材が終わり駆けつけて来たのだ。 「遅れてごめんなさい! どうやら大変な状況のようね。でも、もう大丈夫! 打たせていきましょう!」  聖美は肩に優しく手をかけながら、ラスキアを励ました。 言葉はありきたりだ。 ただ、単に励ますだけの言葉ではない。 ゲームの局面も、ラスキアの身に何が起こっているかも、全てを見抜いた上での 「もう大丈夫! 打たせていきましょう!」だし、言葉の底には不当な勝負を仕掛けている鬼族への怒りが 込められている。 何よりかけられた手から放たれる正義のエネルギーが、ラスキアの気持ちを立て直し、バイブの振動を 押さえつけていく。 (聖美先輩…。いえっ、違う…貴方はまさか…?) 深く被った野球帽に隠れているが、聖美の表情は明らかに別人。 しかも帽子の下には、自分と同じ黄金のリングが輝いていることをラスキアははっきりと感じていた。 「うふふっ、どうやら正体がばれてしまったようね。鈴谷聖美は仮の姿。私はミレイヤ… ティアラヒロイン聖天使ミレイヤよ! 鬼族に邪悪な神がついているなら、私達には正義の女神様がついているわ。 一緒に鬼族を懲らしめてやりましょう!」 テレパシーがラスキアの脳裏に響き渡る。正義感に溢れた華麗で美しい音色だ。 「聖天使ミレイヤ…ありがとう、これならば逆転出来る! ああっ、正義の女神様…流星天使ラスキアは このめぐり合わせを心から感謝致します!」 ミレイヤはラスキアの名前を心に焼き付けるように瞳を輝かせると、笑顔のままテレパシーで言った。 「うふふっ、ラスキア…今後ともよろしくね。さあ、逆襲なのだけれど、今はみんなが見ているし、 貴方はパワーアイテムを封印されている。私に考えがあるわ…邪鬼を打たせて行きましょう!  このまま野球で決着をつけてあげるわ!」 ミレイヤはポンと肩を叩くとそのままセンターへ走っていった。 「プレイボール!」 試合再開。 ラスキアは渾身の気持ちを込めて、邪鬼5号に絶好球を投げ込んだ。 ミレイヤがパワーを補充してくれたお陰で、バイブは作動しなかったが、所詮は人間並みのボールだ。 邪鬼5号は易々と速球を捉え弾き返した。 “カッキーン!” 「ああっ、センター! いやっ、幾らなんでも無理か…」 さすがの風下も絶句するほどの当たり。打った瞬間にホームランと思われる打球がバックスクリーンへ飛んでいく。 ただ、打たれたラスキアは愕然とせず、ファーストへカバーに向った。なんとなく閃いたのだ。 聖美に扮したミレイヤは背走しながら打球を追うと、フェンスを蹴って宙に飛んだ。 「ホームランなんかにさせないわ! これで外野フライ…ワンアウトよ!」 “パシッン!” 誰が見てもホームランの打球をバックスクリーン手前の空中で補給したミレイヤは、そのまま矢のような送球を ファーストに送った。 ファースト走者の赤鬼が慌てて戻って来る。 手を伸ばしたラスキアは、球を受けた反動でくるっと反転しながら赤鬼の帽子にタッチしたのだ。 “ボリンッ!” 「ぐわっ!」 「タッチアウト!」 ラスキアは送球の威力を最大限に利用しながら赤鬼の角を粉砕した。 帽子と一緒に角を弾き飛ばされた赤鬼は、丸坊主になった頭を抱えながら、一直線にベンチへ逃げていく。 「これで、ツーアウト! あっ、タッチアップ…所長、絶対ボールを落とさないで! バックホーム!」 サードランナーの青鬼が本塁に向って突進していく。 ラスキアはキャッチャー風下目掛けボールを投げた。 ラスキアのボールは、青鬼より早く風下のミットに吸い込まれた。 本塁クロスプレーだ。 「うわあああっ!」  突っ込んで来た青鬼に目を剥いた風下は、逃げるまもなく無く弾き飛ばされた。 青鬼ともつれるように風下は数メートル転がっていく。 「どひゃああ〜…がんっ!」 大きな音を立てながらバックネットに激突した風下は、起き上がりざま、網模様のついた顔面をニヤリと歪ませた。 差し出されたミットにはボールがしっかりと握られていた。 本塁封殺、スリーアウトチェンジだ。 ミレイヤが駆けつけたお陰で、赤鬼を撃破し、陰謀を阻止出来る見込みが出来たものの、野球の展開は別だ。 得点は6−8。 今のトリプルプレーで流れはスマイルズに向いたように思えるが、赤鬼に代わったこれまた豪腕の青鬼から 2点取らなければ負けてしまう。 打順が二番のミレイヤは頼りになるが、三番ラスキアはヒットが精々だし、四番の寸一は角の破片を失っているから 期待出来ない。 つまり、ミレイヤの前の風下が出なければ敗戦は必死なのだ。 先頭バッターはここまで三振続きの1番風下。 青鬼の剛速球が投げ込まれた途端、フラッとよろけた。 先ほどのクロスプレーで軽い脳震盪を起こしていたのだ。 “ボコッ!” 「どわっ!」 鈍い音と鋭い絶叫。ボールが風下のお尻にめり込んでいる。 「デットボール! テイクワンベース!」 「おいっ、審判! 今のは故意のデットボールじゃないか! ストライクだろう!」 マウンドの青鬼が喚いたが、そこは草野球で審判の判定は絶対だ。 さわやかなスポーツマンを気取っている手前、執拗な抗議も出来ない。 青鬼は渋々引き下がると、次の2番打者ミレイヤと向かい合った。 これで、少なくとも同点には持ち込める。 「さあ、キヨリン頼むぞ!」 置かれた状況を知らないだけに、お尻をさすりながら一塁ベースの風下が大きな声を出している。 バッターボックスはミレイヤ。 ティアラヒロインであることに気付いているかどうかは不明だが、マウンドの青鬼の攻め方はどちらにしても剛速球だ。 唸りを上げて投げ込まれた邪悪なストレートを、ミレイヤは気合一閃で弾き返した。 「といや!」 “カッキーン!” ボールは弾丸ライナーとなり、青鬼目掛けて一直線に飛んでいった。 「ひっ!」 無様に身を屈めた青鬼の頭上をスレスレに掠めた後、ボールはぐうっとホップし、軽々とバックスクリーンを 超えていった。 起死回生となる同点場外ホームランだ。 悠々とベースを廻るミレイヤをマウンドの青鬼は燃えるような視線で見つめている。 今更ながらにティアラヒロインであることを見破ったのかも知れない。 悔し紛れに土を蹴った青鬼は、その燃える視線を今度はラスキアに浴びせかけた。 「くっ、いつのまにやら別のティアラヒロインを紛れ込ませおって…。だが、逆転はさせるものか!  スーパーパワーを失ったままでは鬼族に通用しないことを思い知らせてやる!」 声にこそ出さないものの、青鬼の目が雄弁に語っている。 (確かにそうだわ…。でも…) ラスキアは蔑むように投げ込まれた剛速球を何とかバントした。 青鬼がマウンドから駆け降りて来る。 ピッチャー前に転がったボールから目を逸らしたラスキアは、真っ直ぐに一塁ベースだけを見た。 スーパーパワーは失われているし、犯された後だ。 人間と比べても見劣りする走りしか出来ないが、ラスキアはそのまま懸命に一塁を駆け抜けた。 「セーフ!」 簡単なバント処理のはずが、なんと青鬼がファンブル(お手玉)してしまったのだ。 風下とのクロスプレーで角にひびが入ったのかも知れない。 (良かった…これで、とりあえずはサヨナラのお膳立てが出来た。 ただ…寸一君を含めて、青鬼の剛速球を打つことは 出来ない。盗塁を繰り返しても、今の私のスピードでは…。どうしたら本塁まで帰れるの…) 一塁上で考えながらラスキアは打席に立った寸一を見た。 オーラの失われたバットを持った寸一は、驚くほど小柄で非力そうだ。 例え、バットで捉えることが出来たとしても、青鬼の球威を弾き返せるようには見えない。 “ズバア〜ン!” 「ストライク・ワン!」 凄まじい音を立てて青鬼の剛速球が投げ込まれる。 赤鬼と比べれば遅いことは遅いが、165kmは出ている剛速球だ。 寸一は微動だにせずボールを見送った。 まるで手が出ない様子だ。 “ズバア〜ン!” 「ストライク・ツー!」 審判の右手が上がる。 追い込まれた寸一は一回打席を外すと、軽く素振りをして構えなおした。 瞳は一直線に青鬼…いや、青鬼の握ったボールに向けられている。 (いい瞳をしている…) 寸一の瞳は人間にしては珍しいほど澄んでいる。 そこにはギラギラした名誉欲も、プライドを賭けているような緊張感もない。 例えるならば、ボールを打つことが楽しくて堪らないという無邪気な野球少年のような瞳だ。 そんなことは関係無しに青鬼が振りかぶる。 青鬼の指から剛速球が放たれた瞬間、ラスキアはやりきれない気持ちになった。 角の破片を取り戻せなかった不甲斐無さと、無様に三振を喫し落胆する寸一の姿がオーバーラップしたのだ。 これだけ純粋に野球を愛しているのに、人間の力だけでは邪悪な速球に手も出ない。 (ごめんなさい…寸一君。今までのホームランは全部夢。貴方の本当の実力は…えっ?!) “カッキ〜ン!” 寸一はバットを一閃すると弾丸ライナーを放った。 ボールはグングンと伸びて行き、フェンスを軽々と超えていった。 四打席連続の文句なしサヨナラツーランホームランだ。 ラスキアはゆっくりとダイヤモンドを駆け抜けながら、信じられない気持ちになって寸一を見た。 誇らしげに走る寸一からは、キラキラしたオーラが発せられていた。 先程までのギラギラした邪悪なオーラではなく、汗とひたむきさでさわやかにキラキラ輝くオーラだ。 「やったぁ〜、さよならだぁ〜!」  交差するようにスマイルズの選手達がベンチを飛び出し、寸一を迎えにホームベースの回りで人垣を作った。 ラスキアはホームを踏むと、すっと身を引き、静かに転がっている寸一のバットを拾い上げた。 グリップの部分が黒く汚れている。 そこには血の滲むような努力と、夢を追うために必要な汗がたっぷりと染み込んでいたのだ。 (ホームランを量産して来たのは、角の破片の効果だけではなかったんだ…) 角の破片がもたらす効果なんて、所詮は幻想。 真実の前には、色褪せ、かき消されてしまう幻なのだ。 努力をする信念と汗を流せる夢の前には、邪悪な幻など無力だということを、血と汗の染み込んだグリップは ラスキアに雄弁に語りかけていた。 こそこそと青鬼を初めとするジャパンデビルズの面々が逃げるようにベンチへ下がっていく。 きっとベンチを素通りし、試合終了の宣告を待たずして、逃げ去ってしまうに違いない。 破片は先に持ち去られてしまったものの、スマイルズの邪鬼化は完全に企画倒れだ。 逃げ足の早さは宇宙でも有数。 残念ながら、今、鬼族を追っても得るものは無い。 ラスキアは青鬼達の背中を見ながら、固く誓った。 「覚えていなさい! 今度、戦うときは…盗まれたものを全て取り返して見せるわ!」 ラスキアは誇らしげな気持ちになると、もう一度、照れくさそうにホームに向かってくる寸一を見た。 「ゲームセット。10−8でスマイルズの勝利!」 審判の声が高らかに鳴り響いた。 「いっ、え〜い、優勝だ!」 「凄い! 凄いぞ、寸一っ!」 スマイルズの面々で作った人垣が、小柄な寸一を飲み込んでいく。 その中には自分のことのように喜んでいる平凡な人間…風下と、いつの間にか鈴谷聖美の姿に戻っている 美しく華麗なティアラヒロイン、ミレイヤの姿があった。 パラレルワールドには仲間が居る。 力を合わせ鬼族に立ち向かってくれる本当の仲間達。 ラスキアは心の底から、いつの日か鬼族の野望を完全に阻止出来る日が訪れることを確信した。 そのときには手を取り合って祝福し合うことが出来るだろう。 ちょうど、この…いつまでもグラウンドに響き渡る勝利の歓声のように… ***完