平成16年11月3日・初版 MonkeyBanana2.Com Free Counter

ティアラヒロインSP「三人の性隷天使・第1部:ミレイヤ編」第1章「名も無き島」/妄想博士・著

「本日、銀河連邦貴族院議会にて、性奴隷売買禁止条約が賛成多数で可決された。これはまとまりのつかない連邦議会にしては、 大変な快挙である。尚、唯一反対票を投じたバンテッド公爵は貴族院を退出。辞任する見込み」ギャラクシー・プレス コラム 「昨今の性奴隷市場は、質の低下とともに、需要も激減している。流れから言っても仕方ないんじゃないかな。 まあ、良質の商品が出品される見込みがつくなら、流れは変わるかも知れない…ということだ」銀河系商工会 会頭談 「性奴隷ですか? う〜ん、余り実感ないですね。プレミヤが付くと一つの惑星が買えるぐらい超高値ですから、 我々庶民では高額過ぎて手が出ませんしね…。ただ、連邦で禁止になっても、どうせ裏取引は続くのでしょう。 いいよな、この宇宙には買える奴も居るのだから…」週刊ミルキーウェー街頭インタビュー 「そりゃ、バンテット公爵は不満でしょう! 性奴隷売買で公爵まで上り詰めた人だしね…。 前回の選挙では随分ばら撒いたみたいだから、借金も莫大らしいし…。なんでも惑星3つ位…おっと、これ以上は勘弁してよ! とにかく、議員を辞めたということは、きっと何かを企んでるよ!目を放さない方がいいんじゃない?」銀民党若手代議士 インタビュー談 「バンテット公爵についていったのは3人の若手不良貴族です。情報通で狡猾な『ストラ伯爵』。悪の発明家と呼ばれる『アンヴァン子爵』。 暴れん坊の『タイラント男爵』。奴等、正義を憎むことはなはだしいし、贅沢をする為なら手段を選びません。 まさに錚々たる悪のメンバーが結集したって感じです。えっ、何を仕出かすかって? 性奴隷禁止条約の大幅な違反でしょう。 それも、とてつもない上玉を強引に拉致する可能性が大だと思ってますけど…」銀河警察情報筋 「えっ、性奴隷売買禁止になったの? へぇ〜、じゃあ、ついに幻のナンバー1で終ったんだ。市場では期待されていたんだよ。 ほら、なんて言ったっけ? 何とかヒロイン…冠を与えられた選ばれし美女達のことだよ。まあ、 禁止にならなくても有り得ない話だから、どちらにしても幻だわな!正義の天使が淫らな奴隷になんかに堕ちるはずないもん。 ただ、一回くらいは見てみたかったよな…話の種にね!」月間奴隷情報誌 購読者談 ********************************** 名前の無い島がある。 場所は東京湾沖合だが、今は地図にも載っていない。 周囲5km程度の小さな島だが、円錐型の山と切り立った崖に囲まれ、無数の洞窟、わずかの草原、そして今では樹海をもっており、 攻略の困難な迷路のような要素をもっている。 時空の狭間にあるために、いつも深い霧に包まれている。 もし見ることが出来ても遠望する者の気分を暗くしてしまう不気味な島だ。 海底火山の噴火により島が誕生したのは、折りしも第二次世界大戦後期、本土防衛作戦が検討され始めた時期だった。 日本軍部は東京防衛の秘密基地として島に目をつけ、飛行場や砲台の建設に着手した。 それだけではない。 軍事機能を残したまま島そのものの透明化、つまり消し去ることが検討された。奇襲攻撃が可能で絶対反撃されない不沈空母として、 攻め寄せる連合軍に痛撃を与えることが期待されたのだ。 日本物理学の粋を集めた科学者達の不眠不休の努力により、透明化実験はある程度の成果を収めた。完全な透明化には至らなかったが、 島はレーダーでは探知不能、肉眼でも全貌を見ることの出来ない秘密基地となったのだ。 しかし、さあこれからというときになって、一切の作戦は打ち切られることとなった。 終戦…日本が無条件降伏を受け入れたのだ。 軍事目的の秘密基地だったことが災いし、島の存在は極少数の者にしか知られていなかった。 だから、終戦後、平和的な開発が検討されることもなかった。 時が経ち関係者の記憶から忘れ去られたこの島は、いつまでもひっそりと波間に浮かび続けているはずだった。 ところが、最近になり、この島に動きがあった。 宇宙貴族バンテット公爵とその一味が再開発を開始したのだ。 旧日本軍の施設は近代的な設備に改造され、名前も「鬼ヶ島」と名付けられた。 クライアントである夜盗鬼族との間に、日本征服のアジトを提供する契約が締結されたからだ。 しかも島の開発提供は契約の主ではなくオプションの一つである。 契約の根幹は、なんといってもティアラヒロイン捕獲の全面的な相互協力にある。 日本征服を企む鬼族にとって、ティアラヒロインは「目の上のこぶ」であると同時に、大金を投じても性奴隷として飼い慣らしたい存在だ。 一方、先に制定された性奴隷規制法案を潰すため、バンテットには何としてでも上玉の性奴隷売買実績が必要だ。 この依頼はまさに渡りに船。島の開発をオマケにするくらいなんでもないことなのだ。 とにかくも邪悪で強力なパートナーシップが成立した。 夜盗鬼族とバンテット一味。両者の目的は、ティアラヒロイン三人娘の肉体をもって完全に一致したのだ。 もちろんそのことを、いや、そればかりか島の存在すら、当のティアラヒロイン達は知る由も無い。 ************************************************* 「紅子先生、今日も調べ物ですか? 大変ですねぇ、ただ、申し訳無いのですが、もう閉館の時間なので… もし、よろしければお貸ししますので、手続きをお願い致します」  誠望女子大学図書館で資料集めをしていた萩原紅子は、既に午後七時を廻っていることに気が付いた。 ご存知のように紅子の本当の姿は、銀河連邦特別潜入調査官、紅天使フォルティアである。 「あっ、すいません!こんな時間まで…それでは、この資料お借りします。」  職員に挨拶を済ませ、研究室に戻ろうと外に出ると、大学構内は穏かな夕闇に包まれていた。  誠望女子大の講師である紅子は、叔母の萩原教授が体調不良の為、代理として専攻である宇宙物理学の講義を代行することになっていた。 宇宙から来た紅子には地球のデータ−ベースが脳内書き込みされている。 大学の講義などフォルティアとしての知識と相殺すればいいのだから、簡単なことに思われるのだが…これが案外難しい。 それというのも、銀河連邦では当然のことが、地球では未だに諸説入り乱れる理論の段階なのだ。 (データベースは知識の差まで考慮されていない) 紅子の講義が少しでも先走りすると、誰もついて来れないばかりでなく、世紀の新理論となり大変なことになってしまう。  本末転倒なのだが、どこまで教えていいものなのか…を調べるために、講師紅子の図書館通いが始まっていたのだ。 「ふう、このままでは困っちゃうな。来週の講義のテーマは『理論物理学とその実現について』だけど、 相対性理論を実証しちゃったら、マズイしなぁ〜。大体、銀河連邦ではワープ移動が主流になっていているくらいだから、 全部、実現しているのよね…誰か人間で実験した人いないのかな〜? いるわけないわよね…ふう!」  何度もため息をつきながら、紅子は持ち帰った資料の内、理論物理の変遷について書かれた本を独り研究室でめくっていた。 「人間は核分裂を使って原子爆弾を作ったんだ…。あらっ、このページ…ワープの実験の記録じゃないかしら?  何々、『フィラデルフィア・エクスペリメント』…ふ〜ん、これなんかいい線行ってるじゃない。人間も結構頑張っているわね。 でも全部戦争が絡んでる…これが問題なのよね」 いつの時代でも人間の場合、科学技術の進歩は軍事的要素が絡むときには飛躍的に進む。これも人間の征服欲が旺盛だからなのかもしれない。 「なるほど…戦争のことを調べれば、講義で使えそうなネタが沢山ありそうね? でも、こんなに戦争の回数が多いと…キリがないわ。 どこか資料分析してくれそうな会社に頼もうかしら? ネットで検索して見ましょう」 画面を検索すると幾つかの会社リンクが出てきた。 リンクの初めに「アクノ企画&風下探偵事務所」が掲載されている。情報収集、資料分析、調査をしてくれるようで、費用も手頃だ。 「へぇ〜、『風下探偵事務所』か…。探偵なのにこんなこともやってくれるのね。こんな時間だけど、だいじょうぶかな?」  紅子が早速、電話をしてみると、何回かのコールの後、声に透明感のある女性が電話に出た。 「はい、アクノ企画でございます」 「もしもし、誠望女子大学研究室の萩原と申します。そちらで資料の分析や調査をやって頂けるとHPで拝見したもので…」 「はい、お電話ありがとうございます! 分析や調査でしたら、大抵のご要望にはお答え出来ると思うけれど…どんなことでしょう?」 「物理学の講義に使う資料を作成して頂きたいのですが…と言っても専門的な知識は必要ありません。 文献や記録で、戦争のことを調べてもらいたいのです」 「なるほど、それなら私共でも出来そうね。判りました、お邪魔した上で詳しくお話を伺います。明日の予定は如何ですか?」 「明日でしたら何時でも構いません。場所は、誠望女子大目白キャンパス・理工学部研究棟201号室ですが、お判りになりますか?」 「美人の多い目白キャンパスは有名だから…研究棟201号室ですね。それでは、午後1時に私、鈴谷聖美がお伺いしますので、 よろしくお願い致します」 「楽しみにお待ちしております。それでは失礼致します」 受話器を置いた紅子は明日がとても待ち遠しくなった。 電話の聖美の声になぜか親近感と同種の正義感を感じたのだ。 一体、聖美は何者でどんな素敵な女性なのだろう? *************************************************  鈴谷・聖美…正体は聖天使ミレイヤである。ミレイヤは全てが華やかで美しい。 モデルのような端整な顔立ちは全ての女性のあこがれであり、レースクイーンを彷彿させるプロポーションは全ての男性の視線を惹きつける。 万人受けするルックスと非の打ちどころのない肉体を惜しげもなく見せつける大胆さ。これがミレイヤの魅力である。 だが、聖美のファッションは比較的カジュアルなものが多い。 雑誌編集という仕事柄であるのと同時に、ミレイヤの持つきらめくような美しさや大胆さをカモフラージュする必要があるからだ。 ティアラヒロインは変身しても顔そのものが入れ替わるわけではない。雰囲気や周囲に与えるイメージが180度、違うだけだ。 これは同じ女優であっても、配役が風俗嬢の時と女医の時では、化粧、髪型、台詞回しによって、視聴者に全く別の印象を 与えるのとよく似ている。 今日のいでたちもコートを除けばジーンズにスウエットパーカーのラフなもの。 (少し地味過ぎるかな…) 聖美は誠望大学研究室のドアをノックしながら、紅子が自分のファッションをどう感じるのか少し不安になっていた。 「失礼します。萩原さんですか? はじめまして、アクノ企画の鈴谷聖美です…」 紅子に会った途端、聖美は初対面であるにもかかわらず、緊張がほぐれ、とても気持ちが軽くなった。 それは紅子の笑顔に癒されたこともあるが、ファッションが意外だったからでもある。 萩原紅子、名前そのままの真紅のスーツ。それも超セクシーなタイトミニスカートを履いているのだ。 そもそも鮮やかな真紅は繁華街の雑踏であっても目立つくらいに刺激的な色だから、研究室と云う地味な場所にはまるで似つかわしくない。 それに幾ら女子大だからといってスカートの丈がこれほど短かいのは考え物だろう。 だが、真紅のミニが、紅子に似合わないかと云うと、決してそういうことでもない。 紅子は表情こそ「知的なお嬢様」ではあるが、肉体は「すがりついて眠りたくなる」ほど癒し系ナイスバディの持ち主。 つまりイメージではなく、スタイルに合わせたファッションを選ぶのであれば、紅子の選択は間違っていない。 ちょっとでも胸を張れば、ブラウスのボタンが簡単に弾け飛びそうなほど豊満なバスト。 タイトスカートにぴったりとフィットした肉付きの良いヒップライン。スレスレのミニから伸びるムッチリとした弾力のありそうな太もも。 細くくびれたウエストとキュッと締まった足首…全体的に紅子は癒しの香りをムンムンと発している。 その上真紅のタイトミニとなると、絵になり過ぎていて、女子大でなければ出入り禁止になってしまうほどセクシーだ。  研究室という地味な場所に勤める知的なお嬢様。そんな立場を全てを意識した上で、 紅子はあえて対極にある真紅のタイトミニを選んでいる…のだと聖美はふと気付いた。 何かとてつもない秘密(例えば正体が地球人ではないこと)をわざとらしく隠しているように感じられたのだ。 (この人は一体何者?見掛けは育ちの良さそうなお嬢様…でも、明らかに人間とは違う。高度な知能と高潔な意志、 それに癒される笑顔と正義のオーラ…)  そんなことを考えていた聖美に、紅子が挨拶を返した。 挑発しているかのような真紅の口紅を除けば、紅子は「知的なお嬢様」だ。言葉使いも丁寧で品がある。 「こちらこそ、よろしくお願いします。私が萩原紅子です。初めてお会いするのに、うれしくて胸が弾んでしまう…そんな気分です。」 「ええ、私も同じです。ひょっとすると、萩原さんは宇宙から…いえ、初めにお仕事の話をしてしまいましょう」 「うふっ、そうですね! そのお話をすると何時間あっても足りなさそうですもの…」  紅子は納得したように頷くと、依頼内容を話し始めた。 「さて、ご覧の通り私は大学の講師をしているのですが、新人なもので学生のレベルが判りません。 講義の際にピントがずれるといけないので、講義の資料編集と要約をして頂きたいのです」 「私達は情報誌も発刊していますので、要約ならば出来ると思います。ただ、内容は物理学ですよね?  どのような資料を作れば良いのでしょうか?」 「今回のテーマは『理論物理学とその実現について』です。これを判りやすく説明したいと考えております。 戦争の歴史を調べて頂くのが基本になるのですが・・・」 「理論物理学の実現・・・つまり核分裂理論によって原爆を作ったとか・・・そういうことですか?」 「そうです。その製法や方法は専門なので必要ありません。ですが、背景や目的、製作者がどのような気持ちで作ったのか・・・ それらを説明出来るようにまとめて頂きたいのです。」 「判りました、それは面白そうな仕事ですね。それで、調べるポイントになるような兵器や技術はあるのですか?」 「そうですね・・・やっぱり原子爆弾。もう一つはフィラデルフィア・エクスペリメント。 後、何かもう一つ、物理学と関係ありそうな話があるといいのですが?」 「判りました、やはり第二次世界大戦…それなら最後の一つは何か私達で見つけてご提案致します。」     紅子と聖美、二人の打ち合わせはスムーズに進み、後は後日報告ということになった。そして、聖美は帰り際、紅子に挨拶をした。 「それでは2〜3日中に経過をご連絡します。ところで萩原・・・いえっ、紅子さんはもしかしてティアラを…」 「えっ(プルルル・プルルル!)あっ、はい、誠望女子宇宙物理学研究室です。はい、萩原です…あっ、やっぱり…でも大丈夫…」  聖美が本題?に入ろうとしたとき、研究室の電話が鳴った。紅子への急用のようだ。 「あらっ、残念! それではこの話はまた後日に・・・。それでは失礼します。」  ドアを出て行く聖美に、紅子は受話器を片手に軽く会釈をした。  事務所に戻った聖美だったが、あいにく風下は外出しており、そのまま直帰するとのメモが残されていた。 「まったく、こっちは仕事だと言うのに…どうせまた飲み会なんだから…」  文句を云ったものの、いつものことだから半分覚悟の上である。気持ちを切り替えた聖美は、早速、依頼内容を整理することにした。 (紅子さんの依頼だし…頑張らないと。もう一つ興味深い秘話を見つけてあげられるといいわね。 それも、せっかくだから、日本の話で何か無いかしら?) 紅子から借りた資料や文献のタイトルを確認すると、「日本本土決戦」というノンフィクションがある。 興味をを感じた聖美は一通り読んでみることにした。  この本によると、第二次世界大戦末期、追い詰められた日本は、知恵の限りを絞り、幾つかの逆転勝利劇を考えていた。 実際、当時の日本の物理学水準は世界の中でも非常に高いレベルにあったので、原子爆弾の開発や長距離ミサイル計画も可能なはずで、 秘話として存在している。ただ実現出来るほど、環境や資金に余裕があったわけではないから、どこまで信憑性があるのかは妖しい。 (う〜ん。やっぱり、日本人ではネタとして無理があるのかしら? あら、これは…何?)  聖美が見つけたページは、別の意味で妙に引っ掛かった。 「本土防衛要綱○号作戦…東京湾迎撃の際、東京新火山島に防衛地点を作り奇襲攻撃を行う。 東京新火山島を透明化し、東京湾に集結する米軍を暫時殲滅していく作戦だったが、基地化が間に合わず計画は断念… (中略)…東京新火山島は完全に消滅、その後二度と姿を見ることが出来ない」 (ふ〜ん。東京新火山島の透明化なんて面白そうだけど…もっと気になるのが完全に消滅したという事実だわ。 原因は時空の歪みではないかしら?)  本来なら携わった関係者に訊けば良いのだが、年代からいってほとんどが故人または相当の高齢者になっているはずで、 情報収拾の方法として現実的ではない。もちろん島の所在地は現在の地図に記載されていない…。 これでは自力で調査するしかない。 「よ〜し、調べてみよう! ティアラアップ! チェンジ…ミレイヤ!」  聖美はミレイヤに変身し、空から島を探してみる事にした。 地図に記載は無いものの、島の所在は東京湾の沖合いに特定されている。ミレイヤの視力なら、ある程度の高度に上がれば、 東京湾を見渡せる。もし時空の歪みがあれば、感じることも出来るのだ。  ミレイヤは徐々に高度を上げた。東京の夜景が美しい。 「こんなに船がたくさんいるのに、誰も知らない島があるなんて不思議な話…。ただ、なぜか嫌な予感がするわ。 私の探している島は、まさか…」 東京湾沖へしばらく飛行してみると、海に何かを感じる。 眼を凝らしてみると、その部分には時空の歪み特有の靄がかかっている。 「あっ、やはり…時空の歪みだわ。島は残ってる。時空の狭間に…」 ミレイヤは緩やかに降下すると、靄に突入した。 靄を突き抜け、島を上空から見ると、各種の施設が点在し、しかも灯りまで点いている。 かなり多くの住人がおり秘密基地の様相を呈していた。 なにより邪悪な雰囲気が漂っている…どうやら、嫌な予感が当りそうだ。  ミレイヤは注意をしながら、島の中央部にある広場に着陸した。少し離れた場所に三階建ての近代的な建物がある。 「これはここ何年かの内に建てられたものね。とても戦時中の造りではないわ。」  ミレイヤは窓に近づくとそっと中を伺った。 3人の黒い服を着た男達と、何と青鬼と二人の邪鬼の姿が見える。 「あれは青鬼と邪鬼! 嫌な予感が当たったわ! ここが鬼ヶ島…鬼族のアジトだったのね! でも、青鬼達は何をしているのかしら?  それにあの黒い服を着た男達…ああっ、思い出した! あれは奴隷商人バンテットの手下達だわ!」  こうなると会話の中身に興味がわく。ミレイヤは精神を集中し耳を澄ませた。 『ほほう、これが強壮エネルギー薬…。バイアグラよりも数倍の効果があるそうだな、タイラント男爵!』 青鬼が確認するように、一際大柄な黒服に話しかけている。 タイラント男爵といわれた男は初顔だが、一見してバンテット一味の高級幹部と判る。同じ黒でも他の下っ端黒服とは仕様も生地も違う 明らかな高級品を着ているからだ。 ただ、お世辞にもその高級素材が似合っているとは言えない。 2メートルを超える長身ながら、横幅もまるで相撲取りのようにでっぷりとしている。しかも汗かきらしく、汗で肌が脂ぎっている。 顔は悪人面、しかもイケてはいない…いわゆるキモメンだ。 高級幹部に成り上がったものの、育ちの悪さは否めない。不快なほど暑苦しいくらいの巨体と、悪人らしい面構えは、せっかくの高級素材を 安っぽく見せてしまっている。 『夜盗鬼族より提供頂いたフォルティアのエネルギー分析の賜物だと、発明・化学担当のアンヴァン子爵が申しておりましたぞ!  ぐふふっ、これを生かす為には、早くティアラヒロインを捕獲しないとなりませんな、青鬼殿! そのときこそ、このタイラントの 怪力の見せ所…』 『おっと、余りティアラヒロインを甘く見ない方が良いぞ、タイラント男爵! もっとも、我等も加勢するから勝負の行方は明らかだが…。 ふっふっふ、勝利の暁のお楽しみは想像以上…。その意味でもティアラヒロインを甘く見ない方が良いがな!』  青鬼達は熱心に会話を続けている。新薬を前にあらぬ妄想に耽っているようだ。  「強壮エネルギー薬? どうやらまた悪巧みのようね! よ〜し、此処で会うのも何かの縁…折角だから、懲らしめてあげましょう! トイヤ!」 (バリン!)  窓を突き破り突入したミレイヤに、全員、度肝を抜かれた様子だ。特に青鬼をはじめとする邪鬼達はパニックに陥っている。 「げげっ、ミレイヤだぁ〜!」 「まさか…ここは鬼ヶ島だぞ…」 「非常ベルだあっ!」 奇襲のアドバンテージは先制攻撃にある。ミレイヤはすぐさま攻撃を開始した。 「そうはさせないわよ。トイヤ! ハアッ!」 「ぐはあっ!」 「うげっ!」 ミレイヤはハイキックを繰り出し邪鬼達を反対側の壁に叩きつけると、返す刀で青鬼のボディにパンチをお見舞いした。 「ミレイヤ・パア〜ンチッ!」 「うっぐうう〜!」  青鬼は腹を押さえながらうずくまると、額に脂汗を滲ませた。ジャストミートだ。 「何、ミレイヤだと! 掛かれっ、黒服! 鬼族に加勢するのだ!」 あっけに取られていたタイラントと二人の黒服がミレイヤに襲い掛かって来た。 「うふふっ、次は黒服ね! いいわよ、来なさい! ミレイヤ・ダブルラリアートッ! はあっ!」 ミレイヤは一旦、体を前屈みにするとそのまま二人の黒服の首に腕を叩き込んだ。 黒服達を立ったまま瞬殺、そしてそのままの勢いで両足を思い切りスイングさせた。 「ミレイヤ・ダブルキイィークッ! トイヤッ!」 風圧でミニスカがまくれ上がり、純白のパンティーがモロ見えになる。 同時に鈍い音が響き、顎を蹴り上げられたタイラント男爵が吹っ飛んでいった。 “ズッガーン!” タイラントの巨体が轟音とともに壁を打ち抜いた。出会い頭の出来事とはいえ、ミレイヤのスーパーパワーは怪力自慢のタイラントを 隣室まで蹴り飛ばしたのだ。 ミレイヤは邪鬼達の角を次々にへし折り失神させると、まだ苦しんでいる青鬼の右腕を締め上げ角を鷲掴みにした。 「さあ、おとなしくしなさい。さもないと…邪鬼達みたいに角を折っちゃうわよ!」 「ぐわあ〜! 判った! 止めてくれ…なんでもいうことを聞く…」 「うふっ、物分りがいいわね♪ それでは色々教えてもらわないとね…まずは新薬って何? 強壮エネルギー薬って、どんな薬なの?」 「知らん!(ギリギリ)ぎゃあ〜!判った…腕が折れるっ! 話すから止めてくれ…ここは商談室だ。 今まで盗んで来たものとティアラヒロインを倒す為の新兵器を取引している。薬は…バンテッド一味が開発した新兵器だ!」 「ふ〜ん、それなら私達はこれから薬に注意しないといけないわね! ところで、今まで盗んだものがあるなら… そう『王位継承の証』もここにあるの?」 「そっ、それは隣の部屋…倉庫にあるはずだ。ただ…行かない方が…身の為だぞ」 「そう、ご心配ありがとう! でも、貴方が人質になっているから、大丈夫よ…青鬼! 折角、鬼ヶ島まで来たのだから、 記念に『王位継承の証』くらいお土産にしないとね…きっと、ラスキアも喜んでくれるでしょう!  さあ、隣の部屋へ行くわよ。案内して!」 「くっ…しっ、仕方がない…」 完璧な奇襲攻撃により青鬼を捕えたミレイヤ。 完全な勝利に酔い痴れた瞬間だった。 ただ、今はまだ序章。それもさわりの部分でしかない。 この物語はこの後、三人娘全員を巻き込み、長く続けられていくことになる。 この時点ではミレイヤはおろかラスキアもフォルティアも、想像すら出来なかったに違いない。 自分達に辛く厳しく余りにも恥ずかしい未来が待っていようなどとは…。 ***つづく