平成13年2月7日・初版

バットガール最大の危機・第1章/A(S)・著

第一話。バットガール登場  暗闇。郊外のモール。自動車のヘッドライトがモールに聳え立つ時計の鏡面にあらわれ、 スーッと消えた。ささやく声。再び自動車が行過ぎると、暗闇に潜む者たちの姿を順繰りに照らして光は 消えた。ひょろ長い男二人、大男一人、小男一人。  「まだ、車も結構走ってやがるな」と小男。目を細めつつ、真向かいのファミレスの灯りを眺めて 言った。その店のカウンターの背中の掲示板には、おそらく彼の写真の載ったポスターが貼ってある はずだ――彼はこのゴッサムシティーでは知らぬもののない有名人なのだ。強姦、強盗、殺人。 欲しいものを手にするためなら手段は選ばない。そしてこれが大事なことだが、心も痛まなかった。  「そうだな、大丈夫か?」と大男。ジョージと呼ばれている彼は、長年小男の連れ合いとして、 様々な悪事に手を染めてきた。彼もまた死を恐れない男であった。世が世ならば英雄となれたであろうが、 今はシティーの悪魔と呼ばれていた。  背のひょろ長い男たちは、なにやら不安げにあたりを見回している。人生をいくら誠実に振り返って みても、自分たちが今ここにいることになっている因果がはっきりしない。分かっているのは、 もう引き返せないし、今日にいたるずっと以前からも、引き返すすべなどなかったろうということで あった。そして、これは彼等の知るところではなかったが、予定では明日の朝を迎えるより先に小男に 命じられたジョージによって死ぬことになっている。  小男は無言でモールを奥へと進み、巨大なデパートの裏手へ回った。そして静かに頭を上げた。 夜の闇の中で、遥かの屋上のサーチライトのみが活発に動いている。夜の闇を押しのけようとするかの ような振る舞いは逆に夜を迎え入れることになる――警句めいた閃きに男はにやりとした。 それからひょろ長い男のうちの一方に、カギを開けるよう合図した。  ひょろ長い男のもう一人は自動車担当であり、逃亡用の自動車を用意する仕事であった。 カギ係の男が小男に振り向くと、扉はゆっくりと内側へ開いた。ジョージが先ず入る。  目指すのは三階。シティー随一のデパート。その月の売上が仕舞い込まれる金庫。見張りはすべて殺す。 但し、警備が女性だったら――滅多に無いことだけれども、男は優しさを見せなければならない。 強姦してから殺そう。残念なことだったが、二階の踊り場で出会った警備員は男であった。 彼は四人の賊を前に呆然としている。右手の懐中電灯は二度宙を照らした。ジョージがピストルを構えた。  「待ちなさい!」  暗闇の上のほうから声が響く。ジョージはピストルを声のほうに向ける。だが、深夜のデパートのこと、 声の主の居場所はわからない。小男は警備員を突き飛ばし懐中電灯を奪うと、めくら滅法に上を照らした。  二階から、デパートは吹き抜けになっているのだが、その天井のガラス屋根の窓が開かれたままに なっている。ライトを少し下げる。声の主は片手で屋根の淵につかまってぶら下っている。  小男は息を呑んだ。おそろしくタイトな生地で身を包み、ライトが足元を照らすと、高いヒール底の 黒いブーツがひざのところまで来ていて妖しく光っているのが分かる。少しずつライトをあげてゆく。 それからスパンデクス地の紫紺の生地が腿を包み、交差したすらりと長い脚を光沢が彩る。 そして、股を照らすと、あまりの生地のタイトさに女性器の切れ目の跡が、影となり光沢となって、 男たちの想像を掻き立てた。ベルトはきちんと締め上げてなく、端が金具からピンッと伸びている。 彼女のファッションのようだ。腹部は鍛えげたのだろう。女性らしい丸みを残しつつ、腹筋の活動が スパンデックスの光沢の様子で窺えた。そしてそこから余りに急に隆起して、胸の頂点で生地は今にも 張り裂けそうであり、光沢は腕のほうへと伸びている。コスチュームの首周りから胸のふくらみが 覗いているほどであった。  腕一本で全身を支えているのだ。その腕をライトは伝う。肩のあたりから盛り上がる筋肉の緊張と 躍動とが紫紺のスパンデクス地の上の光沢の動きから読み取ることが出来た。肘から先は真紅の グローブが指先までを覆っている。実にタイトである。  顔を照らそうとして、光を向けると、一瞬にして女は消えた。慌ててライトを下へと動かす。 すると、女が約10メートルの距離を飛び降りている様子が見えた。真紅のマントが身体のラインを 隠している。そして、しなやかに着地すると、倒れている警備員を庇うようにその真紅のマントの背後に 隠し、キッと男たちを見つめた。真紅のマスクが目元を隠している。しかし、真紅に塗られながら 上品な口元といい、高い睫毛の印象的な目つきといい、高い鼻筋といい、やや出っぱった頬といい、 一流モデル並みの素顔であろうことは容易に推測できた。改めて小男は全身をライトで照らし、 その全身が光沢で輝き、身体の線を浮き彫りにするにつれて、長身であまりにセクシーで均整の取れた 体つきに、彼らしくも無く冷静さを失いかけた。  ジョージは銃身を向けるのを忘れ、高いヒールと膝元まで有る黒いブーツの光沢に心を奪われていた。 ブーツは足首のところでとてつもなく細くなるが、どうしてこの長身でセクシーな女の全身をそれが 支えられるのか不思議でならなかった。背のひょろ長い二人に至っては、完全に戦意を喪失し、 今にもその女性のの女王然とした風格に靡くようにも思われた。確かに、この風貌はとてつもなく セクシーであると同時に、SMクイーンのような背徳の淫靡さもあり、男たちの隠れたマゾ欲望を 掻き立てないでもなかった――だが、小男は生まれて初めて、この女を物にしたいという純然たる欲望を 滾らせた。そして、その挑発するかのような身体のラインを自分の思うが侭にするべく、様々な攻め手を 思い浮かべずにはいられなかった。  女はすばやく動くと、ジョージの手にチョップを加え、ピストルを叩き落とした。慌てて拾おうとする 大男が頭を下げたところへ、黒のブーツはすばやく宙を舞い、踵落しを脳天に決めた。  「うぐう」。男はひざから崩れ落ち動けなくなった。  小男はすばやく女に反応したが、次の言葉を口にするのが精一杯だった。  「貴様、何者だ!まさか……バット」  「あら、ご存知でいただけたの? 光栄だわ。ゴッサムシティー一の大悪党、ボビーさん」  そこで女は真紅のグローブに包まれた両手をタイトなベルトでくびれた腰にやり、はちきれそうな胸を 張った。スーツの光沢が胸を強調した。  「そう、わたしはバットガール。ゴッサムシティーの正義と平和を守ろうなんて大げさなつもりは ないけれど、あなたみたいな非道は許して置けない」 トウッと声をあげると、そのままバットガールはひょろ長い二人のところへ飛び、続けざまにキックと チョップを食らわせる。男たちは太ももの紫紺のタイトなスーツの動きを目で追ってるうちに、 気持ちよく気絶した。バットガールはすぐさま小男ボビーの方に向く。  「くくくく。」 ボビーは不敵に笑った。「久しぶりに燃えてきたぜ、バットガールさんよ。 あんたのその身体、そりゃ今日手にするつもりだったはした金とは比べ物にならねえお宝だ。 どうしてくれようか、楽しみで仕方ネエぜ」 「あら、私をモノにしたかったら、私を倒さないとね。あなたにそれが出来るとも思えないけれど?」 というと、バットガールはしかし、目元を引き締めやや前傾姿勢のファイティングポーズをとった。 「美しいものを傷つけるのは性にあわねえが、後でかわいがってやるよ。いろいろなやり方でな。くくく」  笑いつつ、小男はすばやく間合いを縮め、バットガールに蹴りを入れる。バットガールが蹴りに ややよろめくのを見て、ボビーは拳銃を手にとり、いきなり数発発砲した。  「くくく、なーんてな。貴様の手に罹ってムショでくせえメシ食ってる仲間も沢山いるんだよ! 貴様の正義面には心底むかつくが、ゆっくり可愛がっているヒマもなくてな。ケケケ。 貴様の死に顔を思い浮かべながらマスでもこくほうを選ぶよ」白煙がゆっくりと晴れて、倒れている バットガールに近づく。背を向け、うずくまるバットガールの尻の食い込みとその輪郭に沿って 輝くスーツの光沢を見るに付け、惜しいことをしたなという気持ちが過ぎった。バットガールの横腹を 思いっきり蹴ってやる。  「グフッ」  バットガールは咳き込みながらアスファルトを転がっていった食い込む尻と、やや盛り上がる股が 交互にあらわれながら転がっていた。やがて、背を向けて止まった。小男は拳銃を尻の食い込みに沿って 走らせた。  「うッ、はあッ」  紫紺のスパンデクスが弾性に沿って沈む込む。それに併せて、スーパーヒロインの背中がゆっくりと 苦しそうに蠢いた。今気づいたが、ヒロインのマントの下の背中は殆ど、尻の少し上までくる切れ込みに なっており、その白磁のような背中が苦しげな息遣いに併せて動くさまはこの上無くエロティックである。 小男は殆ど絶頂にも近い興奮を味わった。苦しむ顔を見てやろうと、また脚で横腹を軽く蹴った。 ゆっくりと回るバットガール……だが、その瞬間信じられない速度で立ち上がると、ボビーから拳銃を 叩き落とした。拾おうとするところへ、バットガールは思い切り拳銃を蹴ると、くるくる回りながら デパートの売り場の棚の下へと隠れてしまった。  「ファック」  「フフフ、どうだったかしらバットガールの演技力は? オスカーものでしょ?」バットガールは 再び、真紅のグローブに包まれた腕をくびれた腰にやり、ポーズを付けた。少しはみ出したベルトの先が 誇らしげに輝いている。撃たれた様子は少しも無い。バットガールはゆっくりとボビーに近づいた。  「畜生、畜生、畜生」ボビーはじりじりと後退する。階段の端まで来て、ボビーはナイフを取り 出そうとポケットに手を入れたその瞬間、バットガールが舞い上がり、そのセクシーな肢体は真紅の サテン地のマントの下に隠れた。次の瞬間そこから、長い足が飛び出してボビーのあごを砕いた。  「ぐげえ」  ボビーはひざまづき、あごを抱えてのた打ち回った。  「ゲームセットってところかしらね」バットガールが近づく。  「ごめんなさいね。警察がくるまで眠っててちょうだい」バットガールはパンチをみぞおちに下そうと した……その瞬間のことである。  「うッ!!」とうめくと、スーパーヒロインはゆっくりと、ひざまづいた。頭に鈍い衝撃が走り、 視界が朦朧とする。マスクを抑えながら、ゆっくりと振り返ると、倒したはずのジョージがバットガールに 銃口を向けて立っている。  「うッ、あなた倒したと思……った……の……に」 今にも失いそうな意識を辛うじて 踏みとどまりつつ、ぼんやりとした視線が大男を捉える。しきりに頭をグラインドさせる寄る辺ない バットガールの動きと、そのスーツの光沢の動きにたまらないセクシーさを感じながらジョージは、 しかし、容赦なくスーパーヒロインの腹部に蹴りを入れた。このとき、ジョージは仕事用の圧底で、 金属の敷いてあるブーツを装着していた。常人ならその蹴りで内臓破裂していてもおかしくない蹴りで あった。  「ッぐあッ……うッ」バットガールはすさまじい勢いで後ろざまに吹き飛ばされ、そのまま数フィート 転がっていった。  「ん、はあはあはあ」それでもスーパーヒロインは荒い息遣いで、タイトなスパンデクス地のスーツに 包まれた腹部を真紅のグローブでさすりながら、四つんばいになりながら、少しずつ立とうとしていた。 ジョージからは百戦錬磨のスーパーヒロインがスーツで食い込んだ尻を左右に揺さぶりながら、肩で息を しているさまが見えた。  「はあ、はあ……やるわね、はあはあ、巨人さん。でもね、はあ……はあ、正義の味方は……悪に 負けちゃうわけには……はあはあ……いかないのよ……うッ」  言い終わるより先にジョージは四つんばいの脚の間から股を思いっきり蹴った。  「ああアアア!!!」  息も出来ない激痛がバットガールを襲った。やや盛り上がる股間を薄いスーツの上から抑えながら、 バットガールはごろごろとのた打ち回った。  (ああ、ダメ。意識がふっとんじゃいそう……うッ)  ゆっくりと、苦しむバットガールの近くへと歩を進めつつ、ジョージは銃口をバットガールの頬に めり込ませる。  「ん!……うぐぅッ」その白皙の顔は苦痛にゆがんだ。眼は殆ど閉じており、唇の端からは透明な 唾液が線を引いてアスファルトに濃い色を残した。  ジョージは拳銃とは逆の手で、その可憐なスーパーヒロインのたわわな胸をスーツの上から もみしだいた。恰も、この日を待っていたかのように、ぎりぎりのスパンデクススーツによって 拘束されて、形もやや押しつぶされていた胸は、悪人の手の内でまろやかに溶けた。  「ん!……やめ、やめな……さい……ハアハア」 相変わらず荒い息遣いのバットガールだが、 その声にはいつもの張りがなく、抵抗する力も残っていないようであった。  (ああ、正義のスーパーヒロインが悪の手に屈しているのね……)そう思うと、バットガールは変に 胸がうずくのを感じた。こんな粗野な乱暴者の愛撫など感じるべくも無かったが、限りなくセクシーに 着飾ったスーパーヒロインが悪の手に落ちてしまった……というシチュエーションに、バットガールは 倒錯した快感を覚えずにはいられなかった。  「私は……正義の……味方な……のよ?……ハアハア」  意味の無いセリフが彼女の身体の感度を増した。だが、同時に彼女の使命をも思い起こさせた。  「うんん……ダメ……よ……そうはさせ……ない……から……ハア」  バットガールは瞬間的に長い脚でジョージの首を挟み込み、恐るべき腹筋の力で大男の巨体を 持ち上げて、ひねり、頭からコンクリへと打ち付けた。  ぐわぁあああああんん!  一際大きな音を上げると、男はそのまま頭で立ち、数秒硬直していたが、やがてゆっくりと落ちた。 バットガールはバットベルトからスタンガンを取り出し、その首筋へ電流を流した。  「うぎゃぎゃぎゃぎああああああ!」  「ごめんなさいね。またあなたと闘うハメになったらなんだか疲れそうだしね☆」 それからくるりと腰を抜かしていた警備員に向き直り、 「すいませんけど、警察を呼んでくださいません?」と言った。  警備員室では黒尽くめの光沢を施したボディー・スーツを着た女が、その長い爪を舐めながら、 モニターからその可憐でセクシーなスーパーヒロインの戦いぶりを満足そうに眺めていた。  「くくくく。セクシーだわ。バットガール。その自慢げな顔つきも、苦痛にゆがんだ顔も、そして、 快楽に喘ぐ顔も。ふふふふ、あなたはやがて私のものになるハズ。わたしの提供する快楽の中で 死ぬまでよがり苦しめば良いわ、正義の味方さん。ニャーオ」 ***つづく