平成13年2月23日・初版

バットガール最大の危機・第3章/A(S)・著

第三話 ノーラ=クラヴィンス来襲(前編)  雪の季節。ゴッサムシティーは連続宝石店襲撃事件の話題で持ちきりであった。犯行は綿密周到、 一軒1分30秒以内にすべての宝石をかき集め、レスポンスタイムより先に逃走する。 防犯カメラに映る姿はいずれも決定的なものではなく、犯行グループはどうやらカメラの位置を完全に 把握しているらしいという周到ぶりであった。  もう一つのニュース。それはゴッサム市立刑務所から、服役囚が一人脱走したらしいとのこと。 途中、18人の警備兵を殺害して逃げたその服役囚の名は、ノーラ=クラヴィンスといった。 過激派フェミニストの極北、美貌のテロリストとして一年前逮捕時には大騒ぎされた、彼女である。  二件にはつながりがあるのでは? バットコンピュータで弾き出した結論はそれだった。宝石強盗の 始まった時期と、脱走の符号。その手口の類似性……そしてバットガールには、あるヒロインサイトの 小説に描かれた不気味な署名が頭から離れなかった。……ノーラは私=バットガールを狙っている。 そしてそのためならいかなる手段も辞さない腹つもりで有るらしいことも予測がついた。 毎夜のパトロールで捕まえるのはチンケな痴漢だとか、泥棒だとかに過ぎなかったが、近いうちに ノーラとの全面対決が待っていることをバットガールは覚悟していた……そしてそれにバットガールが 敗北したら、彼女はノーラの手の内で、地獄の責め苦を味わうであろうことも。その想像は恐怖を バットガールに感じさせると同時に、言葉にはし難い胸の高揚をももたらした。パトロールに出る前に タイトなボディースーツを装着するときも、股間の切れ込みをグローブの上から優しく愛撫しながら、 もしノーラに敗れたら、恐るべき責め苦のうちで味あわされるであろう倒錯した快楽と、その下で 悶え苦しむバットガール自身の姿を思い描いてうっとりとしてしまうこともしばしばであった。 だが、彼女は正義の味方として、負けるわけにはいかないことも同時に強く感じていた。  2月14日、再び酷い雪の日。ゴッサムシティーの全交通手段は麻痺していた。鉄道は雪の中に 立ち往生し、車は道路の途中に乗り捨てられていた。人々は地下鉄を乗り継いで辛うじて帰るか、 会社近くのホテルに寝泊りするかして白い夜をしのいだ。街には人の姿がなく、たびたび断続的に 断線して、街のあちらこちらで電気がついては消え、消えてはついた。  バットガールは雪の中にいた。自分でも愚かしいとは思ったが、かの強盗団のことを考えると、 今日のような日こそ千載一遇のチャンスとして襲撃を計画しているのではないかと思われたのだ。 そしてバットガールには標的とされそうな店は想像がついていた。それは連続襲撃事件の発端以来、 一度も狙われたことの無い街一番の宝石店……当局の予想に拠れば、それはこの店の完全な防犯体制の 故だと思われていたが、逆にこんな雪の日にこそ、狙われそうな物件であることは違いない。 バットガールは宝石店の屋根の上で、闇に紛れて賊の襲来を監視していた。  ノーラ=クラヴィンスは準備に余念がなかった。2月14日が大雪であることはずっと以前から予報で 知っていた。それを面白いと思いつつ、その日をバットガールとの再会の日に演出できないかと策を 巡らせた。テロリストの人脈を生かしてちょっとした強盗団を組織し、2月14日のちょうど 一ヶ月前辺りから、宝石店を手当たり次第に襲わせる……ただし、街一番の宝石店だけは注意深く標的から 外しておいた。なぜならそれは、バットガールの推理を誘導して、雪の日の今夜、バットガールと その完璧な肉体とを地獄の罠に落とすために必要な<ランデヴー=ポイント>だからだ。フフフフ。 そのためには、盗賊団たちには少々痛い目に有ってもらう必要があるかもしれない。しかし彼らの服役が 終わった日には、莫大な富を約束しておいた。愚劣な男どもは使うために存在する!!  ノーラはバットガールによって獄中に送られた時から、たったの一夜として、バットガールを想って 自慰をしない日はなかった。憎しみと羨望が未曾有の興奮をバットガールの上に投射し、バットガールの あの肉体を無限の責め手で味わうことを想った。催淫剤を用意し、電極を用意した。手錠を二つ用意し、 クロロフォルムと、スタンガンをテーブルの引き出しにしまいこむと、彼女は部屋の電話の位置をずらして、 真中へ持ってきた。  午後10時30分。政府の除雪車が道路を走っていたかと思うと、そこから黒ずくめの男たち数人 (1、2、3……4人)が宝石店の前で降りた。バットガールは途端に注目した。 なるほど、そういうことね。除雪車を強奪さえすれば、この雪の中誰にも怪しまれず、しかも追跡さえも されず、簡単に逃げおおせることが出来る。このような狡知が思い浮かぶような人間を、バットガールは 二人知っていた。一人は、おそらく今回の首謀者。そしてもう一人は……その女はきっとこの犯人よりも 数倍賢いだろうが、もし彼女が犯人ならば、彼女自身が先頭を切って強奪を指揮しているはずだった。 宝石よりも強奪の過程を愉しむような女なのである……最近沈黙を守っているのが、バットガールには 奇妙に不安に思われた。  案の定、除雪車から出てきた男たちは宝石店の前でごそごそと侵入を試みようとしている。 ジャスト20秒、男たちは苦も無く正面扉を突破して中へと入っていった。 (私の出番のようね?)バットガールは立ち上がり、真紅のマントの雪を払った。 「トーゥッ!!」 掛け声とともに、地上十メートルの屋根から飛び降り、着地する。そのヒロインの姿は いつもと変わらず華麗で、セクシーであったが、今夜は地面が滑りやすいこともあって、底のゴム面の 強化された白いエナメル質のヒール底のブーツを履いていた。その白い光沢はますますバットガールの 脚の細さとたくましさとを強調していた。  「ハーイ、ストップ、ストップ!!そこまでよ、強盗さん」 店に入るなり声をあげ強盗の不意を衝くと、 バットガールは素早く賊のリーダー格を見出そうとした。背の高い男。他の男たちが皆、 何かしら道具なり、袋なりを持っているのに一人だけ手ぶらなのだ。  「畜生! 死にやがれ」 部屋の隅にいた男がいきなり銃口をバットガールへ向けた。バットガールは 素早く察知すると、目の前の太った男の影に隠れた。そして素早いチョップで男を倒し、男の肩を 思いっきり銃を持つ賊の方へ押し倒した。  ズキュウウウウウウンッ!  銃を構えた男は、太った男に押しかかられてバランスを崩し、天井に向けて引き金を引くとそのまま 倒れた。倒れた頭へ、バットガールは踏み込んで白いエナメル質のブーツを振り上げ、踵落しを 食らわせると、呆気なく男は気を失った。ピストルを奪うと、素早く店の奥へと投げる。  「ぐうッ!」 投げたピストルは隅でバットガールに照準を併せていた男の手に激しくぶつかり、 そのピストルを落とした。慌てて拾おうとするところへ、バットガールは超人並の跳躍を見せて、 男の前へ着地しバックハンドで裏拳をその顔面に叩きつけた。男は堪らず失神して、ぐうッとうめくなり 床に倒れこんだ。三人を片付けるのにこの間僅かに五秒。リーダー格の男はただただ、スーパーヒロインの 美技に酔いしれる他なかった……殊に、華麗なジャンプの瞬間にバットガールの全身が伸び上がり、 紫紺のタイトなボディースーツの下の筋肉が光沢を伴って蠢くさま、真紅のマントがその豊満なボディーを 隠しては現れるさま、キックを繰り出す折に生地の食い込んだ尻がゆれるさま……ほんの五秒の間、 背の高いリーダの男は、そのスーパーヒロインの隙のないアクションと身体に魅了されてしまい、 適切な対処をすることが出来なかった。  「はい、チェックメイト」 バットガールは最後の男が落とした拳銃を、呆然とするリーダーの頭の横に 突きつけた。 「どうするつもりだ? 警察に突き出すか? スーパーヒロインさんよ」 「そうしてもいいんだけど、今日は寒い雪の中あなたたちを待ってておかんむりなの。 死んでもらおうかしら?」 「おいおい。正義の味方のバットガール様らしくもネエ発言じゃねーか。出来るのかよ、そんなことがよ」 「別に私は正義の味方のつもりなんかないし。あなたを殺しちゃってもギャングの内紛ってことにすれば、 良いし。なんてったって、あなたたちはシティーの鼻つまみなんだからそっちの方が喜ばれそうだけど……」 「ハハハ、勘弁してくれ。何が目的だ? 金か? ハハまさかな」 「正直に答えて欲しいんだけど……あなた達の黒幕のことが知りたいの」 「ハハ……なんのことだか?」 カチッ。 「おいおい、引き金の音か、今のは!? 本気なのかよ、バットガール」 「……あなた達はバットガールに発砲しようとしたわよね? 正当防衛じゃないかしら?」 リーダーは傍目に分かるほど汗をかきだした。「ほ……本気じゃねーよな」 「……」 「……わ、分かったよ!! オマエ知ってるか、あの脱走した女の大将。アイツだよ、アイツ!!」 「ノーラ=クラヴィンス?」 「そ、そうそう!! あの女に持ちかけられたハナシなんだよッ!! 作戦はすべてアイツが考える。 実行はオレたちの仕事だ。それで、分け前が3:7だとか言いやがって。 なんかある作戦をするのにカネが 足りネエとかなんとか言ってたけどよ」 「ふうん」 「それと、このハナシをあんたにしたら、分け前ももらえネエんだよ。内緒にしてくれねえかな、 オレの喋ったこと……すりゃムショに入れられても入金はするって契約だったしよ」 「悪いけど、その約束は守れそうにないわね。あなたはこれからノーラの本拠地へ、あの除雪車を運転して 向かって頂戴? もちろん、このバットガールを乗せてね?」 そういうと、バットガールは銃口を こめかみにぐりぐりと押し当てた。 「……畜生、ヤな予感はしてたんだ……」 呟きながら男が微かに微笑むのを、バットガールは見ることが なかった。  ノーラ=クラヴィンスは振り返って時計を見た。計画開始22:30。バットガールの大立ち回りと リーダーの説得に30分で、23:00。そこから除雪車を飛ばして、ここまでが30分で23:30。 現在、23時32分。そう何もかもが予定通りにいくわけが無い。だが、バットガールが私の用意した 快楽の地獄にはまり込む為にここへ来る事だけは、恐ろしい確信を持って言えた。  その時、部屋の窓から灯りが差し込み、徐々に部屋の彼方へと光は動いて、そして消えた。除雪車の ヘッドライトだ。ノーラはクローゼットからスイッチとガスマスクを取り出して、部屋の隅へと消えた。  ドタンッと扉の開く音がして、背の高いリーダーの男が現れた。 「ノーラ、首尾は上々だったよ」 「あら、獲物は手に入れたのかしら」 「ああ、あんたの言うとおり、こんな雪の日は実に楽勝だったよ」 「邪魔は入らなかった?」  すると、リーダーは「邪魔……ねえ……」。そう言いながら、男はゆっくりと前のめりに倒れた。 その瞬間背後からバットガールが現れた。 「バットガール!!」 ノーラは眼を見張った。ああこの一年間、一夜として忘れたことの無い女が 目の前にいる。ノーラは脚元を見た。白いエナメル質のヒール底のブーツ。部屋の暖炉の光を浴びて、 光沢を帯びている。そのブーツの下には、バットガールの機敏な動きを可能にするしなやかで逞しい脚が 有るのだろう……そして、膝から上のビチッとボディーに密着した紫紺のスーツ。光の中で、輝いても 見えるその腿は豊穣な収穫をノーラに約束した。無限に伸縮する腿、それがただ先の見えない快楽の 闇の中でそのための無駄な身悶えに使われるさまを思い浮かべた。そして、少し盛り上がった股間。 今も密着したボディースーツの下でひそやかな皮膚呼吸をし、新陳代謝でいくらか汗の匂いのするだろう 性器の影。今は光沢の中で眠っている。引き締まったウェストを締め付ける白いベルト。やや無造作に 端の飛び出したベルトが拘束している肉体を思った。そのベルトを抜き去り手で摩ってやると、 抑え付けられていたボディーが優しく答えを返すだろう……屈辱の闇の底から。臍でやや中央のへこむ 上半身は、なにより豊満なバストのために、生地は限界まで引き伸ばされ薄くなっていた。光沢は腹筋の つき具合を想像させたが、なにより首元からややはみだしているバストのその膨らみを強調した。 殊に、今はあまり目立たないが乳首の位置を浮き立たせている……これが、無限の陵辱の中で、硬くなり、 やがてスーツを突き破るのではないかというほどに勃つであろう。そして顔。なんと高貴な顔つきであろう。 金髪は染めたものではないだろう、キラキラと輝き、濡れた真紅の唇は引き締まって固く結ばれている。 高い鼻筋。そして真紅のマスクが鼻の上にかかり、耳元へと糸が繋がっている。しかし、ノーラは このマスクを外す気はなかった。彼女に興味があるのはただ、この正義のスーパーヒロイン、 ゴッサムシティーの天使、バットガールというセクシーヒロインのみであった。その意味では、 ノーラはバットガールと共にゲームをしているのだと言えないこともなかった……そう、これがゲームで なくてなんであろうか? ノーラは持てる知のすべてを使ってこのセクシーヒロインの堕ちる過程を 愉しもうとしている。そして、バットガールもまた持てる知と超人並みの運動神経によって罠を回避し、 ノーラを司法の手に委ねようとしている。そしてノーラはバットガールの濡れた瞳を見た。高い睫毛の中で 煌く、高慢でもある挑むような眼差しこそ、底なしの汚辱の中で屈従の潤んだ視線へと替えてやりたいと、 一年間欲望しつづけたものであった。 「久しぶりね、ノーラ。私信をありがとう」 言いながらバットガールは、真紅のグローブをくびれた腰に 手をやり、胸を張った。そのとき、バットガールは私信の内容を思い出し、ノーラがその貪欲な眼差しで 自分=バットガールを幾多の仕方で犯している姿を思い描き、脈拍が高まった。 だが、一方でバットガールはゲームの勝ちを確信していたので、エロティックなコスチュームの 正義の味方が悪女の手の内で身悶える自分の姿の想像にいくらか官能を覚えつつも、 そうならないだろうことも予測できた。 「ちょっと痛いけど、覚悟は良いかしら?」 と身構えるバットガール。 「フフフフフ、アーハハハハハハ。ノーラはポケットからスイッチを出すと、一つ目のボタンを押した。 バットガールが入ってきた後ろの扉が硬く閉ざされた。 「……なんのつもり?」 とバットガール。 「あなた、何も疑問に思わなかったのかしら? 私がさっきの男と交わした会話。 「獲物は手に入れたかしら?」って」 と言いながら、ノーラは二つ目のスイッチを押した。 途端に恐るべき速度で白いガスが部屋の四方八方から噴出して、バットガールを襲った。 「ケホケホ……ケホ……んッ……どこ? ノーラ!……こん……なことで」 「……そう、獲物って言うのは宝石じゃない」 ガスマスクを付けながらノーラ。 「……ケホ……ノー……ラ……ううん」 ズシャーンンン。  約1分で物音がし、そこでノーラはガスを止めた。白い煙が晴れてみると、そこには紫の獲物が 身体を丸めて床の上に横向きに倒れていた。  「官能だわ」 ノーラはマスクを外し、バットガールのノックアウトを眺めた。背中が丸まっており、 真紅のサテン地のマントはやや身体から離れて折り重なっている。バットガールの顔には苦悶の表情が 浮かんでおり、真紅のグローブが首を抑えている。背中が伸びているので、スパンデクスの生地は 尻のところでますます食い込み、左と右とで違うボディーのようなくっきりとした線が走っていた。  「これで、あなたは私のものね」 といいつつ、ノーラがバットガールのわき腹に手を触れたその瞬間。 バットガールは目に見えない速度でノーラの手の下で動き、ノーラの背に回って、その首を スリーパーホールドした。  「……ッ!!……な、なんでッ!!」 かすれた声でノーラ。 「あなたの計画は読めてた。あの強盗は私=バットガールをおびき寄せる罠。そして、現れた私を なんらかの形で倒そうとすれば、ガスを用いることも分かってた。だから、ホラ」  見ると、バットガールが倒れていた跡に、小さなマスクが残されていた。バットガールは横向きに 身体を丸めて倒れたフリをすることで、背の内側に抱えたマスクをノーラの眼から隠していたのだ…… なんという知謀!  「畜生、畜生、畜生!!」 ますます締め付けの苦しくなる中で、ノーラは気が遠ざかるのを感じた。 「ごめんなさいね、あなたとの約束は今回も果たせそうにないわね」 「ちく……しょ……んん」 というとノーラの首ががくりと落ちた。  バットガールが手を離すと、そのまま横ざまにノーラは床に倒れた。 「ノーラ……」 バットガールは彼女の用意したであろう責め手を想像し、その中で白目を剥いてよがる スーパーヒロインとしての自分の姿を思い描いた。だが、それは実現さるべくもない想像であり、 バットガールは自らの暗黒の欲望を押さえ込むと、警察に連絡することを考えた。 除雪車の道々気づいたのは、この近辺に電話は無いこと、有ったとしても、この雪の中ちょっとした距離を 行くのも骨であり、その間に目を覚ましたノーラに逃げられかねないということだ……見ると、 部屋のバットガールの立っているところから近くに置き電話がある。バットガールはそこまで行き、 受話器を手に取ると、ダイヤルを回し始めた。 じーーーーーこッ  「キャアアアアアアアッ!!!!」 その瞬間、バットガールは手にとてつもない衝撃を受けて、 床に崩れ落ちた。  「な……なにが……起き……はあはあ……んッ……た……の?」 朦朧とする意識の中で、 四つんばいで立ち上がろうとするが、身体に力が入らない。立ち上がろうとする都度、身体の重みに 肘が耐え切れずに上半身から崩れ落ちる。 「アアッ!」 そうして何度か絶望的な試みを繰り返しているうちに、気づくと、ノーラ=クラヴィンスが不敵な笑みを 浮かべてバットガールの前に立ちはだかっているのがぼんやりとした視界から窺えた。  「ノー……ラ……はあはあ……これ……は……?」 「アーハハハハハハッ! ぶざまだね、バットガール。ダイヤルを回すと高圧電流が流れるように セットしてあったのさ!! エーッと……午後11時58分。辛うじてバレンタインに間に合ったかしら?」  そういうとノーラは、見上げるバットガールの顎を思い切り蹴り上げた。 「ぐはッ!!!……ウッ」 バットガールは後ろざまにひっくり返って仰向けとなり、苦しそうに もんどりをうった。白のエナメル質のブーツが心細げに脚の動きに合わせて、寝たり起き上がったりする。 ちょうどブーツが立ち、暖炉の火の光を反射したところで、ノーラはバットガールを背中から 抱え起こし、その顔に濡れた布巾を押し当てた。 「私は知ってのとおりフェミニストだから、男にプレゼントするような腐った行事は大嫌いなの…… でもね、バットガール? 好きな人にプレゼントをあげる行事はあってもいいと思うのよ?  今……11時59分ね。ハッピーバレンタイン!!」 「……うぐぐぐううううッ!」 濡れた布巾の内でもがくバットガール。やがて、首を項垂れた。 ノーラが手を離すと、バットガールはそのまま横ざまにぐにゃりと倒れた……。  「くくくくく。バットガール。私の愛を受け入れてくれたようね?」 ノーラは脚で、バットガールの身体を転がした。意識を失っていてもバットガールは優雅に、 ノーラの脚の先で折り重なった身体をゆったりと伸ばしながら、仰向きになった。 「!!とうとう……バットガール」  今やスーパーヒロインはノーラ=クラヴィンスの目の前で、驚くほど無防御にその身体を任せていた。 白いエナメルのブーツ、汗を吸って皮膚にみっちり張り付いた紫のボディースーツ。股間の膨らみを 強調するかのような光沢。身体をきつく締め上げている白革のベルト。乳首がやや立っているのが 窺えるぴっちりと光沢の中でスーツの張り付いた上半身。そして、威厳のある真紅のマスクの中では、 屈従の契約を結んだかのようにその瞳は厚いマブタに覆われ、ほんの少し開いた真紅の唇から無敗の セクシーヒロインは静かな呼吸をしていた。  「バットガール、宴の始まりよ?」 ***後編に続く