平成13年3月23日・初版

バットガール最大の危機・第7章/A(S)・著

キャットウーマンズ プレイ (中編) 闇――小さな大理石の円卓。テーブルの上に置かれたビニル地の黒い手。そして、もう一人の人影。 「布石は敷かれた」 「そうですね」 「慎重な準備――これが重要よ。それを欠いて決定的なところで獲物を逃してしまう」 「質問があるのですが」 「なに?」 「なぜ、あなたはあの女にそんなにも拘泥するのですか」 「……」 「あれほど挙げられる利益に拘って仕事を進めてきたあなたらしくもない」 「……その答えは経済学といえるかしら」 「?」 「ニャーオウ……フフ……まあ良いわ。作戦を進めましょうよ、子猫ちゃん」 「……最後に今日の相場。ドルは対ユーロ前日比マイナス45セント。EU市場で積極的なドル売り、 ユーロ買いの注文が入りました。またそれに併せて、一部の投資家による欧州企業株の積極的な売買が 進められた模様です――それでは今夜のニュースを終わります。ダン=ラザーがお送りしました……」 パチンッ 午後十一時。テレビを消したバットガールは伸びをして、パトロールに出かける準備を始めた。 マンション地下の隅の階段を下り、その先の一室にバットガールのバイクが止められている。キーを挿し、 エンジン音を響かせると、そのまま部屋を出て左に曲がった先にある坂を登る。マンションの裏に出て 繁華街へと消える。 春の始まり。肌寒くはあるが薄着でも我慢できる暖かさだ。月夜の光がバイクに跨ったバットガールの身体の ラインを照らし出す。白いエナメル質のロングブーツ、腰掛けると強調されるヒップの暴力的な丸み。 そしてウェストを締める白い皮ベルトは紫紺のボディースーツに欠かすことの出来ないアクセントだ。そして、 スーツをこぼれそうな胸の膨らみ、顔は金髪が風に靡き、真紅のマスクの下の目が周囲に気を配っている。 引き締められた口元とそれを縁取る濡れた紅の口紅。そして、赤いサテン地のマントが風に舞い、 スーパーヒロインの決意をこれ以上なく明らかにする。信号で横に止まったドライバーは例外なく、 マントの隙間から時折見られるセクシーヒロインのコスチュームの尻の切れ込みと、両側を走る光沢に 見とれていた。  バットガールは物思いにふけっていた。先日の誘拐事件での麻酔銃による襲撃――あれが相当な腕前の 持ち主によるものであろうこと、そしてあのような場に居合わせることの出来る嗅覚を持つ者。 バットガールの頭が弾き出した答えはただ一人だった。そして、ノーラ=クラヴィンスを殺害し当局を 警戒させた彼女が今や本格的に動き始めていること――更に、その標的がバットガール自身であることも 分かった。バットガールとキャットウーマン……その格闘の腕前は互角とも言えた。しかし、バットガールは キャットの罠に落ち、屈辱的な拷問を身に受けたこともある。首をしめられながら、ボディースーツの 上からとはいえ、スーパーヒロインのもっとも敏感なところを適切に責められ、乳首を突き立たせ、 コスチュームを濡らして、バットガールは死と絶頂の寸前に追いやられたのである。キャットウーマンが 本格的に動き出したとなれば、あらゆる策謀を用いて彼女を罠に落とそうとするだろう。また屈辱的な責めを 受けるのだろうか。  細く暗い横道に入った時のことだ。  ズキューンッ  乾いた物音が響くとともに、バットガールの腕に痛みが走った。ふと目を向けると、右腕のボディースーツに 穴が開き、そこから赤い血がにじみ出ている。自分を撃った方角を見ると、人影が廃アパートの隅に見えた。 切れかけた街灯の白い灯りがその一帯をぼんやりと照らしている――更に仔細に目を向けようとして、 再びバットガールは視界が揺らぐのを感じた。口径の小さな麻酔弾? (っ……なんてことなの……敵はわたし……バットガールの……パトロールコースまで……把握してる……と ……いうの……くふう)  バットガールの身体はバイクの上で少し揺れると、そのまま右肩からスローモーションで崩れ、バイクと ともにアスファルトの上に初めに横に倒れ、それからゆっくりと仰向きになった。 (いけ……ない……あいつは……まだ……わたしを狙っている……はあはあ)  切れかけた街灯がバットガールの動きを照らし出す。バットガールは身を捩ってうつ伏せになり、 手をつき脚をついて立とうとする。伸びやかに後ろに突き出された脚を光沢がスッと走る。が、手が体を 支えず、そのまま前のめりになる。 「あっ……ううん」  苦しそうにうめき頭を振ると、金髪のショートヘアも動く。それから手をつき、身を起こすと、 ようやくに立ち上がり、襲撃の方向を見た。男が二十メートル先の物陰から黒い筒を突き出して、 バットガールに照準を定めている。バットガールは右腕を抑えながら、膝をつき、そのまま横に倒れて ぐるりと身体を回転させて近くのブロック塀へ身を隠した。ダイナミックに転がる尻と脚の裏側を光沢が つややかに滑る。 ズキューンッ 間一髪、身を隠したブロックの端で火花が散る。隠れたブロックの先で尻をつき、前かがみに荒い息を つくバットガール。背中が街灯の明かりの下で上下する。それから、身を捩って塀の影から敵の姿を見る。 相手も顔を半分出してこちらを伺う。 距離をいかに縮めるか……二十メートル。今のバットガールの身体では、全身を撃ち抜かれて敵の慰みものに なるのがオチだろう。だが、このままじっとしているわけには…… 「っ!!」  不意に身体が熱くなってきたのを感じた。撃たれた腕の先から脈を打つたびに、身体が少しずつ熱くなってくる。 身体中を擦りつけるスパンデクス地がバットガールの神経を敏感にする。 「……っ……これは催淫効果……まずいわ……ね」  少し身体を動かすと、股の生地の肌触りがスーパーヒロインの感官に襲いかかる。視界がぼんやりとする。 立ち上がろうとバットガールが腰を上げると、股のボディースーツが後ろへと擦れる。 「ッ……うっ……んん」  腰をビクリと震わせて、座り込む。 「バットガールさんようっ!!」  男が物陰から声をかける。 「薬の効き目はどうだいっ……そろそろ視界がぼんやりしてきた頃だろ」 「……」  バットガールは定まらない視点をはっきりさせようと首を振った。 「それからっ……乳首も硬くなってるんじゃねぇのか」  「……」  白い灯りが光沢を滑らせる。既にかたくなな乳首が胸の回りの生地を引きつらせている。上半身を動かすと、 乳首が上へ下へボディースーツに併せて、擦られて引きずられる摩擦の感触がある。その都度、バットガールは 耐えかねたように鼻音混じりの声をあげる。バットガールは尻をついている状態から、中腰の姿勢に変えようとした。 腰を浮かせかけて、生地の感触に襲われて後ろから尻をついてしまう。 ズシャッ 自らのコスチュームが敵になるとは。そのまま塀に背を持たせかけた。 「なんか地面を滑る音が聞こえたぞっ……もう立ち上がれないほどなのかっ」  闇をつんざく声。 「そん……な……こと……ないわっ……ん」  「くくく。相当効いてるみたいじゃねーかっ……声がかすれてるぜっ」 「っ!……」  いつしか、バットガールの手は突き立った自身の乳首をボディースーツの上から苛め始めていた。 くうんっと切なげな鼻音を立てつつ、理性はそれを押しとめようとする。 ズシャッ しばらくの後、また地面を滑る音が男に聞こえた。見ると、バットガールの真紅のシルクのグローブが 塀の先から伸びている。指先は半ば開き閉じている。男は行動を開始し、アパートの延び放題の植え込みを つっきり、銃を構えながら一気に距離を縮めた。そして、塀の先を見た。 「ッ!!」  枝を差し込まれたグローブが白い明かりの中で転がっているのみ……上ッ!?……素早く上を向く…… 塀の上のセクシーヒロイン……すらりと狭い足場に立ち、腕を組んでいる。白い光沢が伸びやかな脚を すらりとみせ、セクシーなヒップのラインを滑る。そして、その右グローブは剥がされ、白い素肌を見せていた。 しなやかで逞しい腕。見る見る間に、塀を跳び降りたスーパーヒロインがその腕を狙撃手の首に巻きつけた。 「チッ、そういうことか」  巻きつけられた右腕の先を見ると、右手小指の先から赤い細い筋が爪から関節へと下りていく。 「フフ……思いっきり指を噛んだから出血しちゃったわよ……それより……あなた、なにが目的」 「くくく……リュップマン家の娘のことは知ってるよなあ」 「!」 「そうさ、ジェニファー=リュップマン……あんたがこの前助けてやった娘さ……可愛いよなあ、あの子は」 「あの子をどうしたのっ」  バットガールは首をしめたまま男の頭を揺さぶった。 「ぐうっ……そ、そう慌てなさんなって……キャットウーマンがその子とお話しがしたいんだとよ、 ゴッサム郊外の古城に二人はいるよ……ケケケ……キャットさんは小娘がお好きだからなあ」 「そう……あなたにはしばらく眠っていてもらうわ」 「ケケ……それには及ばねえさ」  と呟くと、男は奥歯を深く噛んだ。 「ッ……あなた!!」  バットガールは首にかけていた腕を放し、男と正面から向き合う。 「ククク……あんたは既にキャットウーマンの罠に落ちたのさ……地獄に落ちるが良いや……」  口の端からどろりと濃い赤い血を流し、男はバットガールの腕の中へもたれかかるように絶命した。 ゴッサムシティーの変わり者の富豪が戦前に建てた古城は一時期はホテルとして、一時期はテーマパークとしても 用いられたが、現在は国有化されている。しかし、夜は開いていないはずだ。寒寒とした月が古城の前の湖に 映っている。バットガールがその先の古城を見ていると、跳ね橋がするすると下りてきて、バットガールの いる岸にかかった。 「これを渡って来いってことかしら……あんまり、感じのいい歓迎とは言えないわね」  バットガールは強がるように微笑むと、胸を張り、気を配りながら橋を渡った。かがり火が門の両側で 輝いていた。敷き詰められた赤い絨毯がバットガールの行く手に有り、それが幾多の部屋の先の大きな扉へと 続いている。その扉は僅かに開かれ、明かりが漏れている。 「あちらへ行けってことかしら」 気をつけて回廊を進む。両脇のいくつもの銅像と絵画。そして、扉の前に着いたとき、内側から外へと重い扉は 僅かずつ開かれたのである。 ギギーッ 広いホール。真正面に巨大なジョコンダ家の女の複製画がかかっている。その謎めいた微笑みに呼応するように、 絵の前にはすらりと背の高い、濃い赤のリップをした絶世の美女が右腕をくみ、左腕の先の爪を舐めながら 立っていた。淫靡な笑みを浮かべている。何より目を引くのは身体をびしりと包み込むビニル地の 黒いボディースーツである。呼吸するたびに身体中を光が蠢く。そして常人には歩くのも困難であろう高い ヒール底のブーツ――だが、バットガールの目の前にいる女はそれを履いて高速で舞踏を見せるだろう ――生贄に捧げられる舞踏を。 バットガールは真紅のグローブで包まれた両腕を腰にあて、尻をぐいっと引き、胸を引き、控えめな笑みを 浮かべながら言った。 「いつもは卑劣なキャットウーマンらしくないわね。この前みたいに卑劣な罠でわたしを陥れようとするのかと 思ったけれど」 「ニャーーーオウッ……ククク……あなたと一度サシで闘ってみたかった、それだけさ。あなたを地獄で いたぶるのは……それからでも遅くないだろう?」 そういうと、キャットウーマンは前かがみとなってファイティングポーズをとり、ゆっくりと時計回りに バットガールへと距離を縮めていった。 「そううまくいくかしら?」  バットガールは左腕を腰に、右腕でキャットウーマンを指差して答えた後に、キャットウーマンが 五メートルまで近づいたところで、前かがみに同じ方向へ回り始めた。両者は一対となって円を描き始める。 キャットウーマンは回りながらにやりと微笑むと、右手の中指に嵌められた4カラットのダイヤをちらつかせた。 幾重もの増幅された輝きが、バットガールの右目を正確に捉えた。眉根を寄せたバットガールの脚が止まる。 キャットウーマンはその機を逃さず、一気に間合いを詰めると、スーパーヒロインへタックルを食らわせた。 「っぐう!」  ズシャーーーッ  うめきながらバットガールは後ろへと吹き飛ばされ、大理石の壁に背中をしこたまぶつける。ゆっくりと前に 手をつけ前かがみになると、バットガールは苦しげに荒い息をつく。そこへ空中へと高く舞い上がった キャットウーマンが跳びげりを決めるべく、急角度に舞い降りたがすんでのところでバットガールは身体を かわし、素早く尻を上げ、どうにかファイティングポーズに復帰した。再び二匹の女豹は互いを付けねらう 死の円弧を描き始める。 次の仕掛けはバットガールであった。赤々と輝く暖炉を背にしたバットガールは素早く右へと動いた。 キャットウーマンが暖炉の輝きに一瞬気をとられている隙に、バットガールの身体は真紅のマントに身を 隠しながら大きく伸び上がり、キャットウーマンの前へ着地。その輝くマントから伸びやかな脚と 白いロングブーツとが恐るべき速度で繰り出され、キャットの腹部へ蹴りを決めた。 軽く右、そして左、また右、左。キャットウーマンはその都度苦しげに顔をゆがめるが、最後に重量級の 右脚での蹴りが決まると、キャットウーマンは後ろへと吹き飛ばされ、尻餅をついた。 しばらく立ち上がれないでいるところへ、バットガールはつめより、膝をついてその腹部へとパンチを 下そうとするが、その瞬間キャットウーマンの右腕が素早くひらめくと、腕に鋭い痛みが走った。  「ッ!!」  見ると、バットガールの右腕グローブに引っかき傷が走り、その内側で流血している。その隙にキャットウーマンは 寝たままの姿勢で、立てひざのヒロインの腹に蹴りを放ち、向こう側へ尻餅をつかせた。素早く起き上がった バットガールだったが、目の前にキャットウーマンはいない。その瞬間、背中に鋭い痛みが走る。  「ッうっ!!」  四つんばいで身を捩って背中を見上げると、大きく笑ったキャットウーマンが爪あとの走ったバットガール自身の 真紅のマントを手に持っている。  「ニャーオウッ!」  更に踏み込んだキャットウーマンは爪をひらめかせる。  「っああ!」  顔を上げ低い声をあげるバットガール。背中に鋭い爪で引っかき傷をつけられる。  「ニャーオウッ!」  「っあああ!」  再び傷をつけられ、声をあげるバットガール。苦しげに眉根を寄せる。  更にキャットが爪を一閃させようとした瞬間に、バットガールは低く身をかがめそれをかわし、 その姿勢から後ろへ脚払いを食らわせ、キャットウーマンを倒れさせた。両者睨みあいつつゆっくりと 立ち上がる。三度、死の円弧が描かれる。  どちらともなく近づき、がっぷりと組み合う。どちらも相手の上に立とうとして、肩にかけた腕に力を こめる。バットガールの額に汗が浮かぶ。キャットウーマンが力でやや上回り、バットガールの肩を力ずくで 押し下げ、背中から抱え込んで頭から地面にたたきつけようと試みる……が、その瞬間に、バットガールが 高速の脚払いを食らわせ、キャットウーマンは膝をつく。肩にかけられていたキャットの腕をとり、 バットガールはそれに脚を絡め、相手もろとも床に倒れる。気づけば、腕ひしぎの関節技の態勢に入った。  「っにゃーおうっ!!……ぐうっ!」  苦しげに身を捩るキャットウーマン。そのたびに、バットガールは絡めた足に力をこめ、腕を持ったまま 背を伸ばす。  「っぎいいい……ニャーーーーオウッ!!」  骨がきしむ音を立てる腕。キャットウーマンが歯を食いしばる。  バットガールは静かに言う。  「いいの? キャットウーマン。降伏しないと、腕が折れるわよ」  「っ!!バットガール……バットガール……ニャーオウッ!」  「どうするの」  「ククク……もう一方の腕がノーマークだよ」  キャットウーマンは背中に挿していた黒い柄の鞭を取り出し、その柄をバットガールの膝頭に近づけた。  バチッ!  「っアアア!」  火花が柄から散り、紫紺のボディースーツをわずかに焦がした。バットガールは腕を放し、素早く転がって 距離を離そうとする……転がるたびに豊満なボディーをスーツの上から光沢が走る。が、腕を離された キャットウーマンが一足早く立ち回り、よろめきながら立ち上がるバットガールの腹に渾身の拳を叩き込んだ。 引き締まった腹を抑え前かがみにうめくバットガール。  「っぐう!……ん」 透明な唾液が口の端に僅かに浮かぶ。前かがみになったところへ、キャットウーマンの合わせた両手が背中へ落とされる。 ズッシーーンッ 「っうう……うっ!」  腹を抑えたまま両膝をつくバットガール。その後頭部へキャットウーマンの旋風脚が入る。 「っ……ぐう!」  頭がしびれ、ものを考えられないまま、まっすぐうつ伏せに沈み込むバットガール。 「ううん……ん」  両腕をどうにかついて身を起こすが、マスクの下からおぼろげな目つきで敵を見上げるのみである。 焦点の定まらないその目は、キャットウーマンの攻撃を呼び寄せているようなものだった。 「死になッ」  キャットウーマンが後ろ向きから腰のヒネリをくわえた回し蹴りを可憐な獲物の後頭部へと決めた。 「っはぐうっ……ん」  後頭部に閃光が走り、バットガールはそのまま前へと崩れ落ちた。キャットウーマンは脚で、バットガールの 横腹を救い上げた。ゆっくりとスーパーヒロインの身体が持ち上がり、逆のほうへ転がり仰向けになる。 「ううん……んん」  苦しげなかすれたうめき声をあげたバットガールの目は閉じている。キャットウーマンはその腹に拳を 叩き込む。 「ぐうっ!!……ううっ!」  上半身と脚とが同時に少し浮き上がる。そこへキャットウーマンは余韻を愉しむように拳をめり込ませる。 ボディースーツの上から鍛え上げられた腹筋を分け入るように拳が沈み込む。鈍い痛み。 スーパーヒロインの顔が歪んだ。拳が離れると、バットガールはたまりかねたように、身を捩って一度転がった。 「とどめよ……バットガール」  キャットウーマンはスタンガンになっている鞭の柄の先を、仰向けに倒れているスーパーヒロインの腹へと 近づけた。その瞬間、バットガールが身体を捻って柄を逃れ、頭の後ろに手をつき、それを支点にして ブリッヂをするように身を起こした。 まだふらついていたが、四たびのにらみ合いになった。キャットウーマンは失笑しながら首を振った。 「ニャーオウッ……あんまり疲れるとあとの饗宴に差し支えるわね」  そういうと、キャッチウーマンは交互に足を上げ、それぞれのヒール底を手で素早く折った。 それからまたすり足で旋回を始めた。  シュールルシュールリ……  床にキャットウーマンのヒールの折れた靴底が擦れる音が響く。  「ッ!?」  バットガールの耳元でものを引っかくような音が響き、それが頭の内側に入り込んで脳を締め付けるような 痛みが走る。余りの痛さに、目の前が見えなくなる。  「ううっ……うっ……頭が……痛い…………ううっ」  頭を抑え、苦しげに揺さぶり、ゆっくりと右膝をつくスーパーヒロイン。その背後で、足を床に滑らせながら 黒い鞭をピシンッピシンッとしならせていたキャットウーマンは素早く、バットガールの背中へと鞭を当てた。  ピシャッ  激しく鞭の先が、バットガールの背中の素肌にぶつけられる乾いた音が響く。  「っ……ああっ!!」  背中には赤い鞭の跡。両膝をついて身を捩るバットガール。  「くくく……バットガール」  脚を床に擦り合わせながら、再び鞭を振りかぶる。  ピシャーーッ  激しく鞭がそのスーパーヒロインの素肌にぶつかる。  「っ……くっ!!」  顎を突き上げ、低い苦悶の声を漏らすバットガール。  ピシャーーッ!  「っ……うんっ!!」  そして、頭を抑えながら前のめりにバットガールは沈み込んだ。尻だけが浮かぶ形になっており、 そのボディースーツの食い込んだ尻が背中への鞭を充てられるたびに苦しげにくねって、光沢を滑らせる。  ピシャーーンンッ  「っあうううっ!」  床の上で身をくねらせるバットガール。尻の食い込みが動く。  「アハハハ……このブーツの底はね、絨毯地と接触するとある周波数の音を出すようになってるの」  と言って、更に振り上げた鞭を閃かせた。  ピシャーーーンンッ  「んあっ……んん!」  バットガールの身が一瞬反り返り、音を立ててまた沈み込む。少しずつ鞭の音が大きくなり、バットガールの 身悶えが大きくなる。また食い込みが動いた。すり足をしつつ間合いをつめながら、キャットウーマンは 鞭を閃かせる。今度は鞭が生き物のようにセクシーヒロインの白く細い首に巻きつき、それを締め上げた。 締め上げると同時に、バットガールの頭は後ろへ仰け反らせられた。  「んんっ!」  真紅の仮面の中で目が堅くつぶられる。眉根が苦しげに寄せられ、赤い濡れた唇の端がひくつく。 無理な姿勢で後ろ肩の筋肉は大きく隆起している。キャットウーマンは後ろからバットガールの背中に 馬乗りになり、首をしめる鞭をそのまま確保しながら、片方の手で、バットガールの腹に手を入れ、 ウェストの白いベルトをごそごそとさわり、その留め金を外し、しゅるしゅると一気に抜き去った。 今やキャットウーマンの片手には誇らしげにバットガールのシンボルでもある白いバットベルトが握られている。 かつては紫紺のボディースーツのアクセントであったベルトが失われ、バットガールの全身はタイトな ボディースーツになってしまった。  キャットウーマンはそのバットベルトを鞭代わりにその華麗な獲物の首に巻きつけ、同じように締め上げた。  「ぐうううっ……ううっ!」  苦しげに顔をゆがめ、低い声をあげるスーパーヒロイン。身体はますます無理な形でそり返されている。  「ニヤーオウッ……どうバットガール。自分のバットベルトで首を締め上げられるご気分は?……ククク」  白く太いバットベルト。皮製であり、光沢を放っている。それがスーパーヒロインの首に巻きつけられ、 彼女をますます地獄の淵へと陥れようとしている。  「ううんっ……んんんっ!」  苦しげに身を捩らせるバットガールの唇の端から一筋の透明な唾液が糸を引いて床へと零れ落ちた。 頭が朦朧とし、考えが定まらない。くわえて、先ほど身に受けた催淫弾の名残が深く頭に刻まれる脈拍の 音とともに、身体に蘇ってくる……このままでは負けて気を失い、キャットウーマンが用意した スーパーヒロインである自分のための無数の責め手の全てを浴びることになってしまう。きっと廃人になるほどの 罠が待ち受けているのだろう……それにはまりこむ無敵のスーパーヒロイン……。  キャットウーマンは首をしめる手を緩めることなく、バットベルトからスタンガンを取り出した。 やや細い筒状のそれでバットガールの背中を滑らせ、尻を撫でまわす。  「ククク……ニャーオウッ……自分の武器で気を失うのはどうだい?」   「ぐぐぐっ……うんんっ!」  スーパーヒロインのベルトにかけていた手の力が弱まり、やがてぶらんと弛緩する。  「地獄におちなっ」  とスイッチにかけた指に力を入れかけた時。  「んんっ……トーォウッ!!」  バットガールの身体が大きく反り返り、縄の拘束を逃れると、弛緩したと思われた腕をふんばって脚を 後ろにロケットのように突き出して、馬乗りになるキャットウーマンを蹴り飛ばした。そのまま素早く脚を 引き寄せると、さっと立ち上がり、蹴り飛ばされて朦朧としているキャットウーマンの頭へ踵落しを決めた。  ズシャーーーンッ  「ぐはっ!」  座ったまま右へと崩れるように倒れるキャットウーマン。バットガールはその手からスタンガンを採りあげ、 その首筋に当てる。  「あなたから先に武器を使ったんだからね……キャットウーマン?」  微笑むと、バットガールはスイッチを入れた。  「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」  断末魔の悲鳴をあげ、キャットウーマンは気絶した。細かく痙攣している。  「わたしの首をしめるのに夢中で、音を出すのがお留守になってたわね……フフ……しばらく眠っていて頂戴?」  バットガールはバットベルトを取り上げ、そこから二組の手錠を取り出し、両足と両腕とを拘束した。 そして、バットベルトを腰に巻きつけ、マントを拾い上げて肩につけ、ポーズを決めた。  「バットガール危機一髪ってところかしら?」  「ジェニー?」  二階の奥まった暗い小部屋に、彼女はいた。  「バットガール様ぁ」  椅子に縛られていたジェニファー=リュップマン。無事そうだ。縄を解いてやりながらほっとするバットガールの 胸元へ泣きながら抱きつくジェニー。  「もう大丈夫よ」  バットガールは微笑んで頭を撫でてやる。  「キャットウーマンは?」  恐れ恐れ顔を見上げるジェニー。部屋を出るよう手を引っ張って促しながら、バットガールは優しく答える。  「お姉さんが倒したわよ。危なかったけどね」   「えっ、危なかったって? お姉さん怪我しなかった?」  「……大丈夫よ。ありがとう、心配してくれているのね」  「うん。大丈夫なんだね!?……じゃ、じゃあ」  と、尊敬するスーパーヒロインの無事を確認すると、途端にその冒険談を聞きたそうにする無邪気なジェニー。  「キャットウーマンはどんな卑劣な手を使ってきたの!?」  「ウフフ……変な音を出してね、お姉さんを苦しめたのよ」  「変な音?」  「そう、変な……頭の痛くなる音」  「そう……それって」  と言いながらジェニーの歩き方が少し緩やかになった。  シュールルシュールリ……  「ううっ……」  頭を抑え始めるバットガール。  「それってお姉さん……こんな音かなあ?」  淫靡に微笑むと、十一歳になったばかりのジェニファーが苦しむバットガールの仮面の奥を覗き込みながら 冷徹に告げる。  「ンあっ……あ……頭が……ジェニー?」  両膝ががくんと折れて、やがて前へと沈み込み床でのたうつスーパーヒロイン。  シュールルシュールリ……更に脚の動きを早めるジェニー。  「うぐうっ……イ……痛いっ……ジェニー……どうしてっ!……あああっ」  更に苦しげに身悶えるセクシーヒロイン。眉根は寄せられ、硬く目はつぶられ、身体は紅のボディースーツの 下で小刻みに痙攣しだしている。脚がうごくほど尻の切れ込みは深く入り込む。  「ウフフ……お姉さん……苦しい?」  ポケットから濡れたハンカチを出しながら、床の上で苦しむバットガールの鍛え上げられた腹をジェニーは 脚で踏みつける。脚がボディースーツの中へめり込む。さっと脚を離し、また床の上に擦りつけながら、 ジェニーはハンカチをバットガールの口に押し当てた。  「っ……うぐぐぅ……うんんんん!」  金髪を振り乱して抵抗するが、体に力の入らないスーパーヒロインはそれを振り払えない。バットガールの 身体の動作が少しずつ緩やかになっていく。そして、ぴたりと止んだ。それから一分間、ジェニーは鼻歌を 口ずさみながら、念のためにスーパーヒロインの口をふさいだ。  そこへ、一階から部下の男に両側から支えられながら、キャットウーマンがやってきた。  「まさかあなたを本当に使うことになるとはね……子猫ちゃん……わたしが回復するまでその女で自由に遊びなさい?」  「ありがたき幸せですわ」 後編に続く。